第307話 後日談
シェリーはギルドの酒場で一人の男を待っていた。
既に日は落ちて冒険から帰ってきた男達で酒場は賑わいを見せている。
こんな場所に女一人でいるのは物騒では有るのだがシェリーもそこそこ顔が売れているので絡んだりしてくるものはいない。
それでも先程から何人かの冒険者に声を掛けられたが待ち合わせを理由に相席を断った。
そこに、小柄な男が現れてシェリーの前に座る。
冒険者と言うには少し線の細い男だがその身のこなしは隙がない。
「待たせたな、シェリ
ー。」
ニコリともせずに話しかけてきたこの男はシェリー達のクランの情報屋だ。
「それで、どうだったんだ?」
まどろっこしい事が嫌いなシェリーらしく、いきなり本題から入る。
「結果から言うと先日の襲撃は失敗したで間違い無いな。」
実はシェリーは情報屋にススムの件を調べてもらっっていたのだ。
と、言うのもこの間ススムを襲う為に出て行った不成者達の様子がおかしく、ザーギスに至ってはあれから一度もギルドに顔を出していない。
襲撃が成功していれば酒場で酒盛りをしている筈だがその様子もない。
何時も揶揄ってくるヤードはギルドにいる事は居るがいつもの調子でおどける事はなく、借りてきた猫のように大人しい。
実はシェリーはヤードにその事を尋ねたのだが反応は薄く、はぐらかされてしまった。
「それで、ススムはどうしたんだい?」
シェリーはそこで一番聞きたい事を訊く。
生きているならまたチャンスがあるかも知れないのだ。
しかし情報屋はそこで少し思案する。
まるでどこまで話そうか考えているようだ。
「その結論の前に少し話を聞いてくれ」
「ああ」
ちょっとはぐらかされた感じもするがこの情報屋は無駄な事を話す奴ではない。
シェリーは渋々承諾した。
「グレイン伯爵の件はお前も話くらいは聞いてるだろう、どうやらあれが関係しているらしい。」
「ザーギスの後ろ盾が伯爵だったって事?」
伯爵が謀反を企んで捕まった話は王都中の噂になっている。
そしてそれを王宮が否定しないことからそれが事実だと言う事は公然の秘密となって居る。
「いや、ザーギスと伯爵の直接の繋がりは確認されていない。ただ、ザーギスはもっと危ない存在と関係が有ったらしい。」
「へぇ、それは誰だい?」
「なんとな………魔人国だ。」
「えっ!」
シェリーも流石にその言葉には驚いた。
「そいつは驚いたけどそれがススムとどう関係があるんだよ?」
「それがな、ススム……いやススムリセイ様はその魔人兵を排除する為に此処に寄ったらしいと言う事だ。」
「????どう言う事?」
シェリーはあまりの展開に付いて行けずポカンとする。
しかし情報屋は構わず話を続ける。
「ススムリセイの正体はトーレス王国のSランク冒険者だ。」
「Sランク冒険者ぁ!?」
大手クランに居て情報に触れることも多いシェリーは知っていた。
トーレス王国のSランク冒険者がどう言う者なのか……
「ススムリセイは伯爵と繋がっていた魔人兵を倒して伯爵の謀反計画を暴いたらしい。」
「それじゃぁこの間の一件は?」
「誘き出すための演技だろうな。」
「なんてこった、一杯喰わされたぜ。」
テーブルに突っ伏したシェリーに情報屋は半笑いで話しかける。
「そういやぁ俺が嗅ぎ回って居るのもどうやらあちらには筒抜けだったらしい。自信を無くすぜ。」
そう言って懐から袋を一つ出してシェリーの目の前に置いた。
「えらい別嬪のお姉ちゃんが突然俺の前に現れてお前にこれを渡してくれってよ。スムーズに事が進んだお礼だって。」
シェリーが袋の中身を確かめると中には50枚ほどの金貨とお礼の手紙が入っていた。




