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第113話 ギルドからの手紙

「予定よりも早いお帰りだね?」

「ちょっと、色々ありまして」


 パティオ・ヴェルデの店主がこちらに声を掛けてから、何やらカウンター裏でごそごそと探し始めた。


「実は、丁度君達が出発したのと入れ違いで冒険者ギルドの人が来てね。これを渡してほしいってお願いされたんだ」

「ありがとうございます、対応してくれて助かりました。今日はもう宿を出る予定はないので、他に誰かが訪ねてきたら呼んでもらえると助かります」

「任せて欲しいな!」


 店主から封筒を受け取り、ヴァネッサと部屋に戻った。ベッドの横まで直行するとヴァネッサが首を傾げながら問いかけてきた。


「ソファに座らないの?」

「俺も過去魔力暴走を起こした事があるが、その時は魔力が枯渇して死に掛けた。ヴァネッサはそこまで酷い症状は出てないみたいだが、短期間で二度も魔力暴走を起こしている……平気だと思うかもしれないが、横になった方がいいだろう」

「話し方が元に戻ってるよ」


 ――魔力は暴走していないみたいだが……この妙な凄みはなんなんだ……?


 ヴァネッサはいつも通りのはずなのに、まるで心臓を掴まれているような緊張感が走る。


「……たまにという話だっただろう? それに前世の事はほぼ覚えていない、あの口調で話そうとすると言葉に詰まってしまう……慣れるまで、時間が掛かる」

「そうだよね……無理なお願いをしてごめんね?」


 ――俺の勘違いだったのか……?


 一気に緊張感が解け、ヴァネッサは悲しそうな表情をしながらベッドに腰掛けた。


 ――約束を破られたと思って、傷付いているのか……?


 一方的に小指を絡められて約束と言い切られたが自分は善処するとしか言っていない。とは言え……あの場で否定しなかった自分が悪いような気がして、罪悪感が湧いてくる。


「……俺の方こそ、心配性でごめん。寝れないかもしれないけど……少しの間でも、目を閉じて横になるだけで……体力は回復するはずだから」

「うん、分かった! ありがとう……デミトリ」


 口調を修正するためにかなり言葉を選びながら話す必要があったが、ヴァネッサは納得してくれた様だ。元気よく返事すると、右手を俺の手と繋いだまま横になってしまった。


「デミトリも休んだ方がいいよ」

「俺は……ギルドから来た手紙を――」

「横になって読めば、休めて一石二鳥だよ」


 ――……父を亡くして、加護と魅了魔法のせいでで自分を求める人間に囲まれながら孤独に過ごしていたはずだ。魅了や加護の影響を受けない、頼れる相手から離れたくないのかもしれない……


 ヴァネッサの態度が一変した切っ掛けは二度目の魔力暴走だったが、それ以前から手を繋ぐことに強い拘りを見せていた。色々と約束したがるのも、助けを求める彼女なりの救援信号なのかもしれない。


 ――彼女の要望に全て応えるのは、今後の彼女の為にならないだろうが……取り敢えず彼女が精神的に落ち着いて、ある程度魔力を制御できるようになるまでは寄り添ってあげた方がよさそうだな……


「……分かった」


 ベッドの上で位置をずらすヴァネッサに引きずられる形で、彼女の横になる。横になった事を確認した直後、ヴァネッサがようやく手を離してくれた。久しぶりに解放された手を使って、右手に持ったままだった封筒を開く。


「なんて書いてあったの?」

「ダリードでバレスタが捕縛されて……ギルド側で確認が取れたから……捜査協力の活動実績が認められた」

「早かったね」


 ――本当に、想像以上に早かったな……


「捕縛された時に……抵抗したから――」

「ごめんね? 話しにくいならいつも通りで良いよ?」

「すまない……逃走を試みた上にバレスタの部下が憲兵と交戦までしたらしい。憲兵隊が商会の家宅捜索に踏み切り、余罪の証拠が山程出てきたらしい。わざわざ俺を参考人として呼ぶ必要もない位、罪を重ねていたみたいだな……正式に待機が解除された」

「なんだか……あっけないね」


 今まで聞いたことのない、冷たい声でヴァネッサが吐き捨てる。


「ずっと苦しめられてたのに、こんなに簡単に捕まるんだね。余罪もいっぱいあったなら、なんで今まで気づかれなかったのかな?」

「ヴァネッサ……」

「あの日……たまたまデミトリに出会わなかったら、今頃私はどうなってたんだろ」


 商業区で魔力暴走した時程ではないが、ヴァネッサの魔力が揺らいでいるのが分かる。手紙を捨てて、彼女の手を取る。


「……デミトリは、私の命の恩人だね」

「違法な隷属魔法を掛けられていたんだ、俺に出会わなくても保護されて――」

「バレスタをずっと野放しにしてた人達に保護されても、明るい未来は待ってなかったと思うよ」


 ――どう答えればいいのか……難しいな……


 憲兵も、国もわざとバレスタを放置していたわけではない……はずだ。


 裏でバレスタが有力な貴族と繋がっていて、見過ごされていたのであれば話は変わるかもしれないが……単純にばれないように上手くやっていたのであれば、国側に大きな落ち度はないと思う。


 だが、ヴァネッサ視点で考えると憤る気持ちも理解できる。


 メリシアにいる死体剥ぎ全員がバレスタ商会からあの紙を渡されていたなら……もっと早くバレスタの黒いつながりが発覚していてもおかしくないはずだ。そんな杜撰な手段を取っている商会の隠蔽すら看破できず、何年もバレスタを野放しにした国の対応に不信感を抱いてもおかしくない。


「デミトリにも開戦派の件で迷惑掛けてるし、私の事も助けてくれなかったのに……今更魅了魔法を持ってるのが分かったから保護したいって、虫が良すぎるよ」

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― 新着の感想 ―
こいつ自分が一番迷惑かけてる自覚がなさすぎるんじゃないか? マジで退場してほしいレベルだわ。
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