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第118話 尽きない疑問

 ヴァネッサが指導を受ける横で、掌の上に水球を浮かべる。


 ――王家の影になる件は後でヴァネッサと話し合わないといけないが……開戦派が本格的に動き出すのであれば、異能に対する対抗手段を早く増やさなければいけないな…… 


 セイジに襲われてからずっと引っ掛かっていた事がある。セイジが元々持っていた調合の異能と相性の良い毒無効の異能を、たまたま手に入れたとは考えられない。


 ――方法は分からないが、教会はある程度異能を選別して授ける方法を持っているとしか思えないな。


 恐らくセイジは捨て駒扱いだったため、それほど強力な異能を渡されていなかったが……ヴァネッサが言ってたように転移の異能が存在して、体の中に直接毒を転移させる事が可能だったら為す術もなく殺されていた可能性が高い。


 ――形振り構わず、会話も許さずに瞬殺していればなんとかなったかもしれないが……


 そうしていたら逆に俺が憲兵に捕まり、セイジを差し向けた教会の手の物に身柄を確保された可能性が高い。


 ――仮に転移の異能が存在したとして……水魔法で胃の中に膜を作って毒を防ぐことは出来るのか?


 呪力の籠った水を自分で飲むのは気が引けたが、死体剥ぎで試した時は直ぐに体調に異変は出ていなかった。


 ――そもそも自分の呪力なんだ……ずっと避けていたが万が一水がない状況になってしまった時、飲み水の代わりになるかどうかいい加減検証するべきだな。


 掌の上に浮かべていた水球を口元に移動させて飲み込む。妙な味がしないか心配だったが、呪力が込められてる以外は普通の水だった。胃の中に入った水を操作しながら、膜を作ろうと試みる。


 違和感はすごいが、取り敢えず食道と胃は水の膜で保護できることを確認できた。


 ――胃は水の膜で保護できそうだが、肺に毒……いや、毒に限らず小石程度の物でも転移させられただけで窮地に追いやられるな……


 毒を防ぐために肺に膜を張ったら息ができない、小石みたいな異物はそもそも対処のしようがない。


 ――魔法は……俺の場合魔力がすぐに水に変換されてしまうから試せないが、基本的に生き物の中で発動出来ないはずだ……


 火魔術士が直接魔物の体の中で炎を発生させるような芸当ができないのは、魔力が干渉してしまい魔法が発動できないからだと言われている。


 ――異能も同じ理屈だと助かるがそう都合の良い話ではないだろうな。そもそも死体剥ぎで試した時にできたように、なぜ顕現した魔法は操作して相手の体内に入れる事が出来るんだ? 死体剥ぎの魔力の干渉をうけずに水魔法を操作できたが……相手の魔力量にでも依存するのか?


 今は検証できないので、仕方がなくこの件に関しては保留にする。


 ――魔法と魔力について、本当は有識者に質問したい……知識不足のせいで疑問が多すぎる。


 魔法と魔力に関して考えれば考えるほど疑問が尽きない。数ある疑問のうちの一例に過ぎないが、恐らくこの星は球体だ。太陽と月の浮き沈みもある。そこで気になるのは、重力や慣性が魔力や魔法に作用するのかどうかだ。


 ――魔力はまだ、実体がないから百歩譲って分かるが……顕現した魔法が星の自転に置き去りにされないと言う事は、魔力の段階で慣性が働いていて魔法になってもそれを引き継いでいるのか?


 魔力や魔法が物理法則に従っているのであれば、新たな疑問が次々と浮かんでくる。『魔法だから』で片付けて良いものなのか、無知な自分には判断出来ない。


 ――魔力や魔法が物理法則に従っていないのであれば、星の自転に逆らう程の力が魔法が発動するたびに発生しているのか? 仮に魔法と魔力が物理法則に従っているとすると、異能も物理法則に従っているのかも気になるな……


 ヴァシアの森で襲って来た、聖騎士達の能力を思いだす。


 ――パブロが使っていた固定の異能も、固定した空間が星の自転に置き去りにされなかったと言う事はパブロを起点として固定する位置を指定していたからなのか? それにしては、あの小屋の中を自由に動き回っていたのに、いちいち俺の固定がずれるような事はなかったが……


 異能も魔法同様に、『異能だから』で片付けていいのか対策を練らなければいけない身としては悩ましい。


 ――ホセの時止めの異能もよく考えると意味が分からないな……本当に時が止まっていたら星の自転も止まったはずだ。であれば、ホセは異能を発動した瞬間どこかに吹き飛んでいくべきじゃないのか? 時が止まっているなら光も止まっているはずだ、ホセは異能を使っている間何も見えなかったのか?


 考えれば考えるほど、謎が深まって行く。


 ――毒霧を吸い込んでいたから確実に呼吸をしていたはずだが……時の止まった空間で普通に空気を吸い込めるのだろうか。時が止まっているわけではなくて、緩やかに流れていたとしたら……ホセは相対的に超人的な速度で動いていたはずだ。そんな超速で動いていたホセに触れられた物や空気が乱れた痕跡がなかったのはおかしくないか?


 前世の記憶を掘り起こしながら考えているが、自分は物理学には明るくなかったようだ。前世のあやふやな記憶と、今世の知識不足で疑問ばかりが増えて行く。


 色々と悩んだ末、『不思議な力だから』という曖昧な理由で片付けなければいけない現状に頭を抱えたくなる。


 ――可能であれば、専門家の意見を聞きたいが……無理だろうな。仮にそんな機会があったとしても、異世界の知識から発生した疑問についてむやみやたらと伝えるべきじゃない。そんな事をしてしまったら、碌なことにならないのが容易に想像できる。


 結局、考えても分からないのであれば試してみる他に答えを得る方法がない。取り敢えず、もう一度水球を作り出し掌の上に浮かべた。


 ――操作を手放さない限り浮遊させられる事も意味が……だめだ、余計な事を考えるな。


 湧き出る疑問を無視して、まずは水の温度を変えられるか試してみることにした。


 ――氷を作れれば、何個か対策できそうな異能がある。あとは熱湯……戦闘で活かすのであれば、贅沢を言えば百度以上の高熱が望ましいな……水の状態で厳しくても、加熱水蒸気に出来れば行けるのか?

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― 新着の感想 ―
読者の感想まで魅了に翻弄されてる感じ、国レベルで対策が必要なヤバい魔法ってのがよくわかる。
主人公の強い意志が魅力の作品なのに、魅了で揺らいでいるのが残念。
プラズマ化で原子レベルに分解!
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