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第105話 捕縛される浮浪者

 ――俺の事を把握しているのに、本名を教えてないということは……多分セイジは捨て駒扱いされてるな。


「めんどくさいおつかいクエストだし、力ももう貰ったから放置しようかどうか迷ったけど……あの子と知り合えるんならやっておいてよかった! やっぱり、主人公らしく困った人は助けないとね」

「自分の私利私欲のためだけに人助けするのが、お前の思う主人公なのか?」

「はぁ?」


 セイジの目は座っているが、瓶を持つ手に力を入れているのか毒が瓶の壁に打ち寄せられている。


「モブのくせに、偉そうなこと言わないでよ。黙って付いてきてくれれば許してあげ……いや、先にあの子を紹介してよ」

「断る」


 セイジの背後で、衛兵が駆け寄って来ているのが見える。


「もういいや、連れて来てって言ってたけど別に死体でもいいよね?」


 セイジが振りかぶって地面に瓶を投げつけようとした瞬間、背後から衛兵に羽交い絞めにされた。


「やめ、はな――」

「大人しくしろ!! おい、こいつから瓶を取り上げろ!!」


 四人の衛兵に取り囲まれ、瞬く間にセイジが拘束された。大柄な兵が膝で背中を固定している下で、セイジが必死に逃げ出そうと抵抗を続ける。


「こんなことをして、後悔――」

「黙れ!!」


 猿轡を噛まされ、手足に枷を嵌められたセイジが言葉にならない叫びをあげながらじたばたする。


「毒物を持った不審者について通報があったので駆けつけてきたんだが、何があったのか聞かせてもらえないか?」


 衛兵に話しかけられた瞬間セイジの叫びがぴたりと止まり、こちらの方を見上げてきた。


「……彼から教会に付いてこいと脅されていました……理由は分かりません。情緒が不安定であの毒の入った瓶を割れば周囲にいる人間を殺せると言いだしたので身動きが取れず……騒ぎに気付いた方々が通報してくれて助かりました」

「こいつは最近噂になっていたから、次見かけたら補導する予定だったんだが……怖い思いをさせてしまい申し訳ない」

「大丈夫です、助けてくれてありがとうございました。後、調合と毒無効の異能を持っていると自慢していたので、拘留する際は気を付けてください」

「情報共有感謝する。よし、連れていけ!」


 自分を助けるために俺が行動しなかった事に余程驚いたのか、目を見開いて硬直していたセイジが衛兵に抵抗しようと再び暴れ出した。


 衛兵に抱えられながらセイジが視界から消えたのを確認して、宿の方に向き直ると心配そうに店主が扉から顔を覗かせていた。


「ごめんね、早く通報すればよかったよ」

「……あれは災害みたいなものなので、お互いにもう謝るのは無しにしましょう……」


 宿に入り、三階まで階段を上って行く。部屋の前までたどり着き、軽く扉を叩く。


「デミトリだ」


 部屋の中にいるヴァネッサに声を掛けたのと同時に、扉が開いた。心配そうな表情で、ヴァネッサがこちらの様子を伺う。


「大丈夫ですか?」

「……ああ」


 部屋の中に入り、また二人でソファに座った。窓に備え付けられたカーテンが、開いた窓から入ってくる風に揺れる。


 ――さっきまで、窓は閉まっていたが……


「……三階まで聞こえてきました……」


 窓を見ているのに気づいたヴァネッサが、嘆息しながら呟く。


「すごい……独り言でしたね……」

「可愛いと褒められてよかったじゃないか……」


 冗談のつもりで言ったが、物凄い形相でヴァネッサに睨まれてしまった。


「全然うれしくないです!!」

「すまない……」


 場の空気を明るくしようと軽口を叩いたが、ヴァネッサはかなり失礼な事を言われていた。今の発言は、あまりにも軽率だったと反省する。


 ――目の前で容姿を批評されるのは、気持ちのいい事ではないはずだ……


「……紫掛かった銀色の髪は、ヴァネッサの魔法みたいで綺麗だと俺は思う。目の事も……あいつの趣味が悪いだけで気にする必要はない。あいつに見る目がないだけだ」

「……ありがとうございます……」


 ――余計なことを言ってしまっただろうか……


 恥ずかしいので顔色を伺えない上、声色から反応も判断できない。居た堪れなくなったので、立ち上がり部屋の扉に歩いて行く。


「夕食までまだ時間があるし、月の書を燃やそう」


 返事はなかったが、背後でヴァネッサが立ち上がった音がしたのでそのまま扉を開く。無言のまま受付まで向かい、店主の許可を得てから裏庭の焼却炉前に着いた。


 夕食前で調理の最中に破棄する食材を捨てていたのか、焼却炉は既に点いていた。中扉を開き、ヴァネッサが月の書を放り入れた後中扉を閉めると焼却炉内で炎が囂々と燃え盛っているのが聞こえてくる。


 ものの数分で用が終わったので、そのまま部屋にトンボ帰りした。暗くなってきたので明かりをつけてから、ソファの定位置にお互い座る。


「……もう一人、転移者に会ったって言ってましたよね?」

「ああ……」

「彼も……あんな感じだったんですか?」

「系統は違うが……自分に酔っている所は、似ていたな」


 ソファの上でヴァネッサがこちらににじり寄って来る。


「夕食までまだ時間がありますよね? 昨日は触りしか聞けなかったので、転生してからデミトリに何があったのか詳しく聞かせてください」

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― 新着の感想 ―
転生者に絡まれる神呪恐ろしい… とりあえず、厄ネタ運んできそうな奴はふたりとも捕まって安心ですね。
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