第85話 ゴブリンガールは無双する!
ピンポーン……。
呼び鈴が鳴り、ややあって白髪のオヤジが不用意にもドアを開けた。
顔には笑みを、手にはお菓子入りのボウルを携えて。
「はいはーい。……ん? なんだまたお前らか!」
仮装姿の可愛らしい子供たちを期待してたんだろう。
玄関先にいるのがアタイたち魔物の集団だとわかり、途端に不機嫌顔になるオヤジ。
「何度言えばわかるんだ! お前らみたいなゴロツキはハロウィンにお呼びじゃないんだよ!」
そう言ってドアを閉めようとしたが、そうは問屋が卸さない。
今日のアタイたちは一味も二味も違うんだからね!
ジャックがガシリとドアを掴んで止め、アタイが抵抗するオヤジの顔面にショットガンの銃口を突き付ける。
「よくもアタイらをいびってくれたねえ……。お返しに鉛玉をくれてやんよ!」
「なんだそれは! くだらんイタズラでも仕掛けるつもりか!」
オヤジはショットガンというものをお目にかかったことがないらしい。
怯むことなく頭ごなしにアタイたちを叱りつける。
それと対照にアタイらはケラケラとオヤジを笑い飛ばした。
「こいつは傑作や! 自分の置かれた状況がまるでわかっとらへんでえ!」
「Yoゴブ子! そのアイテムがどれだけDangerousでGorgeousかこの場でShow Now Here!」
「いいだろう! 試し撃ちといこうじゃないか!」
チャキリと音を立てて射撃の構えを取るアタイ!
「魔物に舐めた口利いてくれたお礼だよ!」
ドカン!
轟音とともに飛び出した弾丸はオヤジの肩をかすめて背後の部屋へ飛び、炸裂して広がった。
それらはハロウィン用に配置された可愛げな装飾品や小物類を粉々に割り、引き裂き、そして内壁の一面に無数の穴を開けた。
一瞬にしてズタボロの惨状と化したオヤジの部屋。
「うひょ~……!」
むせかえるような硝煙の中でオヤジがヘナヘナとへたり込む。
あまりのショックに呆然自失になっている。
手元からはボウルが滑り落ち、中身のキャンディやチョコレートが地面に散らばった。
ホレボレするほどの火力!
SRアイテムに相応しい暴れっぷりだよ!
するとアタイらの背後に何者かが駆け寄ってきた。
「こらあ! 何を騒いでるんだ魔物ども! 騒音を出すならディスコにでも行きなさい!」
見れば先日アタイらを追い払った交番のクソ警官。
ここで会ったが百年目だねえ……!
「失せな悪徳ポリ公!」
「What The Fuck!?」
無情にもアタイの散弾銃が2発目の火を噴いた!
それは芝生で覆われた庭の一部に直撃し、土をえぐって壮大なしぶきを上げる。
すぐ近くを走っていた警官は衝撃ですっ転び、そのまま失神&失禁のコンボをキメた。
汚ねえスプリンクラーをまき散らしやがって!
「やったぜゴブ子!」
「誰も俺たちには敵わないンだわ!」
「なぜなら今は!」
「So! 待ちに待った闇夜のハロウィンMidnightフォーーーー!」
フハハ! 無力無力!
アタイは地面に落ちているチョコレート菓子をむんずと掴み、そのまま口に頬張ってムシャムシャしてやった。
征服感というスパイスの利いた至高の甘味が口いっぱいに広がる。
ああ、最高の気分だね!
――――しかし、調子づくアタイらの前に次なる邪魔者が現れた。
騒がしい足音を響かせて何人ものドワーフたちが敷地の中に入って来たのだ。
「やいやい! こいつはなんの騒ぎだァ!?」
集団の先頭にいるのはドンフーの旦那。
自警団気取りで街を巡回しているギャング『ショートレッグス』のお出ましだね!
「おうお前ら! 俺様のシマでひと暴れしようなんざ百年早いんだよ! 人間を襲うんなら事前に俺たちに話を通しなァ!」
話を通すってなんだよ……?
まさか人を襲うのにも許可料取ってんのかい!?
どこまで金銭欲にまみれてんだよこのクソドワーフは!
だがたとえドンフーの旦那だろうが恐れることはない。
なにせ今のアタイたちはSRガチャの力で無双状態なんだからね!
「おうゴブ子! とにかくその物騒な道具を……」
「うっせー!」
ドカン!
吹き飛ぶドンフーの旦那!
「うわあ!」
「何が起こった!?」
状況がわからずたじろぐショートレッグスの子分ども。
……どうやらドワーフが身に付けている金属鎧はバカみたいに分厚くて、ショットガンでは貫通するほどのダメージを与えられないらしい。
だが3、4メートルは吹き飛ばすほどの威力を持つ。
旦那は目を回して地面に転がり完全に伸びちまったようだ。
「よくも親分を!」
「こいつら全員ぶち殺せ!」
背負った斧を引き抜いて襲い掛かるドワーフの男たち!
「まとめて死に晒せや短足肉団子があ!」
ドカン! ドカン!
間髪入れずに放たれる散弾と宙を舞うドワーフども!
一軒家の庭先を舞台に地獄絵図の攻防戦が始まった!
ショットガンの威力は確かなものだが、やはり銃口ひとつで複数を相手にするには手が足りない。
果敢にタックルを仕掛けてくるドワーフを撃ち飛ばしながら、アタイの足はジリジリと後退を余儀なくされていく。
「チッ! いくら撃ってもキリが無いね!」
「一旦家の中に避難するぞ!」
一瞬の隙を突き、アタイたちは回れ右をしてオヤジの家の中へと駆けだした。
だが肉団子たちも執拗にこちらを追い、土足で家になだれ込んでくる。
アタイたちは止まらずに部屋の奥まで走り、勢いで窓ガラスを蹴破りながら外へと転げ出た。
そこは住宅がズラリと面するバーンズビーンズ一番の大通り。
後ろを振り返ると、すでに先ほどの窓の向こうに大勢の肉団子たちが押し寄せている!
「クソ! ガチャを回すよ!」
「おう! 惜しみなくチケットを使ったれ!」
アタイは高速で液晶画面をタップしまくる!
来たれSRアイテム!
ガチャの力で最凶モンスターにメイクアーップ!
~獲得アイテム一覧~
・サブマシンガン(レベル76)
・アサルトライフル(レベル82)
・ショットガンシェル(レベル52)
・赤外線暗視スコープ(レベル48)
・ゴーカート(レベル47)
ったくやればできんじゃねえかよガチャよお!
お前のこと、アタイはずっと信じてたぜ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ゴーカートを乗り回し!
重火器を乱射し!
攻め込むはバーンズビーンズの中心地!
すべてはモンスター、そしてハロウィンの品位を守るために!
それがアタイたちのジャスティス――――!
【第86話 ゴブリンガールは役場を攻める!】
血濡られたトリック・オア・トリート……!




