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【書籍化】塩系令嬢は糖度高めな青獅子に溺愛される  作者: 沙夜
本編

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新作お菓子は誰のため?2

その日の夕食時。


私は視線を感じながら食事をしていた。


「おいリーンハルト、そんなにジゼルをじろじろ見るな。穴が空くだろう」


「やかましいジークハルト。おまえには関係ない、黙っていろ」


そう、視線の元はリーンお兄様だ。


数日前から様子がおかしい。


いや、ある意味前々からおかしい人ではあるのだが。


いつも以上に私に強い視線を向けてくる。


なんだろう、副団長さんとのことがバレたのだろうか。


あの日、地獄の訓練とやらを終えたお兄様はフラフラと……はせず、なんでもない顔……はしてないか。


なぜ俺がこんな目に!とイライラした様子で帰ってきた。元気に。


いつもよりも少し遅くはあったが、“地獄”と名のつく訓練を大した苦労もなく終えたらしい彼に、私は普通に驚いた。


この年で隊長職に就いているのだ、かなりの腕前なのだろうとは思っていたが、もしかしたらかなり優秀なのかもしれない。


そんなお兄様だが、副団長さんが私を訪ねてきたことは知らない様子だったので、私も知らんぷりをしておいた。


ロイドをはじめとする使用人達も、余計な波風を立てるまいと、あの日のことについて誰も口にはしていない。


だが、人の口に戸は立てられないもの。


ひょっとしたらメイド達の噂話でも耳にしたか、もしくは副団長さんから何か聞いたか……。


「ジゼル」


「はっ、はい!?」


急に名前を呼ばれて動揺してしまう。


何を言われるんだろう、そうドキドキしながらリーンお兄様の顔を見る。


すると。


「何か良いことでもあったのか?」


「……はい?」


予想外すぎる言葉に、面食らってしまった。


「ああ、それは俺も思っていた。最近機嫌が良さそうだな」


ジークお兄様までそんなことを言い出す。


「その上、元から愛らしい顔が最近ますます一層かわいらしくなった気がする」


かわいらしく、は気の所為だと思うが、無表情なことに定評のある私の機微に敏感なのは、本当に驚く。


そんな私を眺めながら、リーンお兄様が眉間に皺を刻んで組んだ手を机の上に乗せた。


「ジゼル、お前まさか……」


ま、まさか?


ごくりと息を呑んで続く言葉を待つ。


ものすごい緊張感と共に。


「「もしや、どこぞの馬の骨に恋などしてないだろうな!?」」


「……はい?」


これまた予想外すぎる言葉に、私は先程と同じ反応をしてしまった。


そんなわけないじゃないか。


そう言いたかったが、お兄様達は盛り上がってしまっている。


「くっ……ついにこの時が!?いや、俺の天使に悪い虫がたかろうなんぞ、許せん!」


「俺の、じゃなくて()()()天使だ!今まで大切に大切にしてきたのに……。デビュタントの後に婚約の申込みが大量に来ても、ジゼルは興味なさそうだったのに……。くそ、どこのどいつだ!?」


いや、私は天使じゃなくて人間だし。


羽根も生えてなければ空も飛べない。


それにどこのどいつだと言われても、そんな人存在しない。


困った、どう誤解を解いたら良いのだろう。


呆然とする私だったが、向かいの席に座るお父様はにこにこと微笑むだけだ。


私の機嫌が良いのが、ただ単に家族以外の人にお菓子を褒められたからだと知っているので、特に心配していないのだろう。


しかしそんなにのほほんと夕食を食べていないで、少しくらいお兄様達を宥めてくれないだろうか。


不満気な私に気付いたのか、お父様がまぁまぁと声を上げた。


「落ち着きなさい二人共。よく考えてみなさい、ジゼルはこの家から一歩も外に出ていないんだよ?そんなジゼルがどこの誰に恋をするっていうんだい?」


相手の男、殺す……と、まるでこの世の終わりかのように青ざめているお兄様達がはっと目を見開いた。


「そ、そうだな……確かに」


「いや待て、この家の使用人という可能性も……」


「「ありえません」」


リーンお兄様の気付きに、扉の側に控えていたロイドと侍女長ミモザの声が重なった。


「坊ちゃま達からそのような殺意を向けられると知っていてお嬢様に手を出すような、死にたがりの使用人は雇っておりません」


「侍女達からもそのような報告はあがっておりません。女の噂話という何よりも早い情報にあがらないということは、そんな事実はないということでしょう」


ふたりの説得力のある?言葉に、さすがのお兄様達も冷静になったようだ。


「ふむ。ならば余計な心配だったか。ではなぜ最近そんなに機嫌が良いのだ?」


ぎくり。


誤解が解けたのは良いが、副団長さんのことを正直に言うのも難しい。


どう誤魔化そうかと思案していると、お父様がはははと笑った。


「なに、もうすぐ催されるお前達の誕生パーティーでどんな菓子を作ろうか、わくわくしているのだろうさ。菓子作りのことになると、珍しくジゼルは感情を露わにするからな」


「そ、そうなんです。新しいお菓子を考えているとわくわくしてしまって……」


素敵です、お父様。


誕生パーティーのことはすっかり忘れていたが、事実に近い答えだし、お兄様達もこれでまるっと納得がいったようだ。


「そうか!ジゼルは俺達のために新しい菓子を考えてくれていたのか!」


「客共に振る舞わねばならんのが惜しいが……まあ少しのおこぼれくらい、仕方あるまい。何と言っても、俺達の誕生を祝うために、ジゼルが作ってくれるのだからな!」


……その上お兄様達を喜ばせてしまうとは、さすがお父様。


リーンお兄様からもすっかり疑惑の念は消えたようだ。


ふうっと息をつくが、確かにお兄様達のパーティのためのお菓子も考えなくては……。


……そういえば、副団長さんはリーンお兄様の上司よね?


パーティーにもいらっしゃるのかしら?


もしそうなら、パーティーに出すようなお菓子、きっと期待されることだろう。


「見た目は地味でも、美味しいものを用意しないとね」


ぐっと掌を握りしめて、意気込むのだった。

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