第86話 ゴブリンガールは役場を攻める!
スマホからボワンと湧き上がった煙。
それが晴れると重々しい銃器の山が現れていた。
頼もしすぎるSRアイテムたちに舌なめずりが止まらない。
そして極めつけは何やら4つのタイヤが付いた鉄製リヤカーみたいな道具。
~ゴーカート(使用推奨レベル47)~
外装フレームにハンドルと座席を取り付け、小型エンジンを搭載した簡易構造の走行車。
一般車に比べると速度や耐久性に制限があり、主に競技やレジャーの目的で使われる。
「こいつ、どうやら動くみたいだよ! 全員乗り込みな!」
アタイたちはゴーカートに飛び乗った。
いち早く運転席に飛びついたのはあずにゃんだ。
「あずにゃん、お前運転できんのか?」
「なめんといてやぁ! これでも若い頃は東海道中を人力車でブイブイ言わしとったクチや!」
踏み込むペダルに唸るエンジン!
ゴーカートは急発進と同時にドリフトを決め、前方から走り込んできた数体のドワーフを轢き飛ばした!
脇を転がっていく短足団子には目もくれず、アタイたちはそれぞれの銃に弾を詰める。
赤外線スコープを覗いていたスラモンが声を上げた。
「後方! 5時と7時方向に無数の敵接近だわ!」
「やっちまいなァ!」
ババババババ!
ライフルの炸裂音とドワーフどもの雄叫びが閑静な住宅街に響き渡る!
「Joooy!」
ジャックは細い長身を活かして器用に車体から身を乗り出し、足の遅いドワーフたちに弾幕を張る。
弾の雨を浴びてたまらずに転んでいく短足団子。
ショートレッグスの連中を振り切るのにそれほどの苦労はいらなかった。
「なんだあれは……?」
通行人たちが爆音で通りを疾走するゴーカートとアタイたちを振り仰ぐ。
「ひれ伏しな人間ども! 血塗られたハロウィンの始まりだよ!」
「Wow Wow高鳴るHeart刻むBeatはSo Sweet!」
アタイらはカートの上から好き勝手に銃を乱射する。
弾は逃げまどう人々をかすめて飛び、軒下に飾られたカボチャのランタンを打ち砕いて欠片を散らした。
どうだいみんな!
アタイの勇姿を見てくれてるかい!?
まるで空を翔けて炎を噴く無敵のドラゴンの気分!
ああ、この夢のような時間が永遠に終わらなければいいのに!
「おい河童! ワイらはどこに向かえばええんや?」
「またどこかの家に押し入ってお菓子を奪い取るか?」
「バカ言ってんじゃないよ! そんなコスいことに貴重な弾丸は使えないねえ」
今のアタイたちならどんなことだってできる!
そう、この街を手中に収めることだって……!
「このままバーンズビーンズの心臓部に攻め込むよ!」
「おい、それってつまり……!」
「ああそうさ! 町役場を占拠する!」
ちょうど進行方向に商業区の中心地である円形広場が見えてきた。
その先にあるのが目標の建物だ!
「しっかり掴まっときー!」
あずにゃんはギャギャギャとタイヤを鳴らしながらドリフトでコーナーを攻め、フルスロットルのまま役場の正面玄関をぶち破った。
ダイナミック入場を果たすゴーカートとアタイたち。
無論中にいた職員たちはパニックに陥った。
「お客様!? 規則ですので駐車場をご利用くださいィー!」
「規則規則とうるさいねえ! そんなんだからいつまでも行列が捌けないんだよ!」
アタイらは各々が銃を構えながらゴーカートから降り立った。
そこに見覚えのある顔の男がササッと現れる。
バイト中のヤンフェだ。
「う、うへへ……! みなさん仲良くご一緒で……。ご来庁ありがとうございやす~」
ゴマすりのごとく手を揉みしだきながら低姿勢で話しかけてくる。
「それで……今日はどういったご用件で?」
「町長はどこだい? そいつを撃ち殺してアタイが新町長になってやるんだよ!」
「はあ。アポイントはお取りでやんすか?」
「取ってるワケねーだろ!」
アタイは銃床の先でヤンフェの額を殴りつける。
それでこのゴマすりコウモリ野郎は大人しくなった。
――――すると、受付カウンターを越えた先にある町長室の扉が開き、中からひとりの女が現れた。
腰ほどまで伸ばした髪を後ろでひとまとめに結び、スラリと長い足でツカツカとこちらに近づいて来る。
その堂々とした振る舞いに見覚えがあった。
「お前、スージー!?」
「あら、ゴブリンガール……。はあ……。今度はなんの騒ぎなの?」
露骨にウンザリ顔を見せるスージー。
いい加減にしな!
ウンザリしてんのはこっちも同じだよ優等生女!
「どうしてスージーが役場にいるンだわ?」
「もしかして……。町長と癒着してんじゃないだろうな?」
「ふん、見損なったねこの不道徳者! 正義のヒーローが聞いて呆れるよ!」
ギャンギャンと悪態を喚き散らすアタイたち。
するとスージーは腰に手を置いてこれ見よがしに長いため息を吐いた。
「勝手に話を進めないで。私は町長から近辺の魔獣狩りを依頼されたの。そのクエストを終えて報酬を受け取りに来ただけよ」
チッ……!
ただの真っ当な勇者かい!
まあ、どっちにしろ気に入らないんだよ!
アタイはためらいなくショットガンの銃口をスージーに向ける。
ここでこの女を始末しておけば、シブ夫争奪戦のライバルがひとり減ることになるからね。
アタイを差し置いてシブ夫とイチャつこうとしたのがいけないんだ!
恨むんなら自分のミーハー体質を恨むことだね!
ドカン!
アタイの手元から飛び出した銃弾は広範囲に拡散しながらスージーに迫る!
「くっ!?」
スージーもさすがの中堅闘勇士。
動体視力で弾道を見切り、かろうじて攻撃を回避した。
「……なんなの、その武器は!?」
言いながら背中に背負っていた長弓を手に取ろうとする。
「させるな! 奴に弓矢を使わせるんじゃないよ!」
「WowWowWow!」
ドドドドドド!
役場のロビーで繰り広げられる一方的な銃撃戦。
果たしてアタイたちは生意気なスージーを懲らしめてやることができるのか!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
予告関係ないんだけど、ジャックのセリフ内の横文字にルビ振るのめんどくせえ……。
【第87話 ゴブリンガールは銃乱射する!】
血濡れのトリック・オア・トリート……!




