敗れたり
「…ふぅ」
息を漏らす。
威圧によって緊張した全身の筋肉が、弛緩する。
他の三人も同様のようだ。
「剥ぎ取りましょう」
『剥ぎ取るって…あれを?』
ラッツがひっくり返ったホーンボアを指さす。
「ええ、一番大きい角を持って帰ります」
『奴が戻ってくるのでは?』
「その時は、また同じ方法で回避します」
『は、はぁ…』
一番乗りで茂みを抜ける。
それに伴って三人も抜ける。
機転によって回避したせいか、
調子づいていることは自分でもわかる。
若干の全能感を纏っている気分。
三人の怖気に沿った行動でないことは分かるが、
あの修羅場で無報酬はやってられない。
ホーンボアは、見回す限りでは絶命している。
「横に倒しましょう」
「分かっタ」
「『一、二の、三!』」
力を合わせ、横転させる。
そして改めて、角の並びを見る。
左右対称であり、下から順に短い。
犬歯だけは中程の大きさだ。
頭頂部の角に手をかける。
「これ、取りましょう」
「ウン」
角は頭骨と一体化しており、
多少手間取りはしたが抜くことに成功した。
あの後老兵は姿を見せなかった。
そして現在、夜。
壁近くの焼肉屋は、既に畳む準備をしていた。
『マジかーもう無くなっちゃうのかー』
『はーいご利用ありがとうございましたー』
エルフの肉屋が畳まれるまでの
期限付きであったので、
その知らせを聞いた時はこちらも驚いた。
救済措置としての事業なので、
ゲームバランスを考慮する以上存続の選択肢は無い。
客が去ったところで、集計に入る。
主だった収入はクエストの成功報酬。
肉は販売していたものの格安であり、
持ち合わせがない人間には取らなかったので、
そこまでの益にはならなかった。
『金貨一枚、銀貨百二十五枚に…銅貨三百五十六枚』
『銀貨にすると二百十九枚』
「思ったより…集まりましたね』
もとより思いつきでの計画。
配分などは決めてはいなかった。
全ての人員が一堂に会した時、結論は同時に出た。
「等分ですね」『折半ですね』
「『…』」
「エ?」
舌戦は唐突に始まった。
「一人一人役割に殉じたので、報酬は平等に…」
『役割と言ってもその労力には大きな隔たりがありますし、それ以前の立案等の重要性を加味するとやはり…』
両者の言い分はこう。
売上を人数で等分したい乱子。
リザードマングループと、
乱子グループで折半したい八八。
現代倫理をかざして見れば、
両者の言い分には筋が通っている。
後はどちらの気持ちが強いかで決まる。
「わかり…ました」
八八、WIN。
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