第97話 ゴブリンガールはサンタと出会う!
初雪の舞い散る歓楽街バーンズビーンズ。
年明けを前にしてこの街はクリスマスのいろどり一色。
街路樹は煌びやかなイルミネーションで飾り付けられ、BGMに可愛らしいクリスマスソングが流れている。
そんな甘ったるい空間とはいえ、さすがに夜の冷え込みはきついものがある。
アタイたちザコモン3人組はこの寒空の下を行く当てもなく徘徊していた。
ホールケーキを山ほど積んだリアカーを引きながら……。
そう、ドンフーの命令で路上販売をやらされているのだ!(泣)
「お買い得だよー! クリスマスと言ったらホールケーキー!」
「食べなきゃ年を越せないよー!」
恐ろしいことに売れ残った分は自腹で買い取らされるとのこと。
自爆営業を強いるなんて労働法違反もいいとこだよ!
しかもただ売りさばけば良いというワケじゃない。
売れ行きを上げるために価格を割り引きしようものなら、その差額分も自腹で払えと言うのだ。
値は下げられないのに音は上げられないとは、これいかに。なんつって(ウマい!)
アタイたちはかじかんだ指で必死にベルを鳴らし、掠れる声を張り上げる。
だけど一向にお客は寄らない。
「日を跨いだら付加価値という名の魔法が解けちゃうよー!」
「どうかこのケーキたちを助けると思って!」
「ついでに俺たちのポケットマネーも救ってほしいンだわー!」
惨めなアタイたちを横目にクスクスと笑いながら通り過ぎるカップルたち。
チッ、聖夜と性夜をはき違えた不道徳者どもが!
その顔面に生クリームを投げつけてやりたい衝動に駆られる。
「アタイの予定ではシブ夫とホーリーナイトを過ごす予定だったんだよ? シャンメリーを飲んだりチキンに食らいついたり、とびきり楽しい夜のはずだった。それがどうしてこんなハメに……」
悔しさのあまりギリギリと歯ぎしりして醜く顔面を歪めるアタイ。
――――そのとき、背後からガタガタと何かが近づいてくる音がした。
それに併せて女の助けを乞う声も続く。
「誰かー! 私の荷物を止めてー!」
「ん……?」
振り返ると、下り坂をこちら目がけて滑走してくる大きな物体。
無人の馬車かと思ったが、それよりも一回り小さいようだ。
本来なら車輪があるはずのところにスキーのような板が付いている。
「……ありゃあソリだぜ」
「ゲレンデでもないのにどうしてソリがあるンだわ?」
「あんたたち! のんびりしてるとひき殺されるよ!」
暴走するソリが目前まで迫ったとき、アタイたちは間一髪で前方に飛び退いて事なきを得た。
……ただし、ソリはリアカーに衝突して無数のケーキが空を飛び交う大惨事になった。
「やだー! ぶつかっちゃったの!?」
遅れてひとりの女が坂道を駆け下りてきた。
モコモコした質感の赤服を身にまとい、頭にはサンタ帽を被っている。
そこからスラッと伸びる髪は艶やかな緑色。
まるでクリスマスリースを思わせる色合わせだ。
「私のソリがクリームだらけ! どうして止めてくれなかったのよ~!」
「いや、無理でしょ!」
「こんなに重たそうな物があのスピードで迫ってきたんだぜ?」
「はあ。それでも一端のモンスター? 情けないのね~」
女は呆れ顔でパンパンと手を叩く。
「あなたたち、さっさと一列に並びなさ~い。ソリ引きには規律が第一なのよ!」
「はあ……?」
「配達員としての素質があるかどうか、私が見極めてあげようって言うの! わかったらキビキビ動く~!」
一体なんの話をしてんだいこいつは!?
端折られ過ぎてついてけないよ!
「ソリ引きって、どうしてアタイがあんたのソリを引くんだよ!?」
「当たり前でしょ~? 私ひとりで子供たちみんなの家を周れるワケがないんだもの! 人手は常に足りないっていうのに、トナカイはみーんな逃げ出しちゃって! 困っちゃったわ~!」
「そんな事情は知ったこっちゃないぜ!」
話の噛み合わなさにアタイたちは困惑しっぱなし。
すると、そこに運悪くギャング団『ショートレッグス』の連中が通りがかった。
みんなして赤ら顔なのを見るとどうやらご機嫌に呑み歩いていたらしいね。
自分たちばっかりハメを外しやがって、憎々しい肉団子ども……!
「おう、お前らじゃねえか! どうだァ売れ行きは……」
ドンフーの旦那はグシャグシャにひしゃげたリアカーと汚物と化したケーキの山を見つけると、途端にワナワナと怒りに震えた。
「ゴブ子ォー! てめえはまともに物も売れねえのか!」
「ヒー! 違うんすよ旦那! 全部この女のソリが……!」
「ああん!?」
激昂するギャング団だったが、そんなことはお構いなしにサンタ女はピースサインを作りながら団子の群れに入っていく。
「カワイー! 怒りん坊の小人さんたち♪ ねえ、あなたの使い走りたちのせいで私のソリがベッタベタ! お仕置きが必要だと思わない?」
「お仕置きだあ?」
「だ・か・ら! あの子たちを一晩貸してちょうだいよ~。それでクエストを達成できたら弁償代も払えるしね」
「クエスト……。するってえとあんた、そのナリで勇者なのか?」
「大当たり! 私は橇術闘勇士のサンタルチア。期間限定クエストをクリアして『赤服のソリ使い』の実績解除をしたいの。でもでも、ソリを引くにはトナカイが必要よね~」
「そういうことなら! 好きに使ってくれや!」
なんでだよ!?
「そりゃねえっすよ旦那……!」
「アア? じゃあお前ら、明日までにそのケーキの代金見繕えんのかよ?」
「いや、それはちょっと……」
「ならやるしかねえだろ! クリスマス・イヴは今夜限りだぞ! 売れ残ったケーキのように廃棄されたくなきゃあ稼ぎを上げろ!」
どうしてこうなるの!
いつも以上に展開が強引だねえ!
あれよあれよという間にとんでもないことに巻き込まれちまったみたいだよ!?
アタイたちの命運はこのハチャメチャサンタ女の手に握られた。
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
『赤服のソリ使い』実績解除のチャレンジクエストはイヴの夜明けまでが期限!
それまでにすべての家にプレゼントを配り切るなんて間に合いっこないよ!
なのにサンタルチアはどこかズレたことばかり喋るし、あげくさっき入った家の煙突をまたくぐろうとしているよ!?
本当にサンタクロースをやるつもりはあるんだろうね?
【第98話 ゴブリンガールは煙突をくぐる!】
ぜってぇ見てくれよな!




