第96話 ゴブリンガールはコタツに潜る!
~ゴブリン集落(探索推奨レベル2)~
あれから場所を移して、ここはゴブリン村長の家の宅間。
早くも稼働を始めた掘りごたつの中に足を突っ込み、勇者たちの争いは一時休戦だ。
出された粗茶をすすって一息つく面々。
「やっぱコタツにはミカンが付き物だぜぇ!」
「シブ夫きゅん。ミカン食べりゅ?」
「いいえ。僕はいいので皆さんで召し上がってください」
「それじゃ遠慮なく~♡」
エプロンを付けた老害村長が奥の台所からひょこりと姿を現す。
手に持った盆の上は採れたて新鮮野菜で作った煮物や漬物のオンパレード。
「シブ夫や。お前はワシの糠漬けが好物だったからのう。たんと食べてお行き」
「村長さん。お気遣いありがとうございます」
「ねえねえシブ夫くん! この野菜、俺が耕した畑で育てたんだぜ!」
「こういう田舎暮らしってのも風流でいいわよね~」
アタイはこたつ台をバンと叩いて立ち上がる。
「たるんでんじゃないよあんたたち! まだ問題はひとつも解決してないだろ!」
「そうは言ってもよお」
「シビリオの奴は席を外したまま帰ってこないンだわ」
あの鎌女、教団と連絡を取るとか言って離席したまましばらく戻らない。
もしやそのままトンズラしたんじゃないだろうね?
「私ならここよ」
どこかしらの物陰からヌルリと出現する死神シビリオ。
その登場の仕方はビビるからやめろっつってんだろ!
「それで~? 教団とは話をできたの?」
「まあね。いろいろとわかったわ」
コホンと咳払いして、バツが悪そうに掘りごたつに足を入れるシビリオ。
「まあ喰えや」
差し出されたミカンを会釈して受け取ると、遠慮がちに皮を剝きながら話を始めた。
「篝火を持たずに生きる生物……。説明のつかない現象だけど、一度死んで蘇ったというなら一応の辻褄は合うようね」
「僕はモンスターじゃないと認めてくださるんですね」
「まあね。戦った感じ、手ごたえがアンデッドのそれとまるで違ったし。それについてはこの私が証言するわ」
ほっと胸をなでおろすアタイ。
シブ夫がモンスターだなんて冗談じゃないってんだよ。
「ずいぶんと素直になっちゃって~♡ 教団もシブ夫の存在を公式に認めるっていうのね?」
「ええ。というよりそもそも……」
シビリオは少し言い淀んで、アルチナに別の話題を振った。
「……『山崎ゴン太』という名の勇者を知っている? あんたと同じ、レベル90を超える伝説級の勇者だそうよ」
「ゴン太~? なにその適当なネーミング……」
アルチナは眉をハの字にして思い起こすように天井を見上げる。
「伝説勇者は片手の指で足りるほどしかいないわ。しかも揃いも揃って変質者ばかり。でもゴン太って名前の男は知らないわね~」
「そう……。でしょうね。その人物が最後に目撃されたのは100年も前のことだから」
「なら私が知るワケないじゃん~!」
シビリオは一体なんの話をしてんだい。
それってシブ夫と関係あるのかよ?
ならさっさと本題に入りな!
「……かつて教団員が勇者ゴン太と対峙したことがあったらしいの。その時の話によれば、彼の体にも篝火が確認できなかったという」
「え! それって……」
「彼もシブ夫と同様に転生者の可能性があるわ」
おいおい、何やらとんでもない新情報が舞い込んできたよ!
シブ夫よりも先にこの世界にやって来た人間がいたんだね!?
「正式な記録が残ってるワケじゃないし、教団も公認してはいない。信憑性は低いわ。でも調べてみる価値はあるでしょう。シブ夫。あなたのルーツを掴む鍵になるかもしれない」
「シビリオさん、ありがとうございます」
「だがしかし、一世紀も前の話じゃ情報がどれだけ残っているか……」
直接会って話を聞ければ一番手っ取り早いんだろうけど、とっくにミイラになっちまってるだろうしね。
「そうとも限らないわ。もっとも、ここから先は私の推測になるけれど」
「なんだ? 話してみ」
「『不老不死』って言葉があるでしょう。アンデッドの場合は体を刻めば活動が停止するから『不死』ではないけど、『不老』という特徴は持っている。転生者が一度死んだ人間であるなら同様の特質を有しているかもしれない」
転生者は年を取らない……?
思いもよらぬ発言に場の空気が止まる。
「それじゃあ、僕はこの世界では今の年齢のままなんですか?」
「見た目はね。話によるとゴン太の外見も数年のあいだまったく変わらなかったらしいわ」
ちょっと待ちなよ!
それは聞き捨てならないね!
驚愕の余りアタイの体は小刻みに震えだす。
アタイはシブ夫と思い出を作りながらステキに年を重ねていきたかったのに!
自分ひとりがババアになってもシブ夫は今の姿のまま……!?
そんなの……耐えられないよ……!
……ん? いや待てよ。
でもこのイケメンな容姿をずっと眺められるってことだね。
それはそれでアリかもよ。
アタイの猛烈な逡巡を知る由もなく、シビリオは淡々と話を進める。
「不老、故に寿命もない山崎ゴン太が今もどこかで生き永らえているとしたら、彼と直接顔を合わすチャンスはあるってことよ」
「も~。シビリオちゃんって案外楽観主義なのね~。100年間も姿が見えないんなら、死んじゃってるか意図的に隠れているか。どちらにせよ見つけ出すのは相当困難よ?」
「わかってるわ。すべては可能性の話。……試すも諦めるもシブ夫次第よ」
シブ夫は神妙にシビリオの話を聞いていたが、そのあと意を決した顔をしてアタイに向き直った。
「ゴブ子さん」
「ウ、ウン……?」
「魔王を倒すというあなたの野望、僕もお供する心積もりです。死神教団の話を聞いて魔王の思惑というものにも興味が沸きましたし」
「ソウネ……」
「ですが、もし時間が許すならまずは勇者ゴン太の軌跡を追ってみてもいいでしょうか。僕がこの世界へ飛ばされた理由の手掛かりを見出せるかもしれません」
そんなこと、改まって聞かれるまでもないじゃないか。
「水臭いこと言ってんじゃないよ! ちょっとくらいの遠回りなんて問題じゃないね! ゴン太とやらと合流して、魔王をなぶり殺しにして、そのままハッピーエンドと洒落こもうじゃないのさ!」
アタイの返事を受けて笑顔になるシブ夫。
「ゴブ子さん。いつもありがとうございます。僕とあなたは一心同体ですね」
……かぁーッ!
一心同体! なんてステキな響きの言葉だろう!
アタイはフルパワーで大気圏を突破するほど幸福な気持ちに満たされた。
「……ていうかシブ夫の協力がなきゃ俺たち低レベル帯から出ることもままならないンだわ」
「スタンス的には俺らの方がシブ夫の旅のオマケだよな」
背後でボソボソと揶揄を入れるジョニーとスラモン。
黙ってな! クソザコモンスターどもが!
「こいつは楽しくなってきたぜえー!」
「シブ夫きゅん! ボクたちもいつでも力になるからね! クンカクンカ!」
「これにて一件落着ね~。シビリオちゃんはシブ夫と一緒に行かないの?」
「教団はあくまで闇の組織。私は影から見守ることに徹するわ」
「うふふ♡ 応援役の私たちってなんだか似た者同士に思えない~?」
「あんたと似た者? やめなさいよ。鳥肌が立つじゃない」
活気にあふれるゴブリン村長宅の掘りごたつ。
転生者の謎が少し解けて、ショックと共に複雑な心境だけど……。
不老の話が本当かを確かめるためにもゴン太って野郎は見つけ出さないといけないねえ!
立ち止ってる時間はないよ!
まだまだ続く旅路に向けて、アタイたちはまた新しい一歩を踏み出したのだった!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
死神教団のおかげで他の転生者の存在を知ったアタイたち。
今後の旅は目下『勇者ゴン太』の捜索にシフトチェンジしそうだよ!
……といきたいとこだけど、メインクエストは一旦置いて他のクエストを挟ませてもらうとするよ!
だって暦はすでに12月!
みんな、今年もこの季節がやって来たね♪
シーズンクエスト【クリスマスする!】編、始まるよッ!
【第97話 ゴブリンガールはサンタと出会う!】
ぜってぇ見てくれよな!




