第204話 騎士の矜持
ナディアside
ある日私は領主様に呼び出された。
一緒に呼ばれたのはケイン。
私の同僚だ。
彼は私より少し年上で少し強い。
しかし私達の間に上下関係は無い以上敬語は必要無い。
そして2人が揃うと領主様から話があった。
「君達に仕事を頼みたい。但しこの仕事はとても過酷な物となる。何とか果たして貰いたい。」
普段はっきりとした物言いの領主様が持って回った言い方をするのは珍しい。
よっぽど難易度の高いミッションなのかと気合いが入る。
「はい、お待たせください!」
ケインも同じ気持ちの様だ。
しかし、領主様はその私達を見てため息を吐く。そして少し躊躇いがちに言葉を繋いだ。
「正直言ってこんな命令は出したく無かった。むしろ私本人が行くべきでは無いかと思ったこともある。しかし、いろいろな事情でそれは叶わなかった。」
「まず問題なのは冒険者ギルドカードだ。私は所持していない。必要となるのは銀級以上の冒険者カードだ。ギルドは完全に独立組織なので領主権限でも発行することはできなかった。」
今の話を聞いて何故私たちが選ばれたのか得心が言った。
私とケインは冒険者上がり、私が銀級、ケインは金級だった筈だ。
騎士になるのにはいくつかのパターンがある。
学校や養成所で推薦を受けて騎士見習いとなりそこから昇進する方法、従士から頭角を現し認められるケース(この場合も見習いに最初はなるのがほとんどだ)そして、私たちの様に冒険者がスカウトされるケース(この場合はそのまま騎士となる)。
騎士と冒険者では役割が全く違うため、普通のケースで冒険者ギルドカードを取得するものはいないのだ。
それこそ騎士と冒険者の立場がほぼ同じと言われるトーレス王国でなければ……。
しかし、冒険者ギルドカードが必要となるとダンジョンか?それも他領地の……。流石にこの領地のダンジョンであれば領主権限が有効になる。
そこで子爵はミッションの内容を話し始める。
「君達にはルアシーン公都の中級ダンジョンに入ってもらう。」
成程、公都のダンジョンでは交渉も効かないな。
他領地でも交渉が出来る場所ならある程度融通も効かせたのだろうが…。
「そしてここからが本題だ。同行人とし娘のシメリアとメイドの1人を連れて行って貰いたいのだ。」
「成程、それは大変で重要な指令ですね。それでどんな目的を果たせば良いのでしょう?」
ケインが尋ねるがその部分は私も気になるところだ。
私たちはライセンスは金級、銀級だが既に実力的にはミスリルに届く位には成って居る。
中級ダンジョン程度なら二人を守りながら最下層に降りることも不可能では無い。
しかし、そこで伝えられたミッションは驚愕する物だった。
「この言葉は本当に告げたく無かったのだが、君達に出す指令はダンジョンの中で全滅することだ。」
この指令を果たすべきなのか、何度もケインと話し合ったが答えは出てこない。
しかし、領主様が狂った様な様子は無い。
しかも出発する際に頂いた言葉が、
「君達がミッションをこなして無事帰ってくることを祈っているよ。」
だったのが印象的だった。
そしてダンジョンに向かう。
普段ならメイドに話しかけるところだが流石にそんな気分にはなれなかった。
ダンジョンに入った後シメリア様を手に掛けると言う手もあったが流石にそれは騎士として出来なかった。
どんどん進んでシメリア様が襲われたら後を追うという形に話が纏まった。
それはシメリア様を守れなかった私達の受ける罰として受け止めることになった。
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