第78話 ゴブリンガールは狐につままれる!
刀を引き抜いた大五郎は丸腰のミクノに向けて問答無用で距離を詰める!
「ちょっと大五郎! 落ち着きなって!」
「ミクノの無粋な態度にイラ立つのはわかるけどよお、暴力は良くないぜ!」
必死になだめようとするアタイたちだったが、大五郎の奴はまるで耳を貸さない!
普段のニヤケ顔が一変し、鋭い眼光を放ってミクノに肉薄する!
そのただならぬ様子にミクノも意を決したようだ。
目を狐のように吊り上げ、両手の指を開ききって爪を立てる。
シャーッ!
ケモノのごとき異様な跳躍で飛び掛かるミクノ。
だがそれよりずっと素早く振るわれた大五郎の太刀によって、あえなく体を切断されてしまう。
ザ・ザン!
ボトボトッ……!
いくつもの塊に分かれたミクノの亡骸が辺りに散らばる。
~八ノ字の型(アビリティレベル30)~
刀術闘勇士の習得する攻撃戦技。
「への字」を描くように敏速で繰り出す二段斬りで、切断補正が付く。
レベルの上昇に併せて攻撃力と速度が強化される。
「ギャ~ッ!」
あまりの惨劇にアタイら3人はベソをかいて互いに抱き合う!
このチョンマゲ男、躊躇なく人を切り殺しやがったよ!
「人殺し! ケダモノ!」
「妖怪なんかよりお前の方がよっぽど恐ろしいンだわ!」
泣き叫ぶアタイたちだったが、大五郎は刀に付いた血を払うとニヘリといつもの緩み顔を作った。
「よぉく眼を開いてご覧あれ。拙者が斬ったのは人ではござらんぞ」
「ん……?」
いつの間にか、転がっていた死体は毛むくじゃらの動物の体に置き換わっている。
おかしいね?
さっきまでは確かに白装束姿の女だったのに。
それどころか、すぐ目の前にあったはずの掘っ立て小屋は枯れかけたみすぼらしい大木に変わり果てている。
一体全体、なにが起こったってんだい!?
「こやつは貉。ありもしない錯覚を魅せるモノノケよ。どうやらしばらく前から幻術にはめられておったらしいのう」
「ええ?」
~貉(討伐推奨レベル28)~
人の記憶の断片を読み取り、再現して幻想に陥れるアナグマの魔獣。
惑わされて混乱状態になった相手に襲い掛かる。
「妖を見せると言っても巧妙なことはできん。せいぜい記憶を掘り起こして夢のもどきを見させる程度。そうして油断したところを仕留める小賢しいモノノケよ」
「なぜミクノの姿に化けたんだい?」
「拙者とお主らとに共通する事象を利用したのだろう。だが各々の記憶に食い違いがあった場合、それを補正するほどの力は持たぬ」
「はあ? どういう意味?」
「拙者の覚えているミクノ殿は耳飾りなどしておらなかった。おそらく故郷を出てから身に着けた品なのだろう。その部分はお主らの目にしか反映されなかったということだ。その証拠に、偽装の鈴がいくら揺れようとも音を奏でることはなかったであろう?」
たしかに言われてみれば鈴の音は聞かなかったね……。
なるほど、幻を見破るには互いの記憶違いの部分を探し出せばいいってことか。
「お見事ですね。大五郎殿」
――――凛とした声が響き、思わずアタイたちは振り返る。
そこにはススキの原をかき分けるようにして歩き寄る本物のミクノがいた。
歩を進めるたびに揺れる鈴飾りからリンリンと涼やかな音が出る。
「なんだい! 結局あんたも近くにいたんだね!」
「少し前にこの貉と対峙しておりましたが、小癪な妖術によって足止めを食わされておりました。おそらく私とあなた方とに虚像を見せて同士討ちを狙う算段だったのでしょう」
アナグマの死骸を一瞥してそっけなく言うミクノ。
「改めて、変わらずべっぴんでおられるのう。以前と違うのはやはりその耳飾りくらいか?」
「そちらもお変わりなく」
ケタケタ笑う大五郎に対して、ミクノは幻に負けず劣らずの塩対応。
間違いなく記憶と同じミクノだね。
「ン? 待てよ……」
そこでアタイははたと気付く。
「スラモン。あんたはミクノとは初対面だったよな?」
「そういやそうなンだわ」
この前ミクノに会ったときはアタイとジョニーの2人だけだったからね。
「なんでミクノを知らないあんたがミクノの幻覚を見れたんだい?」
「いや、実は……。幻なんて見えてなかったンだわ」
白状したスラモン曰く、自分には終始ミクノに化ける貉が貉そのままの姿で見えていたらしい。
でもなぜかみんなこぞって騙されてるから空気を読んで自分もその流れに乗ったそうだ。
「このアホ! 一言いえばすぐに解決してたじゃん!」
「化けミクノが斬られた時も一緒になって驚く必要なかっただろ!」
「ぶえー! だってそういう空気だったから! 邪魔したら悪いと気を遣ってやったンだわ!」
まったく余計なお世話をしてくれたもんだね!
しかし、プロットを練る時点でこういう不整合には気付いとけよ!
おかげでスラモンが余計な気遣いをするハメになったじゃないか!
まあメタ発言はこのくらいにしといてやるが、次は無いと思っておきな!
「河童のおなごよ。あなた方のやり取りも変わり映えがしませんね」
「ほっとけ! ていうかアタイは河童じゃないし!」
ミクノが加わって一段と騒々しさが増した一行。
こいつと大五郎は方向性は違うが両方とも頭のネジが飛んでいて、アタイのツッコミが間に合わないくらいだよ。
島国出身の勇者はみんなこうなのかい?
こんなメンツで妖怪退治なんて、いよいよ気が滅入ってきちまったよ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
シャカシャカシャカ……。
どこからともなく聞こえてくる不気味に水を切る音。
まるでアタイらをほろ暗い川底へ誘い込もうとでもするみたいだね。
お次の妖怪は一体何者だい?
まあ、大五郎とミクノのタッグほど危険な存在ではないだろうけどね!
【第79話 ゴブリンガールは小豆を洗う!】
ぜってぇ見てくれよな!




