第98話 ゴブリンガールは煙突をくぐる!
ソリ引きの女、サンタルチアは期間限定クエストにチャレンジしているという。
それを達成すれば『赤服のソリ使い』という称号が手に入るそうだ。
「『赤服の~』シリーズの称号はぜ~んぶコンプしておきたいの! だって赤色コーデが似合う私にピッタリの呼び名だもの。そう思わない? ね~!」
「すでに赤い服着てるしソリにも乗ってるじゃん」
「それを自他ともに認めさせるための実績解除なんでしょ? 分からず屋さん♪」
「……それで、クエストの内容は?」
「その内わかるわよ。それよりホラホラ、行動開始! だって制限時間は夜明けまでなんだもの」
「げっ。もう数時間しかないよ!?」
今日は12月の24日。
言わずもがな、クリスマス・イヴだ。
ということはチャレンジクエストもサンタクロースにちなんだものだと思うけど……。
ふとサンタルチアのソリを見ると、その座席には大きな白い布袋が積まれている。
「それの中身は?」
「み~んな大好き、クリスマスプレゼントでしょ!」
「ははあ、それを一軒一軒回って置いていくのかい?」
どうやら骨が折れるクエストになりそうだよ……。
と思ったが、サンタルチアはウインクをしてチッチと舌を鳴らした。
「バーンズビーンズ中のお家にはもう配り終えたのよ。うふふ。仕事が早いでしょ?」
「まあ……。さすがはサンタの格好してるだけあるンだわ」
「それじゃあ次の街へ移動するのかい?」
「いいえ。これからもう一度忍び込み直すのよ」
はあ? なんで?
頭にクエスチョンマークを浮かべるアタイたちだが、サンタルチアは構わずに話を進める。
「見上げてごらんなさい。住宅通りの屋根沿いに煙突が点在するでしょ。あれが目印」
「あそこから入るのか?」
「不法侵入じゃん」
「だとしても嫌な気持ちはしないでしょ? だって~! こんなに可愛いサンタクロースとステキなプレゼントがやって来るんだもん♪ むしろ歓迎されちゃうって~」
「アタイはあんたに入って来られたら嫌な気持ちになるけどね」
「え~! どうして?」
ぼやきながらもアタイたちはサンタ女に続き、えいこらと身近な建物の外壁をよじ登った。
屋根を伝いながら移動を続け、やがて標的の煙突に到着する。
なんだかコソ泥にでもなった気分だねえ……。
「ススだらけで真っ暗なンだわ」
「下まで見えねえぞ……」
「も~、怖がっちゃって。そんなんじゃトナカイは務まらないわよ!」
煙突の中を覗き込んで足がすくむアタイたち。
その背中をバシンと叩き、サンタルチアは笑顔で3人を穴に突き落とした。
「ぎゃあ~!」
アタイとジョニーとスラモンは一気に暖炉の底まで落下して体中を打ち付ける。
さらにそれを下敷きにするように上からサンタルチアが降ってきた。
コッソリ入るためにわざわざ煙突使うんじゃないの!?
玄関扉を蹴破るよりもダイナミックな侵入になっちまったよ!
「なんの音だ!? 誰だ貴様らは!」
家主のおっさんが駆け付けて大声を張り上げた。
「うふふ、仰々しくお出迎えね♪ お気遣いなく~」
「いや歓迎してないよ!」
「弱ったなあ。サンタの姿は見られちゃイケナイの。だって聖夜の魔法が解けちゃうじゃない!」
「ならもっと見つからないように振舞ったら!?」
正論を飛ばす家主にはにかみながら近づいていくサンタルチア。
そして十分に間合いを詰めたと同時に高速の手刀を打ち出した。
首筋にクリーンヒットしたおっさんは意識を飛ばし、力なく絨毯に崩れ落ちる。
「ちょ! 何やってんの!?」
「これじゃマジもんの押し入りなンだわ!」
アタイたちの焦りを意に介さず、サンタルチアは思い出したように言う。
「ねえ知ってた? サンタの服が赤い理由。返り血を浴びても目立たないからなんだって~! 笑っちゃうわよね☆」
こいつは想像以上にイカれたバーサーカー女だよ!?
召使いのトナカイたちがこぞって逃亡した理由も良くわかったよ……!
「それじゃあミッション開始よ♪ みんな、お口を閉じて静かにしなさい」
「今さらか?」
サンタルチアは人差し指を唇に当てながらソロソロと忍び足で進み始める。
暖炉の部屋を抜け、次に立派なクリスマスツリーが飾られた大広間へと移動した。
ツリーの下にはキラキラにラッピングされたプレゼントの箱が積み上がっている。
「止まって。さあみんな、アレが見えるかしら?」
「ン……?」
どうやらプレゼントの山がカタカタと小さく揺れているらしい。
やがてそこの一角が崩れ、緑色の頭がひょこりと飛び出した。
「ククク……。どうやら見つかっちゃったみたいだね!」
ややあってアタイたちの前に姿を現したのは、全身が緑色をした毛むくじゃらの珍獣。
~グリンチ(討伐推奨レベル2)~
意地悪でへそ曲がりなモンスター。その正体は魔物とも妖精とも言われる。
特にクリスマスが大嫌いで、その時期になると様々な悪事を働く。
「オイラの名前はグリンチのグリ坊! クリスマスなんて大嫌いなのさっ!」
「あらあら。私が配ったプレゼントを片っ端から盗んで回っていたのよね?」
「その通り! オイラがみんなのクリスマスを台無しにしてやるのさっ!」
どうやらサンタルチアが二回も家に忍び込んだのはこのグリンチを待ち構えるためだったようだね。
プレゼントを盗むなんて邪魔をされちゃあクエストの成否に影響が出てしまう。
しかし、一体どうやってこいつを黙らせればいいんだろう。
……なるべく穏便な方法で済ませたいところだよ。
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
穏便な方法でって言ってるだろ!?
クリスマスだよ? 子供たちだって読むかもしれないんだよ!
サンタルチア、お願いだからR-18指定並みのスプラッターはよしとくれ!
【第99話 ゴブリンガールはソリを引く!】
ぜってぇ見てくれよな!




