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第110話 早とちり

「これが、ラーラさんの幼馴染からの報せでしょうか」

「そうかもしれないが……勝手に見ない方がいいんじゃないか?」

「……おかしくないですか?」


 ヴァネッサが何を言っているのか分からず、首を傾げる。


「結婚式の招待状にしては封筒に装飾がないですし、招待状じゃなくて報告の手紙だとしても……いくら幼馴染でも、相当親しい仲でもない限りわざわざ新郎が女友達に手紙を出してまで、結婚する事を伝えないと思うんですけど」

「それだけ、二人は近しい間柄だったんじゃないか……? だからこそ、ラーラもあれだけ悲しんでいるんだろうし」

「私が新婦だったら、嫌です」

「そういうものか……?」

「女心を分かってないですね……ラーラさんは良い人ですか?」

「……? あまり話した事はないが面倒見のいい人だし、少なくとも悪い人ではないと思う」

「なら、ラーラさんが好きな幼馴染も多分良い人のはずです。デミトリが言うみたいに二人の関係性が良いなら、ラーラさんを悲しませる手紙を送るとは思えません」


 ――善人が好意を抱いた相手が、必ずしも善人だとは限らないと思うが……


 言われてみれば、少しだけ違和感があるかもしれない。ラーラとは何回かしか話した事がないが、彼女も思い人が誰かと付き合っている事を事前に知っていたら流石にここまで取り乱さないとも思う。


 ――急に連絡が来たとも言っていたな……平民でも家業を継がせるための政略的な結婚はあるし、急に結婚が決まる場合は本当に急に決まるんだろうが……


 店の奥からポーションを片手に現れたラーラに、ヴァネッサがカウンターに置かれた手紙を指さしながら声をかける。


「ラーラさん、幼馴染から来た報せってこの手紙ですか?」

「そうよ、結婚式に招待したいって急に連絡が来たの。ふふ、涙で前が見えなくなって最後まで読めなかったけどね!」

「……最後まで、手紙を読んでないんですか?」

「何回か挑戦したけど、一行目以降読むのは無理だったわ!」

「一人だと心細くて難しいと思います……私達がいるので、試しに今読んでみるのはどうですか?」


 ――やめてくれ……


 なぜヴァネッサがこれほどぐいぐい行っているのかが分からない。今は空元気の様子だが、これ以上ラーラの感情が爆発したら収拾をつけられる自信がない。


 内心慌てていると、一瞬だけヴァネッサの魔力が揺らいだのを感じた。


「……そうね、踏ん切りを付けるためにも協力してくれる?」

「はい!」


 急に聞き分けの良くなったラーラが中級ポーションをカウンターに置き、くしゃくしゃになってしまった手紙を両手で広げて読み上げ始めた。


「ラーラ、君を結婚式に招待したい――」


 涙目になってしまったがぐっと堪えて、ラーラが手紙を読み続ける。


「同僚のオマールが式をあげることになって……是非俺のパートナーとして一緒に参加してほしい? 日時は……」


 手紙の二行目と思われる文章を音読したのとほぼ同時に、ラーラが手紙を閉じて恥ずかしそうにカウンターに置いた。


「……お騒がせしてしまったみたいね」

「「……」」

「お、お会計は十万ゼルになるけど、現金払いにする?」

「……ギルドの口座から引き落としにして欲しい」

「分かったわ、小切手を準備するからちょっと待ってて!」


 ラーラが急いで準備した小切手に書かれた金額を確認して、金額の横に一本線を引いてから署名して返す。


「お願い、二人共今日の事は忘れて!」


 急に頭を下げたラーラから視線を外し、ヴァネッサと顔を見合わせる。


「……今後もこの店を贔屓にしたいし、気まずくなるのは避けたい。今日、俺は何も見なかった」

「私も忘れます!」

「ありがとう……」

「忘れる前に、一つだけ忠告だが……今まで手紙を読めなかったと言う事は、返事もまだ出していないんだろう? パートナーとして出席するつもりなら、早めに返事を書いた方がいいんじゃないか?」


 ヴァネッサと二人揃って今日の事は忘れると宣言して、安堵の表情を浮かべていたラーラの顔が一気に青ざめる。手紙を鷲掴みにして店の裏に消えて行ったので、中級ポーションを収納鞄に仕舞い込んでからヴァネッサと共に薬屋を出た。


「同伴者は、パートナーって呼ぶんですね……」

「そうみたいだな……」


 一気に疲れが押し寄せてきたので、しばらく店先で立っていると薬屋の扉が勢いよく開き、尋常じゃない速さで扉を閉めて施錠した後ラーラが走り去って行く。


「二人共ありがとう!!」


 返事も待たずに走るラーラの背中が、どんどん小さくなって行きとうとう見えなくなった。


「……さっき、意識して魅了魔法を使ったのか?」

「えっ!?」

「違うのか。ラーラと話してる途中、一瞬ヴァネッサの魔力が揺らいだ。ラーラは軽く魅了されていたと思う」

「私、そんなつもりじゃ――」


 安心させるためにヴァネッサの手を強く握りながら、ゆっくりと話す。


「大丈夫だ。ラーラに手紙を読まないか提案していた時、ほんの一瞬だけだった。少し、説得し易くなった程度だと思う」

「まさか、ラーラさんの様子がおかしかったのも私の加護のせいだったんじゃ……」

「ヴァネッサの都合の良いように狂うはずだから、違うんじゃないか……? あれは多分……ラーラの性格だと思う」

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