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第11話 異世界転移者の末路

 ヴィーダ王国で冒険者業を営んでいたカテリナとヴィセンテは、貴族絡みの依頼で失敗をしてしまい一介の冒険者では払えないような借金を抱えてしまった。そして支払いが滞り借金奴隷に堕とされた所を、マサトという名の冒険者に買われてしまった。


『俺を追放した奴らと、俺を馬鹿にした冒険者共を絶対に見返してやる!』


 マサトは元々上位の冒険者パーティーに所属していたが、パーティーを不当な理由で追放されてしまったのだと二人に説明していたらしい。追放後、声を掛けた冒険者パーティーに悉くパーティーへの加入を断られ続け、上位冒険者に返り咲く為に絶対に裏切らない戦力としてカテリナとヴィセンテを購入したとのことだ。


 カテリナが日記に記した内容とそれを読んだ自分の主観が多分に入るが、追放された理由は不当なものではなく十中八九マサト自身に問題があったからだろう。日記に記されていた、奴隷にされた後にカテリナとヴィセンテが受けた扱いは可能であれば記憶から消し去りたいほど惨いものだった。


 二人が受けた苦痛と屈辱を思うと、ただただ心が痛んだ。


 ――人間のクズ……カテリナも疑っていたみたいだが、そもそも二人が借金奴隷に堕ちた原因の依頼の失敗もマサトが裏で糸を引いてた可能性が高い……


 貴族から輸送を依頼された貴重品が、カテリナとヴィセンテの手に渡った後消えてしまったのだ。


 目的地に向かう途中、旅人がよく使う水辺の広場に馬車を停めた二人は一時的に行動を別にした。カテリナが馬を水辺に連れて行き、ヴィセンテは馬車の周囲を警戒した。


 辺りには視界を遮る木々も生えていないだだっ広い草原しかなかった。二人共経験と実力のある冒険者で、馬車を離れていたカテリナも周囲の警戒を怠たらなかった。仮に二人の警戒を掻い潜って馬車まで辿り着けたとしても、気づかれないまま馬車に詰まれた荷物を運び出すのは不可能なはずだった。


 カテリナが馬を連れて馬車まで戻り、馬車に馬を繋いでいる時ヴィセンテが異変に気付いた。馬車の積み荷がすべて消えていたのだ。


 ――亜空間収納と完全透明化が使えれば、盗めるな……


 カテリナとヴィセンテがマサトの奴隷になった後、口外できないよう命令された上でマサトの持つ特殊な能力について教えられていた。亜空間収納と言うのは無限に物を別の次元にしまい込める能力で、完全透明化は読んで字の如く姿を完璧に姿を消せる能力らしい。


 ――マサトって名前の時点でもしかしたらとは思ったが、俺と違って何かしらの能力を貰って異世界転生か転移したパターンだったのか? そんな事どうでもよくなる位、邪悪な人間だったみたいだが……


 日記を読み進めていた時、途中から一つの疑問が浮かんだ。カテリナは奴隷になった後、なぜ自由に日記を書き続けられたのか? こんなに赤裸々に思いの内を書いてる事がマサトにばれたら、ただでは済まされないのが容易に想像できる。


 判明したその理由は最悪なものだった。


 ――心の底から屈服しているのか確認するために、自分の考えている事を包み隠さず正直な気持ちで日記に書かせる命令……同じ人間の所業とは到底思えないな……


 せめてもの救いは、マサトが既にこの世を去っている事だった。マサトの最後については、カテリナも筆が乗ったのか詳細に書かれていた。


 カテリナの日記によるとこの洞窟はヴィーダ王国の城塞都市エスペランザの近くにある、ソンブラ地下迷宮と呼ばれる洞窟に繋がっているらしい。地下迷宮はかなり広い上魔物が大量に生息しているため未探索領域が多く、カテリナ達はその未探索領域の調査を行っていた。


 地下なので当然カテリナ達は気づいていなかったが、ヴィーダ王国側に入口のある地下迷宮がストラーク大森林を横断してグラードフ領付近まで伸びている事に日記を読みながら驚愕した。


 探索中、彼らはアビス・シードと呼ばれる魔物の変異種に出会ってしまった。通常種と比較して五倍以上の体躯、異常な膂力、そしてその大きさには見合わない俊敏さを持った錆色の赤子のような化け物。


 記されていた化け物の特徴は、蜘蛛の巣で自分が遭遇した魔物の特徴と完全に一致していた。


 絶対に戦うべきではない、そうカテリナとヴィセンテが忠告するよりも先にマサトが攻撃を命じた。隷属魔法の施された奴隷は、主人の命令に逆らうことが出来ない。


 戦闘を開始したもののカテリナの魔法が一切効かず、前衛を担当していたヴィセンテも早々に重傷を負ってしまった。魔物との戦闘はいつも二人に任せきりだったマサトは、アビス・シードを倒せないと悟るや否や完全透明化を発動して逃げ出した。


 能力を過信して、魔物についての知識をつけなかったのが良くなかった。


 カテリナの手記曰く、アビス・シードはそもそも目が見えない代わりに聴覚が発達した魔物らしい。


 大慌てで走り出したマサトの足音がする方向に動き出したかと思うと、アビス・シードはキャッキャと笑いながら見えない()()を掴んでその大口で噛り付いた。


 即死だったのかすぐさま完全透明化の能力が解け、何もなかったはずの空間には下半身を握りつぶされながら上半身をアビス・シードに飲み込まれたマサトがいた。

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