試し撃ち
色々と膨れた食事だった。
保存用の肉は桃子猫に焼いてもらって、
枝の様子を見る。
石を退けても形が戻る気配がない。
目論見は成功し、弓の基礎ができた。
あとは弦を張るだけ。
長めの一本を弦の位置に据え、
別の二本で基礎と結びつける。
小学生の工作のようなクオリティだが、
弾性を調べられればそれでいい。
座った状態で適当に引き、離す。
『ビン』
力が解放され、弦が震える。
現実のそれと遜色ないように感じる。
腰紐を解いて矢を取りだし、番える。
傍の木に向かって、引き絞り放つ。
『カッ』
気持ちのいい音で、幹に刺さる。
ただやはり、
思っていた場所とは違う場所に刺さった。
弓の性能や自分の技量もあるだろうが、
至近距離でこうもズレるとは。
ひとまず発射、
着弾までの物理演算に致命的な欠陥は無い。
後は検証を重ねよう。
弦を引き絞る強さ、矢を番える角度、体勢、
それぞれを微調整する。
素材の安っぽさで命中率にデバフ等は起こらない。
特定の条件下で起きる、バグの特異点などもない。
自作の弓でも、
実践に投入できることがほぼ証明できた。
一つ思い出したことがある。
訓練場で行った、火球を手にめり込ませる方法。
もし火球がオブジェクトなら
なんでもめり込むとしたら。
矢じりにめり込むとしたら。
試す価値はある。
杖で放った火球は燃え広がらないし、そこも安全。
まず矢と杖を持ち、適度に近づける。
「火球」
炎を纏った球が、矢じりに固定される。
消えないよう素早く、慎重に矢を番え、放つ。
『ゴッ……』
閃光と爆炎と爆音。
「うわっ」
「ニャッ!?」
薪の軋む音しかしなかったこの場での、
唐突な爆音はやはり桃子猫を驚かせた。
申し訳なく思う。
ただそのおかげか、着弾点に二人の目がいく。
『メキメキ…バサバサバサ』
固い繊維が軋み、葉が擦れ合う音。
そして、木が倒れる。
未だ根を張っている幹には半球状の大穴、
その下半分が刻まれている。
接触面は物の見事に炭化。
放った矢は消えてしまった。




