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第98話 ヴァネッサの決断

 ギルドマスターに好き勝手言ったが、俺は自分の事ですら手一杯で何度も死に掛けている。無責任に、ヴァネッサの人生の責任を取れるなんてとてもではないが言えない。


「盗み聞いてしまい申し訳ないが……先程の会話を聞いた限り君は聡い。ジゼラが気安く私に話しかけている事や、私が機密扱いの魔法を見せたのも君に信頼して欲しいから敢えてそうしているのは気づいているだろう?」

「ああ……」

「ヴァネッサが保護されても君が想像した最悪の事態にならないことは、私の命を持って証明できていると思う。魔法も封じないし、むしろ制御できるように手ほどきをする予定だ」


 聞けば聞くほど、反論が出来なくなる。


「後、勘違いしているみたいだが何も一生保護するわけではないぞ?」

「……どういう事だ?」

「私のようにそのまま王国に仕える者も居るが、保護されている間に魅了魔法の使い方や魅了魔法を悪用しないよう色々と教育した後、本人が望めば監視魔法に同意さえすれば自由の身になれる」


 ――監視魔法……?


「……監視されているのに自由の身というのは矛盾していないか?」

「何を想像しているのか分からないが、監視魔法は特定の魔法が発動した時に感知できる魔法だ。魅了魔法を使ってしまった報告義務が発生するが、それ以外は特に制限なく生活できる」


 ――事も無げに言っているがわざわざ保護する位だ……何も枷を付けずに解放するとは思えないし監視魔法にも説明してない部分がありそうだな……


 どうしても疑ってしまうが、一生縛られるわけではない事は事実だと信じたい。ここまで静かに会話を聞いていたヴァネッサの意見が気になる。


「……ヴァネッサは、どう思う?」

「本当に……いつか解放してもらえるんですか?」

「私の命に掛けて、約束する」


 かなり悩んでいる様子だが、当然だ。しばらく沈黙が続く。


「……保護される事に、同意します……」

「決断してくれてありがとう。この場にいる人間には名乗っても問題ないな、ジゼラのせいでもう知っていると思うが私はニルだ。今後ともよろしく頼む」

「よろしくお願いします……」

「私はオブレド領を管轄しているが、基本的にはメリシアを拠点にしている。私が面倒を見ていない間は、ヴァネッサはデミトリと過ごしてもらっても問題ないか?」


 ――どうしてそうなるんだ??


「……王国に保護されるなら、王都に行くわけじゃないのか?」

「色々と事情があってな、急に魅了魔法の使い手を王都に招くわけにもいかない。メリシアには私が常駐しているから、今回は色々と都合が良かった」

「だとしても、保護するなら常に監視下に置くものじゃないのか……?」

「指導以外の時間は基本的に自由に過ごしてもらっていい。半信半疑だろうが、王国としても魅了魔法の使い手の意志や人権を無視して囲い込もうとは考えていないんだ」

「……今更こんなことを言える立場じゃないかもしれないが、それで大丈夫なのか?」

「そんなことを言ったら、君もオブレド伯爵の保護下なのに普通に宿屋暮らししているだろう?」


 ――さすがに王家の影と言うだけあり、俺の事情も把握しているな……


「デミトリ、君の泊っている宿はパティオ・ヴェルデだな?」

「……そうだが……」

「分かった。私は上に報告するのでこれで失礼するが、後日パティオ・ヴェルデにお邪魔するよ」


 トントン拍子に話が進んでいるが付いて行けない。事情を話すのを手伝ってほしいのでマルクの方を見ると目がとろんとしている。


 ――まさか・・・!?


 ギルドマスターとニルを交互に見るが、ニルは平然としているがギルドマスターは顔を顰めている。


「気づいていると思うが、ヴァネッサは無意識に魅了魔法を発動させてしまっている」

「ごめんなさい……」

「気にするなとまでは言えないが、仕方がないから気に病むな。デミトリには急な話で申し訳ないが、君は魅了魔法にかなり強い耐性を持っているみたいだな? 私も常にヴァネッサの傍に居るわけにはいかないし、耐性を持っていて事情を理解している人間の傍にいた方が安全なんだ。協力してほしい」

「厄介者をひとまとめにしてるだけじゃないのか……?」

「そういう面もあるな!」


 快活に笑うニルにげんなりしつつ、確かにヴァネッサを預けるのに適任の人間がそうそういないと納得してしまう。


「……迷惑を掛けて、ごめんなさい……」

「……いや、大丈夫だ。ニル、話は理解した。」

「じゃあ指導を受ける時は私が預かり、それ以外の時間はデミトリが面倒を見る形で進めよう! 話の途中で申し訳ないが本当に報告に行かなければならない、後日また会おう!」


 そう言って、ニルが窓から飛び出してしまった。


「……ギルドマスター、色々と説明が下手過ぎないか?」

「説明しようとしても、話を聞いてくれなかった君のせいだろう」


 事実だから、何とも言えない。ギルドマスターはまだヴァネッサの魅了魔法に抵抗しているのか、険しい表情で締めにかかる。


「取り敢えず、共有すべきことは全て共有したな。ヴァネッサの事はニルと連携してくれ。ダリードでバレスタが捕まらなかったらすぐにでも再聴取のために呼ばれるだろうから、デミトリ君は取り敢えず三日間は依頼を受けるのを控えてくれ」

「……分かった」

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