攻防
家を向かう電車に乗る。
「う」
まだ人が多い。
当然座ることも出来ず、奥へと流されていく。
ひとまず荷物を棚に上げる。
『グラ』
「おっと」
更に人が追加され、身動きが取れなくなる。
まさにすし詰め。
棚に上げるために、
手を挙げた状態からそうなったものだから、
近くの桃子猫と正面から密着してしまう。
上げた手はそのまま肩へ。
わざとではない。
不可抗力である。
だが完全にそういう雰囲気になってしまった。
桃子猫も顔を赤らめて見上げている。
視線が痛い。
いい匂い。
柔らかい。
温かい。
呼吸ができない。
意識が遠くなる。
『○○ー、○○ー』
駅に停車し、人が一気に降りる。
「ぷはっ」
外の空気も相まってかなり新鮮に感じる。
今回はそこまで追加はなく、距離を取れる。
「人、多かったですねー」
「…ウン」
桃子猫はおもむろに、
服の胸部分を掴んで鼻に持っていった。
「あ、いや、臭くなかったですよ!むしろいい匂いが…」
「ソウ?」
勢いよく息を吸ったせいで、
気を使わせてしまった。
何となく気まずい。
「次はー、△△ー、△△ー」
目の前の座席が空いた。
「どうぞ」
「ウン」
今度は桃子猫が見上げる。
不敵な笑みを浮かべながら。
何か、術中にハマったような気がしてならない。
『△△―、△△―』
駅が停車し、人が少々降りて大量に乗る。
「うおっ」
またも押しやられ、窓に手を突いてしまう。
正面には桃子猫。
要領は壁ドン。
術の正体はこれだったか。
「うう」
さらに人が乗り前へ。
服が桃子猫の顔に、ついた。
『スーッ』
わざとらしく吸う。
勘弁してくれ。
「背もたれ使えば、くっつかずに済みますよ…?」
「ニホンゴ、ムズカシイ」
今更それ言う?。
食えない人だ。
『□□ー、□□―』
人が大幅に減り、空いた桃子猫の隣に座る。
「その…匂いませんでした?」
「…」
「何か言ってください」
消臭したしシャワーも浴びたが、
万が一ということもある。
「…フフ」
「くっ」
桃子猫は未だ不敵な笑みを浮かべている。
だがもう座ったことで同じ失態は犯さない。
…あ。




