手負い
迷路を攻略する要領、左手伝いで虱潰しに歩いたが、上へ向かう階段は見つからなかった。
「おそらくここが一番上…なんでしょうね」
下り階段を前にして言う。
「ウン」
何も言わずに下りる。
狭い階段は、松明の距離がより近い。
「?」
松明の炎に、熱さを感じない。
直接触れてみる。
「ナニしてるノ?」
「熱くないんですよ、コレ」
「ホントだ」
雰囲気だけの、ただの光源ということか。
まあまともな炎なら暑くなるし、
酸欠にもなるだろう。
また下る。
「ん」
開けた場所に出る。
ただ一つの階層ほど広くなく、小部屋といった感じ。
中央に、
入ってきた時と同じような水晶玉が据えられている。
「途中で帰還するためのやつですかね」
「多分」
こういうポイントは、
大概セーフティエリアに設定されている。
「ちょっと休憩しましょうか」
「ウン」
街からずっと立ちっぱなしだ。
お腹も空いているだろう。
座って肉を取り出す。
「火球」
炙り直して復活させる。
「火球」
桃子猫の分も。
「アリガト」
口に運ぶ。
やはり肉は美味い。
火球を一回唱えるだけでも、
かなり温めることができる。
数値の成長は少なかったが、
きちんと火力は上がっている。
「火球」
悲観する程でもなかったか。
「火球」
「ン」
腹も膨れて、改めて階段を下る。
階層はすぐに現れた。
上階と何も変わらない構造。
変わったのは、散乱しているモノ。
スケルトンの残骸が散らばっている。
形を成して襲ってこないので、やはり残骸。
戦闘があったと見て間違いないだろう。
ここに来る時にそれらしい音はしなかったので、
すぐ近くに敵はいない。
魔法などの特筆した戦闘痕も無い。
「死体残るんだネ」
「そうみたいですね」
火球矢で消し飛ばしてしまったから分からなかった。
この状態を死体と呼んでいいのかは定かではないが。
それよりも問題なのは。
「宝箱とか、先越されてるかもですね」
この戦闘でやられていない限り、
目に見える宝箱は取り尽くされていると
想定していいだろう。
「急いで行った方が「静カニ」
突然の指示。
桃子猫には索敵も任せているので、喜んで黙る。
誰もいない通路の先を、桃子猫が見つめる。
『カラカラカラ』
おそらく見えていない右の岐路から、
スケルトンが顔を出す。
それがこちらを向いた時、
半壊した顔面が顕になった。
最初に出会ったスケルトンは新品その物だった。
出現時に損傷はないとすると、
このスケルトンは戦闘をくぐり抜けた個体。
そして戦闘痕のすぐ近くにいた。
ここで戦ったプレイヤーは全滅した?。
そこまで強いモンスターだろうか。
「エイ」
『ギ』
「あ」
手負いではあったものの、その骨は簡単に折れる。
ここで死んだプレイヤーが弱かったのか、
私たちが強いのか。
足切りはあるはずだし、
残っているのは一体だけだったので善戦はしたはず。
運が悪かったのだろう。
もう一度残骸を確認するが、遺品らしきものは無い。
何かが引っかかりながら、その場を後にする。
歩いて数分。
取り敢えず左手作戦を継続したが、
敵襲も宝箱もない。
作戦を変えるか。
「桃子猫さん、
反響とかで地形とか分かったりします?」
「ア、ウン、ソレなんだけど
もう足音がオカシイ




