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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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69/79

*幕間*ジゼルの評判1

続きは夜に投稿予定です。

よろしくお願いします。

「この数日で一体何が……」


「……なんですか出勤早々」


凱旋の翌日、昼から出勤したエリザが執務室の扉を開けると、ユリウスが執務机に座ってうんうん悩んでいるところに遭遇した。


(どうせジゼル様のことなんでしょうけど……。正直面倒くさい)


机の上で手を組み眉間に皺を作っているユリウスを見て、エリザはそう考えた。


しかし聞かないわけにはいかない。


でないとしばらく使い物にならなくなってしまう。


瞬時にそう判断したエリザは、仕方がなくどうしましたかと聞くことにした。


「我々が討伐に出ている数日の間に、ジゼル嬢の好感度が爆上がりしているのだ!」


「はぁ?」


真剣な顔でそう話し始めるユリウスに、エリザは早くも聞いたことを後悔し始めていた。


ユリウスが言うには、昨日帰還してから今日の午前中までの間にジゼルの話をそこかしこで耳にしたのだという。


まず、おそらく王宮の料理人達が発信源であろうもの。


『まるで魔法のように見たことのない菓子を作るんだ!その手の動きには迷いがなく、美しいとさえ思ったね。味見もさせてもらったが、どれも絶品。彼女に手ほどきを受けたいよ』


一緒に菓子作りを行う中で、シュタイン伯爵家の料理長のように、彼女の腕に惚れてしまった者が現れたのだ。


これにはユリウスもほっこりした。


ジゼルの菓子作りの腕が認められたのだと、自分のことのように嬉しかったのだ。


『噂の“塩系令嬢”だって言うから、どんなに冷たい高慢な貴族令嬢かと思えば……。実際に一緒に過ごしてみれば、貴族じゃない俺達にもきちんとお礼は言ってくれるし、騎士達のことをすごく心配して一生懸命だし』


『褒めるとどう反応して良いか分からないって感じで、頬を染めて。初々しくてかわいいなって思いました!』


しかし、このふたつの話に対しては、ユリウスも複雑な気持ちになった。


「“初々しい”とか、“かわいい”って、恋愛感情を含んではいないか!?ジゼル嬢は確かに初々しくてかわいらしいが……」


好きな人が急に異性から人気が出て焦る、あれだな。


エリザはピンと来たが、とりあえず話を続けることにした。


「はいはい、ジゼル様が冷たい人間じゃないって分かってもらえて良かったですよね。で?まだあるんですか?」


「つ、次はだな……」


次は国王、ヨハネスから直々に聞いた話だ。


実は話を聞く前から、なんならあの凱旋の謁見の時から、ユリウスはヨハネスがやたらとジゼルを気に入っているように思っていた。


『まず何と言っても作る菓子が美味い!しかも、ちゃんと私の体調のことも考えてくれている。それに、何というか……あの無表情をどうにかして崩してやりたいという衝動に駆られるんだよな』


ヤバい奴だ、恐れ多くも国王相手にエリザはそう思った。


「謁見の後に団長と一緒に訪ねた時も、ジゼル嬢のことをかなりかわいがっている様子だった。ジゼル嬢も気を許しているような雰囲気だったし……」


さすがに年齢差がありすぎるし、ヨハネスには妃がいる。


恋愛対象には思っていないだろうが、保護者的な気持ちになっているのでは……とユリウスは考えていた。


「シュタイン伯爵や双子の兄に溺愛されて、その上陛下まで!?ハードル高すぎじゃないか!?」


頭を抱えるユリウスの姿に、確かにそれはちょっと……とエリザも同情した。


ジゼルとユリウス、両方に。


「それに……ジゼル嬢のことを“塩系令嬢”と恐れていた侍女達までこんなことを言っていた……」


おや、侍女も?


意外ねとエリザは興味深げに話を聞いた。


『“塩系令嬢”だなんて、とんでもない!あの方は最後の最後、騎士団が王宮に帰還するまで彼らのことを心配しておりましたわ』


『そうそう、それに陛下に対しても。あんなに美味しいお菓子を作れるのに決して驕らず。陛下に求められるがまま作って気に入られようとすることだってできるのに、陛下のお体のことを考えて窘めておりましたのよ』


『陛下もそんなシュタイン伯爵令嬢のことがお気に入りの様子ですわよね。それに、私見てしまったんです。騎士団長様と副団長様が謁見の後、陛下とご令嬢をお訪ねになった時……』


何を見たというのか。


エリザはごくりと息を呑んだ。


『お菓子争奪戦が始まって、なんとシュタイン伯爵令嬢が笑ったんですの!ほら、あの美しさでしょう?無表情な時は精巧な人形か氷の美貌かと言われておりましたが、笑顔はまるで天使のそれでしたわ!』


「まあ……そうですよね。私達も何度か微笑むジゼル様を見たことがありますが、本当にかわいらしいですもの。でも副団長、それの何がいけないのです?」


まさか女相手にも嫉妬?


もしそうだったら呆れるしかないなと思いながら、エリザは答えを待った。

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