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第126話 訳ありの露店

「……珍しい品揃えだな」

「確かに、住民街の客層には需要が無ぇな!」


 ニカっと笑いながら答えてくれた男が、無精髭を撫でながら俺の頭の天辺から足の爪先までまじまじと見てくる。


「兄ちゃん達は冒険者か?」

「……俺はそうだな」

「……そいつぁ良い、俺の運もようやく上向いてきた! なんか欲しいもんがあったら買ってってくれ!」


 ――出品している品の状態も悪くないのに、なんでわざわざがらくた市で売りに出しているんだ……?


 この状態なら職人街の武具屋にも売れるはずだ。よく見ると、明らかに女性用の装備も展示してある。


 死体剥ぎの事を思い出しながら、警戒を強める。


「デミトリ」


 ヴァネッサにそっと囁かれ、彼女の視線の先を確認する。遠征用の道具類の中に、小さな鍋と調理器具や携帯用の食器類があった。


「嬢ちゃん、目の付け所がいいな!」

「冒険者さんも、結構料理をするんですか?」

「それはパーティーによるな! 料理が得意な奴がいれば調理道具一式を持ち運ぶ場合もありゃ、全員料理できねぇならわざわざ持ってかねぇ」


 男が鍋を片手で軽くたたきながら、溜息をつく。


「野営する時料理の匂いに釣られて寄ってくる魔獣や魔物もいるし、対処するのがめんどくせぇ場合は干し肉みたいな携帯食料で済ませる方が楽だし安全だな。俺のパーティーも、依頼中にうめぇもんが食えるって盛り上がって買ってみたは良いものの……結局使ったのは一、二回だけだ」

「目の付け所が良いって言ってなかったか?」

「商人ぽい台詞を言ってみただけだ。正直に言うと俺達には必要ねぇから買ってもらえると助かる!」


 ――嘘は付いていないみたいだが……


「突然だが、冒険者証を見せてもらえないか?」


 お願いしながら、先に自分の冒険者証を首元から取り出して男に見せる。


「構わねぇが―― 銀級じゃねぇか!」


 男が自分の首元に下げていた冒険者証を取り出して、こちらに見せてくる。


「ソロの銀級冒険者のデミトリだ」

「スターダストってパーティーに所属してる銅級のモイセスだ」

「気を悪くしてしまったならすまない。最近……悪質な死体剥ぎに襲われてな。素直に言うと警戒していた」

「そう言う事か……まぁ、がらくた市で冒険者の装備売ろうとしてたら勘違いされても仕方ねぇな……」


 頭をぽりぽりと掻きながら、モイセスがバツが悪そうな顔をする。


 ――冒険者証は本物みたいだったが、名前とパーティー名は覚えた。これで一応、ギルドで聞けば本人かどうかの確認は取れるな。


「なんでがらくた市で出店してるんですか?」

「それは俺も聞きたかった。この状態の品なら武具屋で売れるんじゃないか?」

「そう思うよな……」


 モイセスが顔を両手で覆いながら、天を仰ぐ。


「何か、事情がありそうだな……」

「簡単な話だ。依頼で失敗してパーティーで借金抱えちまったんだ」

「そんな事があるんですか?」


 冒険者の事情に詳しくないヴァネッサが驚いているが、ある程度知っている俺も驚いている。


 ――銅級なら、護衛依頼を受けられない。銅級に上がったならわざわざ労働依頼は受けないだろうし、採取依頼や討伐依頼で借金をする様な失敗の仕方なんてあるのか?


「青銅級だった頃世話になった依頼主から、労働依頼を受けてもらえないか相談されたんだ。俺達も恩返しのつもりで受けたんだが……輸送していた貴重品を落として壊しちまった……」

「弁償しないといけないのか……」

「そういうことだ……その上依頼に失敗したからしばらく冒険者活動は謹慎中だ、依頼を受けれねぇから仲間と必死に金を掻き集めてる」


 ――弁償額は幾らなんだ……それほど貴重な品なら安上がりだからと言って労働依頼なんて出さず、輸送費を用意してしっかりとした業者に依頼するべきだ。モイセスの一方的な意見しか聞いていないが……銅級パーティーがすぐに弁償できない程貴重な品の輸送を、わざわざ受けてもらえるよう相談した上で労働依頼を出す依頼主に問題がありそうだな。


「だったら、尚更職人街で売った方がいいんじゃないですか?」

「嬢ちゃん、噂ってぇのはすぐに広がるもんだ。俺のパーティーが依頼に失敗したのはもう知れ渡ってる」


 人の口に戸は立てられないと言うが、こういった噂がどこで広まるっているのか見当がつかない。


 ――俺は冒険者ギルドでは職員か、アイアンフィスト位としか会話しない。噂の出どころなんて知る由もないか……


「声を掛けた時外見の特徴が合ってたからそうなんじゃないかと思ったが、デミトリも噂になってるぞ? 誰とも喋んねぇソロ冒険者の時点で目立ってたが、急にバレスタの酒場の看板娘と一緒にギルドに来始めたいけ好かねぇ野郎って話題になってる」


 思わぬ所でギルドを訪れていた時に受けていた痛い視線の理由が分かり、むせてしまった。


 ――そんな風に思われていたのか……


「とにかく、俺らのパーティーは今印象が悪ぃんだ。付き合いのある店に物を売りに行って迷惑掛けたくねぇし、付き合いの浅い店だと足元見られて装備を買い叩かれるのが関の山だ」

「……そうとは限らないんじゃないか?」

「俺の実家が商いをやってるから詳しいが、商人はえげつねぇぞ? 隙を見せたらすぐに競合を蹴落とそうとする。俺らが行きつけの店で装備を売りに行ったら『あの店は、依頼に失敗した冒険者を贔屓にしてる』って笑顔で評判を落とす噂を言い振らすだろうし、装備を売りに行ってもこっちが必死なのを分かってるから捨て値でしか買ってくれねぇよ」


 ――それは確かに、えげつないな……


「えっと、弁償は出来そう……なんですか?」

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