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第128話 行動原理

「目の前に借金奴隷に堕ちそうな人間がいて、助けられる術を持っていた。奴隷に関しては、恐らく前世の価値観と……カテリナ達の件もあって強い忌避感がある。あのまま見捨てることもできたが、そうしたら気分が悪いと思った。多分……助けた理由なんてそれだけなんだろうな」


 ――我ながら自分勝手だな。要するに、理由次第では助けられる人間も見捨てるという事だ。


 ヴァネッサの瞳には、明確な不安が宿っている。


「私も……無理のない範囲なら人助けをしても良いと思う。でもデミトリ自身が困る様な人助けは、しちゃだめだよ?」

「それはないから大丈夫だ。あの魔石は収納鞄の肥やしになっていた。騙されていたとしても、手放してそれほど痛手にならないのが大きかった……仮に、助ける代わりに自分が窮地に陥る様な状況なら見捨てていたと思う」

「……本当にそう? 騎士を救うために、命懸けでクラッグ・エイプと戦ったって言ってたよね?」


 何故か魔力が揺らいでいるヴァネッサを安心させるために、出来るだけ軽く返事する。


「あれは顔見知りだったからそうしただけだ、流石に知らない人間だったら命を懸けてまで戦わない。モイセスを助けたからと言って、これから財産を全て投げうって借金に困っている見ず知らずの冒険者を助けて回るつもりもない」


 ――手の届く範囲で優先順位を付けながら、心の平穏を保ちたいだけだ。物語の主人公みたいな自己犠牲の精神がないから、加護も授けずに転生させられたのかもな……


「俺は自分の気持ちを優先して行動しているだけで、誰にでも手を差し伸べる高尚な考えを持ち合わせているわけではない。結局、自分が一番可愛い偽善者って事だな」


 魔力の揺らぎは収まったが、考え込んでしまったヴァネッサに声を掛ける。


「大丈夫か……?」

「……大丈夫」

「それじゃあ、そろそろ宿に帰ろうか」





 ――――――――





 本屋で買った火魔法の入門書を読む振りをしながら、デミトリの様子を伺う。アイスを作る為に習得したての氷魔法を操る練習をしてる彼を見ていると……心がざわつく。


 ――……普通は赤の他人のためにあんな事しないし、顔見知り程度の人のために命なんて懸けない……


 デミトリは、自分が考えている以上に絆され易い。


 出会ってから数日しか経ってない私を、自分の自由を犠牲にしてでも守ろうとしているのがその証拠だ。本人に聞けば、犠牲になっているつもりはないって否定するだろうけど。


 ――優先順位は付けてるみたいだけど……有象無象を助けるために、死んだりしないよね? そんな事したら……約束を守れないよ?


 視線を落とし、開いたままの火魔法の入門書を凝視する。


 ――ずっと一緒にいるって約束したよね……? 死んだら許さない……死なせない。


 今まで感情のまま暴れさせていた魔力を、従えるという強い意志で掌握した。デミトリも、魔力の揺らぎを感じていない様子で氷魔法の練習を続けている。


 ――……私には力が足りない。デミトリを守って、約束を守ってもらえるだけでいい。それを実現する力……知り合いが増えたら、それだけデミトリが危険な目に遭う可能性が上がる……いっその事、殺――


「デミトリ、ヴァネッサ、居るか?」

「ああ、少し片付けてから裏庭に向かうから先に向かっててもらえるか?」

「分かった」


 ドア越しにニルと会話し終えたデミトリが、こちらに寄ってくる。


「氷球をシャワー室で片付けてくる、ヴァネッサも準備が出来たら裏庭に行こう」

「……うん」





 ――――――――





「昨日も成長速度に驚いたが……一体どうしたんだ? 非常時にも制御を保てるか確認する必要はあるが、もう魔力制御については合格点を出してもよさそうだ」


 ニルがヴァネッサの指導をしながら唸る。


 ――そういえば、今日の指導中は一度もヴァネッサの魔力の揺らぎを感じなかったな。


「……私も出来れば急かしたくはないんだが……魔法を制御できることが確認でき次第、魅了魔法の使い手は王都に連れて行き保護する決まりになっている……」


 こちらに背を向けてヴァネッサを指導していたニルが、話ながらその場を少し離れて俺とヴァネッサを見据えた。


「私からの誘いについて、考えは纏まったか?」


 毅然とした佇まいだが、よく見るとニルの視線は俺ともヴァネッサとも合っていなかった。どこか遠くを見つめながら、ゆっくりと呼吸を繰り返している。


 ――どうしたんだ……?


「王家の影になります」

「俺も、王家の影になる」


 ヴァネッサに続きそう宣言すると、ニルが姿勢を崩しいつもの調子に戻った。


「決断してくれてありがとう……簡単な決断ではなかったのは私も良く分かっている。まさか逆の立場になる日が来るとは思っていなくて、年甲斐もなく緊張してしまったよ」

「逆の立場?」

「私も、魅了魔法の使い手だと気づかれた後……当時まだ恋人だった妻と一緒に王家の影になった。最悪の結末にならなくて、良かった」


 力なく笑うニルの顔から、相当な心労を抱えていたのが伝わってくる。


「ニルさんの奥様も、王家の影に所属してるんですか?」

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下におなじくヤンデレメンヘラ女怖い この子ヒロインなの?
>「私も……無理のない範囲なら人助けをしても良いと思う。でもデミトリ自身が困る様な人助けは、しちゃだめだよ?」 それ君が言っちゃあかんやつ
ヤンデレメンヘラ女怖い
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