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第125話 がらくた市

 ――見かけない顔なのはお互い様だが……


 剣士風の容貌の男が、仲間を従えながら一歩前に踏み出して来た。メリシアに来てからそこそこの頻度で冒険者ギルドに訪れているが、男もその仲間も初めて見た。


「なんとか言ったらどうだ!」

「これから予定があるから、どいてくれないか」

「それは悪かった―― って言うわけないだろ!」


 乗り突っ込みをしながら、男がウェルドラビットの毛並みを髣髴とさせる緑色の長髪を振り乱す。異様な態度と芝居がかった口調に、危機感を覚える。


 ――黒髪黒目じゃないが……まさか、転生者か?


「邪魔だからどいてください」

「どかない!」


 ここ数日で劇的に魔力制御能力が伸びたヴァネッサだが、感情が高ぶるとまだ魔力を制御しきれないのは変わらない。危険な魔力の揺らぎを感じて慌ててヴァネッサを宥める。


「ヴァネッサ、落ち着いてくれ」

「……ごめん」

「話の途中に、イチャイチャするんじゃない!」

「……大声を出さないでくれ。彼女が怯えているし、周りの迷惑になる。静かに話せないなら、せめて場所を外に移せないか?」

「……分かった、みんな荷物を取りにいくぞ!」


 ギルドに備えられた酒場の席に向かった男と、その後を静かに追う男の仲間の事を待たずにヴァネッサの手を引きながらそのままギルドを出る。


「ヴァネッサ、少しの間だけ我慢して俺の首に掴まっていてくれ」

「えっ!?」


 ヴァネッサを抱きかかえてから、身体強化を掛けて街の中央に向かって走る。なるべく裏通りを通る様に意識するが、どうしても人目についてしまうのは割り切ることにした。


 公園付近の路地裏に到着し、身を潜めてからようやく足を止める。全力疾走して乱れた息を、深呼吸しながら整える。


 逃走中ずっと首にしがみついていたヴァネッサが腕を緩めて、こちらを見上げてきた。


「……逃げちゃってよかったの?」

「俺は……今まで二回ああいう奴と出会って、二回とも面倒な目に合ってる」

「もしかして……セイジとカズマの事?」

「そう言う事だ……」


 遠い目をしてしまったヴァネッサを、ゆっくりと降ろす。


「職人街は繁華街に近い。またあいつらに出くわしたら面倒だから、先に商業区の市場に行こう。最悪、鍋は今日買えなくてもパティオ・ヴェルデの店主にお願いしたら貸してくれるかもしれない」

「貸してもらえなかったら……」


 かなりアイスが楽しみだったのか、酷く落ち込んだヴァネッサが黙り込んでしまった。どう声を掛ければいいのか悩んでいると、何か思いついた様子のヴァネッサが急に元気を取り戻した。


「商業区の住宅街寄りの広場で、がらくた市が開かれるからそこ行ってみない?」

「がらくた市?」

「街の住民が不用品を持ち寄って開いてる市があるの。たまに掘り出し物があるらしいから、鍋もあるかも! ……盗品とかも売りに出される事があるらしいけど……」


 ――ヴァネッサはあの酒場に軟禁されていたせいで、メリシアについてあまり詳しくはない……酒場の客か、ヒューゴ達から聞いたんだろうな。


「えっと……広場の中心なら、盗品はないと思う!」


 ――盗品の売買みたいな後ろ暗い取引は、がらくた市の端の方でやっているのか。怪しそうな場所に近づかなければ問題なさそうだが……


 最悪の場合を想定する。


 バレスタは捕縛されたが、この短期間で彼と繋がりがある人間が全員捕まった訳ではないはずだ。自分の運の悪さは自覚しているし、ヴァネッサの情報源がたまたまバレスタと繋がりのある荒くれ者だったらばったりがらくた市で出会ってしまうかもしれない。


 悩んでいる間、ヴァネッサが瞳に期待を込めながらずっとこちらの返事を待っている。


 ――……なんとかなるか。


「それじゃあ、市場で牛乳と砂糖を買ってからがらくた市に行こう」

「うん!」





――――――――





「想像していた程、賑わってないな」

「そうだね……」


 商業区の市場で牛乳と砂糖を買い、住宅街近くの広場に到着した。広場の中央に何軒か露店が出店しているが、広場は閑散としている。


「……こういうがらくた市で、呪いの装備とかが見つかるのが定番じゃなかったか?」

「縁起の悪い事言わないでよ……」


 がっかりしていたヴァネッサに、前世の話題を振って元気付けようとしたが駄目だった。


 ――前も失敗したが……俺はあまり軽口を叩かない方が良いな……


 頭の中に『コミュ障』という単語が再び浮かび、自分がそうなんだろうと納得してしまう。広場の中央まで歩き、出店されている露店の品を二人で見て行く。


 使い古された服、ぼろぼろの絵本、腕のもがれた人形や石が外れたブローチ。


 出品されている品はどれも捨て値で売りに出されていて、売る気がない以前に処分出来たら運がいい程度に思っているのが透けて見える。


 あまり品揃えの良くない露店を巡っていると、周囲の露店とは一風変わった冒険者風の男が店番をしている露店を見つけた。


 値段設定も相場よりも安めではあるがしっかりしていて、地面の上で胡坐をかく男の前には冒険者の武器、防具、旅の道具など展示されていた。


「よう、お二人さん。商品を見てかねぇか?」

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