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第130話 王都

 出会い頭にリディアから不穏な事を言われ、扉を開いたまま硬直する。


「……デミトリ、すまないが中に入れてくれないか?」

「……ああ……」


 ニルの言葉で何とか正気を取り戻し、二人を部屋の中に招いた。


 座る場所が足りなかったので空になった器を収納鞄に仕舞い、ニルとリディアにはソファに座ってもらいヴァネッサと一緒にベッドに腰を掛けた。


「ひっひ、何を食べてたんだい?」

「リディア氏、世間話をしている暇は――」

「相変わらず堅物だねぇ。そんな無体な事言うなら私は帰るよぉ、ひっひっひ」


 我が物顔でソファで寛ぎながら、リディアがニルに毒を吐く。


 なぜリディアがいるのか未だに分からないが、どうやらニルとリディアは相性が悪いらしい。眉間に皺を寄せたニルがこちらを見て頷いたので、リディアの質問に答える。


「……氷菓子を食べていた」

「ひっひ、まだあるかい?」


 ――収納鞄に鍋ごと残ったアイスを仕舞ったから、あるにはあるが……


「すみません、全部食べてしまって」

「ひっひっひ、食べてみたかったけど残念だねぇ」


 リディアの質問に間髪入れずヴァネッサが答えてしまったので、口を噤む。


 ――相当甘味が好きなんだな……まだ材料は残っているが、定期的に作ってもいいかもしれない。


「ひっひ、氷菓子なんてメリシアじゃ珍しい。少なくともこの辺じゃ売ってないんじゃないのかい?」


 氷魔法については、リディアはおろかニルすら俺が使えるようになったのを知らないはずだ。王家の影に所属するなら、ニルには今後共有する機会があるかもしれないが……別にリディアには開示する必要がないはずだ。


 ――氷菓子と答えてしまったのは、うかつだった……別にリディアと敵対する予定はない。話しても良いのかもしれないが、どこで情報が漏れるか分からない以上手札はなるべく隠したい。


「氷魔法まで使えるようになるなんて、順調に神呪と付き合えてるみたいだねぇ、ひっひっひ」

「リディア氏、そろそろ……」


 氷魔法を習得したことをあっさりと言い当てられ愕然としていると、痺れを切らしたニルが会話を遮った。不服そうな顔で、リディアがニルを睨む。


「ひっひ、せっかちな男は女房に逃げられるよぉ」

「……さんざん結婚する前も忠告して頂きましたが、恋人だった頃も逃げられなかったので余計なお世話です」


 お互いに睨み合い、視線で火花を散らしながらリディアが立ち上がる。


「ひっひっひ、このたわけのせいで気分が削がれたけど王家からのお願いだからねぇ。ちゃっちゃと終わらせるよ」

「ちょっ―― リディア氏!」


 リディアが何かしらの魔法を発動し、俺とヴァネッサとニルが光に包まれる。咄嗟にヴァネッサの手を掴み身体強化を発動する。


「坊や、魔力もそうだけど特に呪力は込められる思いが大事だよぉ。頑張りなさい、ひっひっひ」


 逃げる間もなくリディアの魔法が発動し終わると、腰を掛けていたベッドが消えた。


「痛っ!」


 一緒に尻餅をついたヴァネッサは身体強化を発動していなかった。すぐに安否を確認したが、少し痛がっているだけで柔らかい土の上だったため大きな怪我がなく安心する。


 ――柔らかい土?


 違和感を覚えて周囲を見渡すと、いつの間にか見知らぬ森の中に居た。


「あの婆!!」


 怒り狂った様子のニルと視線が合う。気まずそうにしながら咳払いをして、ニルは立ち上がってから土を服から払い始めた。


「……既に知っていると思うが、リディア氏は元々宮廷魔術士だ。希少な転移魔法の使い手で、今回……協力してもらった」


 ヴァネッサと共に立ち上がり、お互いニルに倣って服に付いた土を払い落す。


「ここは……?」

「……王城の庭園近くの森の中だ」

「……嘘だろう」

「本当だ……」


 ――本当にここは王都なのか……? それより……


「王城の敷地内に人を転移させられる魔法を使える人間が、よく宮廷魔術士を辞する事が出来たな……?」

「色々あったんだ……彼女の実力だけは本物だ。リディア氏はおし……」

「「おし?」」

「惜しまれ……ながら、辞められた」


 苦虫を嚙み潰したような顔をして言葉に詰まりながらニルがそう吐き捨てた。言葉の端々から、言ってることが本心ではないのが伝わってくる。


 ――リディアはかなり自由人の印象を受けたが……本当に相性が悪かったんだろうな。


「あの、私が魅了魔法をある程度制御できる様になるまで王都に連れて行けないって言ってましたよね? まだ完全に制御できてる訳じゃないのに、王城に来ちゃって大丈夫なんですか……?」

「……王家からリディア氏に依頼したのは、二人を王都まで転移させる事だ。転移先を王城の敷地内にしたのは、私に対する嫌がらせ―― リディア氏なりの配慮だろう」


 ヴァネッサの問いかけに笑顔で答えているが、ニルは額に青筋を立てている。


「すまないが、ここで待っていてくれないか? 二人の事を報告してから改めて迎えに来る」

「分かった」


 返事をすると、ニルが森の中へと駆けて行った。


 ヴァネッサと二人きりになり、静かな森の中で立ち尽くす。月光が木々の間から差す影が、風と合わせて暗い地面の上で波打つ光景を眺めながら先程の魔法について考える。


 ――転移の魔法か……

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― 新着の感想 ―
ニルさん、これはもしや、前に話に出た、魅了持ちの王子様でしたか? 今頃になってその可能性に気付くとは、私は鈍いです。
>「すみません、全部食べてしまって」 >「ひっひっひ、食べてみたかったけど残念だねぇ」 >リディアの質問に間髪入れずヴァネッサが答えてしまったので、口を噤む。 仕事だったとはいえ、違法奴隷から解放し…
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