第87話 ゴブリンガールは銃乱射する!
降り止まぬ銃撃の雨あられ。
スージーは小癪にもロビーの柱の陰に回ってアタイらの集中砲火をやりすごしている。
だがその姿勢をどれだけ続けられるかね?
こいつは見ものだよ!
「あなたたち! せっかくレアなアイテムを手に入れたんなら、それを使って社会に役立つことをしなさい!」
「んなことより人間たちに仕返しする方が大事なんだよ!」
「ハロウィンをこの手にGet Back! みんなに幸あれGood Luck!」
スージーに向けて鉛玉を打ち込むのに熱中していたアタイたち。
それを我に返させたのはスラモンの一声だった。
「マズいンだわ! 建物全体が敵に取り囲まれてンだわ!」
「なんだって!?」
頭に赤外線スコープを取り付けたスラモンがグルリと壁越しの景色を見回す。
どうやらショートレッグスのギャング団が態勢を立て直してここまで追いついたらしいね。
すでに役場の外はドワーフだらけになっていた。
「ふん、鬱陶しい奴らだね! 何度来ようが返り討ちにしてやるだけだよ!」
「Goblin Girl! 見せてやれそのSoul 胸には熱いRock 'n' Roll 俺の好物はCinnamon Roll」
アタイはスマホを取り出して力強くタップする。
もちろん特別チケットを切ってね。
さあ、次なる最強召喚アイテムは――――!?
~RPG-7(使用推奨レベル95)~
自己推進力を有するロケット砲を装填した対装甲車用グレネードランチャー。
弾速は遅く命中精度も低いながら、爆破威力は陸戦兵器の中で屈指のすさまじさを誇る。
出たあ! SSR!
現れたロケットランチャーをジャックが拾い上げた。
「汚ねえ花火を打ち上げてやんな!」
「フォーーーー!」
ドウンッ!
すさまじい衝撃波と轟音を吐いて射出された弾頭。
それは中軸に沿って自転しながら白煙の尾を引いて飛び、開けた正面玄関を抜けて円形広場へと向かった。
「なんだこいつはぁ!?」
「かがめっ!」
危険を悟ってとっさに地に伏すドワーフたち。
彼らの頭上をかするようにして低空するロケット砲は、そのまま広場を飛び越して向かいの建物の外壁に着弾した。
直後、この世のものとは思えない強烈な閃光が走り、同時にけたたましい炸裂音が周囲を包み込んだ。
ゴゴゴゴゴ……!
地響きを立て、破片と土ぼこりを上げながら崩壊していく建物。
あまりの惨劇にその場に居合わせた皆が言葉を失う。
アタイらモンスターの高笑いの声だけを除いて……。
――――すると、ジャックが肩に担いでいたRPGがシュワシュワと泡になって消えてしまった。
さすがに高威力のSSRアイテム。
一発撃つと消費扱いとなり無くなっちまうようだ。
他の火器も弾を打ち尽くしたらしい。
役目を終えたと言わんばかりに泡となってキレイに消えてしまった。
「おい河童! はよ新しい武器を出さんかい!」
「もちろんだよ! まだまだ暴れたりないからねえ!」
「ハロウィンをもっと楽しもうぜフォー!」
アタイはスマホをタップする。
……だけど、いくらつついてみても反応しない。
あれれ?
良く見ると画面に注意書きが表示されていた。
【チケットの購入枚数には限界があります。上限に達しました】
え!?
枚数制限あんの!?
硬直ののち、顔面蒼白になってブルブルと震えだすアタイたち。
なんでこういう大事なことはもっと大きな字で書いとかないんだい!
――――近年のネトゲ界隈には消費者を予期せぬトラブルへと誘う罠が張り巡らされている。
みんなも利用規約にはしっかり目を通しておこう!
「ゴブリンガール。よくもやってくれたわね」
柱の陰から静かにスージーが現れた。
見れば顔は真面目なトーンの怒りに満ちている。
……それは彼女だけではない。
物陰に隠れていた役場の職員やドワーフたちも順々に立ち上がり、殺気をほとばしらせながらアタイたちに近づいてくる……!
「あわわわ……!」
「くっそ! まだだ! まだアタイらは終わっちゃいねえ!」
アタイは往生際悪くスマホを操作する。
「何やってんだゴブ子?」
「通常ガチャを回すんだよ! もう一度SSRが出るまで何度でもね!」
「そんなのできっこないンだわあ……」
こんなところで……!
こんなところでアタイらのハロウィンを終わらせてたまるもんかよ!
しかし、現実の無常さを示すように召喚されるアイテムはレベルひと桁のガラクタばかり。
割りばしやつまようじ、綿棒やらがアタイの足元に転がっていく……。
「くそっ! くそっ!」
いつの間にかアタイの瞳は悔し涙で潤っていた。
スージーはそんなアタイの目の前まで近寄り、肩にそっと手を置いて言った。
「ゴブリンガール。もうやめなさい。いつまで罪と恥の上塗りを続けるつもり?」
……その一言が決め手になった。
アタイはガクリとひざを折ってしゃがみ込み、たまらずに嗚咽を上げる。
「許してくださいぃ……! つい出来心で……悪気はなかったんですう!」
「話は署で聞かせてもらうわ」
スージーの目配せを受けて、近くで待機していた警官たちがわっと駆け寄ってきた。
アタイたちは連行された。
~~~
それから数日後。
アタイらは凶悪犯として町長の一存により極刑を受けることになった。
「あんまりだ!」
「どうして俺たちばかりがこんな目に!」
バーンズビーンズ刑務所の狭苦しい面会室で、分厚いガラスの仕切り板ごしに慈悲を乞うアタイたち。
対面に座るスージーはさっきから黙って腕組みをしているだけだ。
「あなたたちねえ。反省の色が見えないのよ」
「反省ならいくらでもしてやるよ! 命を助けてくれるならね!」
「本場のスライディング土下座を拝ませたるで!」
「フォー!(泣)」
ため息をつくスージー。
だが彼女も彼女で何か思う節があったようだ。
しばらく物思いに耽った後で口を開いた。
「あなたたちに同情するって意味じゃないけど、今回の処罰は少し強引な気もするわね」
「マジか!」
「だよな! だよな!」
「勘違いしないで。個人的には極刑を受けてしかるべきだと思うわ。ただ、相手がモンスターだからといって安易に刑を執行してしまうことが引っかかるの」
ん?
それってどういうことだい?
「裁判をしましょう。厳粛な司法のもとではっきりと償うべき量刑を定めるのよ」
オイオイ、嘘だろ生真面目優等生女……!
スージーは何事も規範にのっとって白黒つけないと気の済まない性分だ。
だがそれにしたって、裁判にかけられる魔物なんか前代未聞だよ!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
アタイらの無実を証明するための裁判が開かれた!
だが裁判長は厳しそうなジジイだし、傍聴席は怒り狂った住民たちで満杯だ!
証人喚問ではこっちに不利な発言ばかりされるしね!
だけどこんなことで司法の力に屈するワケにはいかないよ!
真実は必ずアタイが暴いてみせる……!
【第88話 ゴブリンガールは判決を受ける!】
血濡れのトリック・オア・トリート……!




