第88話 ゴブリンガールは判決を受ける!
~バーンズビーンズ裁判所(探索推奨レベル25)~
法廷の被告人席に座るのはオレンジの囚人服に身を包んだ5体のモンスター。
相手側の検察官はやり手を思わせるビジネススーツにメガネの男だ。
長ったらしい調書をよどみなくスラスラと読み上げていく。
「……以上より、本件で生じたインフラへの損害、及び住民の受けた精神的苦痛は甚大です。極刑を求める所存です」
「そうだそうだー!」
「さっさと八つ裂きにしちまえー!」
傍聴席からは荒々しいヤジが飛ぶ。
アタイたちは肩身が狭くって、互いに身を寄せ合って縮こまることしかできなかった。
「皆さん落ち着いてください。怒りはわかりますが、ここは公平を期すために判決を待ちましょう」
すっきりと通る声で暴徒たちを鎮めるスージー。
「勇者様がそう言うんなら……」
「クソモンスターどもめ! 勇者様に感謝するんだな!」
ふええ……。
一体全体、どうしてこんなことになっちまったんだろうね?
裁判長の座に伏すのは眼光鋭く威厳をたたえた老人。
彼に促されて2名の人物が証人席に姿を現した。
アタイらが初めに襲撃した白髪のオヤジと交番のポリ公だ。
「こいつらが突然私の家を……! 子供たちのために準備していたお菓子を……! ううう……!」
「小生は死ぬかと思ったのであります!」
涙ながらにアタイたちの悪事を訴える証人たち。
「異議あり!」
「誇張表現です! 裁判長! 撤回を求めます!」
アタイたちは思わず立ち上がり、指をさしながらオヤジとポリを糾弾した。
だが普通に警備員に押さえつけられて座らされた。
「被告人は静粛に! 騒ぎを起こすようなら刑務所に送り返すぞ!」
チッ!
奴らが好き勝手に喋るのを指をくわえて見てるだけかい!?
くそったれのクソ裁判め!
次は被告人尋問の時間だ。
先ほどのスマートな検察官が法廷をゆっくりと見回し、アタイたちに質問を始めた。
「それではスラモンさんにお聞きします」
「えっ!? 俺!?」
名指しの不意打ちに面食らうスラモン。
「スラモン! 間違っても不利な発言はするんじゃないよ!」
「アワアワ……」
小心者のスラモンはいつにも増して顔色が青白い。
うっかり口を滑らせちまいそうで見てらんないよ。
「それではスラモンさん……」
「異議あり! 誘導尋問だ!」
光の速さで横やりを入れるジョニー。
さすがだね! ナイスアシスト!
だがやっぱり裁判官にたしなめられた。
「次に意味なく進行を妨げたら法廷から放り出す。いいな?」
「かしこまりました」
「……ではスラモンさん。あなた方5人は最近知り合ったばかりだが、計画自体はずっと以前から練られていたようですね?」
「し、知らないンだわ……」
「知らないとはどういうことですか?」
「計画はジャックが……! 全部ジャックがいけないンだわ! 俺は巻き込まれただけなンだわ!」
この期に及んで仲間を売り始めるスラモン。
この腐れ外道が!
「フォー!(焦)」
ジャックは手足をばたつかせて必死に無実を主張している。
「ちゃうやんけ! 計画はもとより破綻しとった! それがガチャの引きのせいで強行する流れになったんや!」
「アア!? あずにゃんてめえ!」
「そうだぜ! ゴブ子がチケットを使ってガチャを回すから! 俺はちゃんと引き留めたんだぜ!?」
もはやアタイたちの仲間意識は瓦解した。
周りの目など気にせず、いかに互いに多くの罪をなすり付けるかだけを考えるのに必死だ。
「静粛に! こんなにひどい審議は前例が無いぞ!」
これには傍聴席で見守るスージーも呆れ顔で肩をすくめるだけだった。
次は被告人側の主張タイムだよ。
だがしかし、ここで問題が起こった。
担当の国選弁護人が裁判所に到着していないのだ。
事務官が駆けてきて裁判長に耳打ちする。
「どうやら勝てる見込みが無いからと匙を投げたようです」
「ふむ……」
マジかよ!
弁護士なしでどう裁判を切り抜ければいいってんだい!?
「仕方がないな。もう死刑にするか」
「ええ!?」
そこにスージーが待ったをかけた。
「裁判長。彼らにも最低限のチャンスは与えるべきです」
「しかし勇者殿。どうやって審議を続けろと言うのだね?」
「そうですね。彼ら自身に弁護をやらせるというのはどうかしら」
自分で自分を弁護する!?
無理難題すぎるだろ!
しかし、せっかくスージーが整えてくれた御膳立てだ。
なんとかこのチャンスを活かして望みを繋がなければ……!
「ここはワイに任せるんや!」
立ち上がったのはあずにゃん。
「お前弁護できんのか!?」
「安心せえ。こんなこともあろうかとネット配信で海外の法廷ドラマを見漁っとったんや! 専門用語はお手のもんやさかい!」
ピシリと袖を正して皆の前に出るあずにゃん。
真っ直ぐに2人の証人を見据えると、落ち着いた声で尋問を始めた。
「あの晩にワイらに襲われた、そう言いよったな?」
「ああそうだ」
「証拠はあるんかい!」
「え?」
「そもそもワイらがあの時間にあの場にいたというアリバイを立証できるんかい! ええ!?」
出た!
証拠にアリバイ……法廷ドラマでよく聞くフレーズだ!
さすがは海外コンプはなはだしいドラマオタクだね!
「なに言ってんだ。お前ら現行犯逮捕だろ」
「ッ……!」
秒で切り返されて言葉に詰まるあずにゃん。
「アカン……。ワイの見たドラマにこんな展開はなかった……。話がちゃうやんけ!」
無能にも程があるだろ……!
あまりの茶番劇に傍聴席では憤怒の渦が巻く。
「いつまで無駄な時間使ってんだ!」
「さっさと判決を下せー!」
湧き上がるヤジにとうとうあずにゃんの額の青筋がブチ切れた。
「ガタガタ抜かしよるなアホンダラぁ! 口に豆でも含んで黙っとれやあ!」
激昂しながら懐に手を差し込み、取り出したるは山盛りのアズキ豆。
それを傍聴席の人々に向けて豆まきの要領で投げつけ始めた。
「何やってんだイカれジジイ!」
「取り押さえてつまみ出せっ!」
あずにゃんは警備員たちに羽交い絞めにされ、一足先に刑務所へ送還された。
――――そのまま小休憩に入ってしばらく後。
席を外していた審員たちが結果を取りまとめて法廷に戻ってきた。
ついにアタイたちの運命が宣告される瞬間だよ……!
固く手を組んで一抹の希望にすべてを託すアタイたち。
裁判長は重々しく口を開いた。
そうして告げられた判決は――――!
「全員、死刑!」
「フォーーーー!(泣)」
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ハロウィン終わってもう2週間ですか?
いつまでこのテーマ引っ張ってんだよって話っすよね。
安心してください。
次回で終わりますんで、ええ。
終わるのはハロウィンだけじゃなさそうっすけどねえ……。
【第89話 ゴブリンガールは絞首台に登る!】
血濡れのトリック・オア・トリート……!




