第84話 ゴブリンガールはハロウィンする!
「My Name Isランタンのジャック! So! 人呼んでジャック・オ・ランタン! Nice To Meet You For You I’m Fine Thank You フォーーーーー!」
「うるせえ!」
なんなんだよこのパンプキンヘッドは!
バカみたいに大声で長ったらしく横文字を叫びやがって!
英単語を学びたての中学生かよ!
「最近キャラの濃さのインフレ化が凄まじいンだわ」
「この調子だとヤベー奴だらけになっていずれ収拾がつかなくなるね」
「破綻する日は近いぜ」
この物語の先行きを案じて曇り顔になるアタイたち。
あからさまに歓迎されてないのを感じ取りながら、それでもジャックとやらはテンションを改めようとはしない。
「フォーーーー! ハロウィンが近づいてるってのにその白けたツラはなんだYo! もっとMore MoreでアゲていこうぜYearrrrrrrr! フォー!」
そう言われてもアガりようもない。
ハロウィンはもはやモンスターに供物を捧げるための催しではなく、人間たちだけで仮装やお菓子を楽しむ大衆的なお祭りと化してしまったのだ。
アタイらなんてお呼びじゃないのさ。
今日あった出来事を涙ながらに打ち明けると、ジャックはヘドバンばりの大振りな頷きで共感を示してくれた。
「モンスターは邪魔者? 街から追い出す? そんなもんはハロウィンじゃNon Non! 俺たちのための祭りを取り戻そうぜHey Come On Say フォーーー!」
「フォーフォーうるせんだよ。あんたはフクロウか?」
いい加減キレたアタイは奴の胸倉を掴んで凄んでやった。
「フ、フォー……!」
萎縮して多少は大人しくなったジャック。
それからつらつらとこの街へやって来た理由を語り出した。
ジャック・オ・ランタンと言えばハロウィンに登場する怪人の代表格。
だが最近はカボチャ頭を見ても恐怖にすくむ人間などいない。
むしろこの時期にはジャックを模ったランタンを進んで家や店先に飾る始末。
すっかり畏怖の対象ではなくなってしまったのだ。
「あんたは失われたモンスターの威厳を取り戻すために旅をしてるってことかい」
「まあそんなFeelingなMoveでGoing!」
という経緯で、ジャックはハロウィンにとんでもない惨事を引き起こして人間たちを驚かせようと計画しているそうだ。
それに手を貸してくれるモンスター集めをしているらしい。
すでに何人かの心強いメンバーが集結し、街のはずれの廃倉庫に待機しているという。
「YouもTogetherでこの腐りきった祭りをぶち壊しーのMake A Glory Of God!」
「やめろっつってんよな? 聞こえてねえのか?」
「………!」
「次叫んだらてめえの側頭部に耳代わりの風穴開けてやっからな? いいな」
「……はい」
「それでゴブ子、どうするんだ? この話に乗るのか」
「このカボチャ野郎はイマイチ信用できないが、街を襲うという発想自体は悪くなさそうだね」
「本気かよ?」
人間どもはハロウィンの日を浮かれて過ごすはずさ。
皮肉にも自らがモンスターの姿に扮して酒を飲みながらのバカ騒ぎ。
まさか本物の魔物に襲撃されるだなんて想像もしていないだろう。
隙を突くにはまたとない好機のはず……。
そして何より、アタイたちをないがしろにしてハロウィンを楽しもうって連中をギャフンと言わせてやりたいからね!
「俺たち同様に不満を持ってるモンスターは多そうだしな」
「ひとまずジャックの集めたっていう協力者たちに会ってみるンだわ」
アタイたちはジャックの案内で寂れた廃倉庫に向かった。
闇の中におどろおどろしく佇む放棄された納屋。
さび付いた鉄の扉をギギギと鳴らしながら押し開ける。
ガランと開けた広間の奥には佇む人影がひとつあった……。
その人物は大きな桶を抱え、中に手を突っ込んで高速でかき回している。
シャカシャカシャカ……!
「あ~ん? まぁたゴブリンガールかい! ったく堪忍してえや~!」
「あんたは……、アズキ洗いのあずにゃん!?」
※あずにゃんについてはサイドクエスト【百鬼夜行する!】(第76話~)を参照。
「なんやいつぞやの大蛇退治でクソほどの役にも立たんかった奴らが、どのツラ下げてここの敷居またいでくれとんねん!」
「一目散に逃げだしてそのまま音信不通だった奴が言うなし!」
「フォー!」
「あずにゃんは妖怪だろ? なんでハロウィンにゆかりもないクセに参戦してんだ?」
「ハロウィンゆうたら魔物がどんちゃん騒ぎする行事のことやろ? 日本で言うところのお盆みたいなもんやん」
全然違えよ!
もうクニに帰れよお前!
しかし、あずにゃんとの再会以外にも困ったことがあった。
広々とした倉庫にはこいつ以外に一切の人の気配が無かったのだ。
「フォー! 他の有志たちはいずこへFar Away?」
「帰ってもうたで。やっぱこの計画ダメそうや言うてな」
「フォッ!?」
「ついでにワイも降ろさせてもらうわ。期待して待っとった結果会わされたんが河童もどきとは笑い話にもならへん」
「ふん! それはこっちのセリフだよ!」
互いに睨み合ってツバを吐き捨て、そのまま納屋を後にしようとするアタイたち。
するとジャックが泣き声だか奇声だかわからないものを上げてアタイの足元に縋りついてきた。
「フォーーー! 一人きりのLonelinessに浮かぶMemoryはMarvelous!」
「うるせえ! さっきから意味わかんねえんだよ!」
アタイは無情にもジャックを蹴り飛ばす。
地面に転がったパンプキン野郎はひどく悲し気な顔で俯いた。
「ハロウィンを取り戻したいその想いに疑いは無い 信じていたいMy Justify 悔しさに滲むCry 見上げたSky 沈む夕日に尋ねるWhy……」
ポタポタと涙がしたたって倉庫の床を濡らしていく。
アタイは急に気の毒になってしまった。
「ハロウィンで一番不名誉な扱いを受けてるのは他でもないジャックだぜ」
「このまま放っとけないンだわ」
「せやかてワイらにできることはあらへんで」
仕方がないね。
何かの役に立てるとは思えないけど、せめもの餞別にガチャを回して出たアイテムをくれてやるよ。
それで勘弁しておくれ。
アタイはスマホを取り出した。
「ん? なんだこれ?」
見れば画面に何やら見慣れない文字が表示されているではないか。
【期間限定! SR以上確定のボーナスチケット購入可能!】
「SR確定だって?」
注意書きを読むと、通常のガチャの10倍の費用でボーナスチケットを1枚買えるらしい。
それを使えばレアの出る確率が上がるそうだよ。
「どうせ今回もぬか喜びさせるだけだろ」
「欲を出さない方が賢明なンだわ」
あんまり期待はできないけど、一回だけ試してみるくらいはいいかもね。
アタイはチケットとやらを消費して画面をタップする。
そうして虹色に輝くスマホから現れたアイテムは――――?
~ショットガン(使用推奨レベル78)~
多数の小さな弾丸が詰められたシェルを装填し、放射状に撃ち出す携行大型銃。
貫通力は低いが広範囲に面的な破壊をもたらす高威力の近距離用散弾ライフル。
【おめでとう! SRのアイテムをゲット!】
……………。
……マジ?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ついに本領を発揮したアタイのガチャ!
現れた散弾銃には夢と希望という名の弾丸が詰まっているよ!
思わずトリガーを引く手が震えてきちまうね!
……さあ人間ども、始めるとするかい。
血濡られた『命のやりとり』をね……!
【第85話 ゴブリンガールは無双する!】
ぜってぇ見てくれよな!




