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第127話 物々交換

「……正直に言うと、返済は絶望的だな」


 ――そんなに切羽詰まっているのか……


「依頼も受けられねぇし、装備も売れる気配がねぇ……仲間もあちこちで短期で受けれる仕事を探してるが、依頼を失敗した冒険者相手に割のいい仕事を紹介してくれる所なんてそう簡単に見つからねぇ」


 先程までの元気がないのは、今まで無理をしていたからだろう。覇気なくそう零すと、モイセスが俯いてしまった。


「いくら必要なんだ?」

「……明後日までに、残りの八十万ゼル集めなきゃいけねぇ。せめて、依頼が受けれたら……」

「展示してる物が売れれば、余裕で稼げそうだが買い手がいないのか……装備を売ったら、謹慎が空けても依頼を受けられないんじゃないか?」

「そりゃそうだが、借金奴隷になるよりはましだろ」


 ――ごもっともだな……


「……実は俺も金欠なんだ。その鍋と調理器具一式が欲しいんだが、物々交換してくれないか?」

「話を聞いてたのか? 金が貰えねぇなら何も手放すつもりはねぇぞ?」


 収納鞄に手を伸ばし、イムランにもしもの時用に準備しておけと言われていた割符を一枚と、ストラーク大森林で倒したクラッグ・エイプの魔石を取り出す。


「最近クラッグ・エイプの素材一式をギルドに卸したばかりなんだが……このクラッグ・エイプの魔石は、その時売った物と色合いも大きさも似てる。査定額は少し上下するかもしれないが、大体百二十万ゼルぐらいにはなるはずだ。これと、鍋と調理道具一式を交換しないか?」


 モイセスが信じられないという表情を浮かべながら、魔石を見つめる。


「銅級のモイセスのパーティーが、急にこれをギルドで売ろうとしたら騒ぎになるかもしれない。俺の割符を割って片割れを渡しておくから、それを見せれば正当な物々交換で得たものだと証明できるはずだ」

「待ってくれ、なんで――」

「言っただろう、俺も金欠なんだ」


 ――口座には金があるんだけどな……


「ギルドに立ち寄れば素材を売ったり口座から金を引き出せるんだが……今妙な冒険者パーティーに絡まれていて近づけないんだ。手持ちの金でやりくりしないといけない状況だから、物々交換で済むなら俺も助かる」


 モイセスが、生唾を飲み込みながら悲痛な表情で首を横に振る。


「ありがてぇが……そんな施しは受けられねぇ……」


 ――もしこれが演技だとしたら……この魔石は、勉強代として失ってもいいな。


「モイセスさん、その鍋と調理器具かなり高いですよね?」

「……は?」

「デミトリ、すごい高そうだけど欲しいなー」


 物凄い棒読みでそう言いながら、ヴァネッサが俺の肩にしなだれかかる。


「……という事らしい。酒場の看板娘に良いところを見せたい、金欠のいけ好かないソロ冒険者が物々交換を持ち掛けてるんだ。ちょっとモイセスが得する交換をしても、罰は当たらないんじゃないか?」


 かなり葛藤した後、モイセスが絞り出すように言葉を紡ぐ。


「……かたじけねぇ……その魔石と、鍋と調理器具を交換してくれないか?」

「交渉成立だな」


 軽く握手してから割符を割り、片割れをモイセスに魔石と共に渡した。交換する形で、モイセスが渡してくれた鍋と調理器具一式を収納鞄に仕舞う。


「我儘に付き合ってくれてありがとう、助かった」

「それは、俺の台詞だ……ありがとう」


 まだ現実味がないのか、呆然としながら魔石を見つめるモイセスがそう呟く。


「ギルド職員のマルクなら、直ぐにそれが俺の割符だって分かるはずだ。問題があったら彼を呼んでくれ」

「……分かった」

「仲間を安心させたいだろう? 俺達は付き添えないが早くギルドに行って魔石を換金して、借金の返済を済ませた方が良いんじゃないか?」

「そうだな。何から何まですまねぇ!」


 モイセスが露店を仕舞うまでの間、ヴァネッサと一緒に待つ事にした。しばらくすると、荷物を纏め終えたモイセスがこちらに近づいてきた。


「俺はもう行くが、さっき妙なパーティーに絡まれてるって言ってなかったか?」

「ああ……面倒だから撒いて来たんだが、緑髪の剣士と女性三人の四人パーティーだった。俺はメリシアに来て日が浅いからたまたま出会わなかっただけかもしれないが、今までギルドでは見かけた事がない顔ぶれだった」

「緑髪の男と、女三人のパーティー……? 男は長髪だったか?」


 心当たりのありそうなモイセスが、汚物を見たのかと見紛う程顔を歪める。


「長髪だったな……」

「多分、最近王都から来た銀級パーティーのドラゴンクローって奴らだ。ちょくちょく他の冒険者とトラブルを起こしてるみてぇだから、目ぇ付けられてんならしばらくギルドは避けた方がいいかもな」


 ――当分依頼を受けるつもりはないが……はた迷惑な奴らだな……


「助言してくれてありがとう、気を付けるよ」

「そうしてくれ。とにかく……デミトリ、嬢ちゃん、本当にありがとう!! スターダストはこの恩を絶対に忘れねぇ!!」


 駆け出して行ったモイセスを見送っていると、ヴァネッサに声を掛けられる。


「……なんで助けてあげたの? 話を合わせたけど……モイセスさん嘘付いてるかもしれないよ?」

「そうだな、騙されている可能性はあるな……」


 自分でも、なぜ助けようと思ったのかはっきりとした答えが出ていない。


「俺は……結局自分さえよければ良いと思って行動しているんだろうな」

「……どういう事?」

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情けは人の為ならず・・・ この世界の転生者がアイスを広めていなければ王家にアイスで好印象?
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