第77話 ゴブリンガールは月見する!
百鬼夜行――――。
夜更けに妖怪や鬼たちが列を成して村里のはずれを練り歩くというおどろおどろしいお祭り騒ぎ。
それを目にした人間には不幸が降り注ぐと言われ、皆が家に閉じこもって戸締りをし、怯えながら朝を待つのだという。
「というのが本来の意味合いだが、そこから転じて生まれたのが『百鬼夜行クエスト』でござる」
『妖怪』のカテゴリに含まれる特定のモンスターを100種類討伐せよという旨のクエストだ。
大勢の魔獣をまとめて冥土に送ってやろうとでもいうニュアンスだろうか。
ちなみに達成報酬として実績解除の称号を手に入れられるらしい。
「こんなふうに『何種類を倒せ』とか『特定モンスターを何体倒せ』みたいな限定クエストは結構あるらしいぜ」
「ふうん」
「余談だけど、『ゴブリンを1000体倒せ』を達成すると『ゴブリンスレイヤー』の称号が貰えるらしいンだわ」
「なんだいその物騒な称号は!?」
そんなヤベー奴には間違っても遭遇したくないよ!
でもなんだかコミカライズやアニメ化して爆発的な人気を博しそうな響きの名前だね!
「……といういきさつで、未だ出会わぬ妖怪を求めてさまよい、ついには故郷の島国を出てこの大陸にたどり着いたワケでござる」
「すると、ママの話してた新種のハイドラってのは?」
「おそらく元来生息するものとは別種。拙者と同じ地より発した魍魎のたぐいよのう。流れ噂をたどってボチボチと、ついに喉元にまで迫りおったわ」
ハイドラを追跡する大五郎のためにここらの土地勘に詳しいアタイらが案内役を務めることになった。
――――なんでだよ!?
「仕方なかろう。件の怪物を斬れんのならばクエストの穴を埋めるためにお主らを殺生せざるを得まい。しかし人に対し脅威とはならぬ魔物をむやみに殺めるのは気が引けるしのう」
「どういう意味だい!?」
「レベル2の雑魚が働く悪事など、大した害にはならぬということだ」
「ナチュラルに見下されてンだわ」
「まあその通りなんだけどよ」
「ていうかそもそもアタイらは妖怪じゃないしね!? 倒したところでカウントには入らないよ!」
「それはどうかのう。確かめるためにひとつ斬ってみるか?」
試さなくても河童じゃないのは一目瞭然だろ!
……つまり、このはちゃめちゃサムライから自分たちの身を守るためには妖怪退治を手伝わなきゃならないってことさ。
クソったれ!
~月下のススキヶ原(探索推奨レベル24)~
今宵はちょうど十五夜の満月。
月明かりが煌々と輝き、原野いっぱいに広がるススキの海を穏やかに照らす。
夏から冬へと向かう季節。
ススキは先端にブワリと大きく白穂を広げて重たそうに頭をもたげている。
「良い気分よのう! ススキの原っぱは郷愁薫る原風景! 遠い場所でふいに出会う懐かしさ、感慨深いではないか!」
「んなことはどうでもいいからさっさと歩きな!」
夜の空気を浴びるように手足を振ってブラブラと歩く大五郎。
こいつはいつもこんなにマイペースなのかねえ?
しかし、案内と言ったって情報源はママが又聞きしたウワサ話だけなんだよ。
どうやってその大型妖怪を探し出せばいいんだい。
あてもなくススキ野原を歩き回り、いい加減に足が棒になってきた。
いくら進んでも変わり映えのしない景色。
なんだか同じ場所をグルグルし続けてるみたいだよ。
そんなことを思っていたら、ふいに朽ちかけた掘っ立て小屋が視界に映った。
「あれ? こんなもんがいつの間に?」
見たところ放棄されて長い時間が経つようだ。
人の気配はまるで無いね。
「こんな辺鄙な場所に一体誰が住んでたンだわ?」
「まあちょうど良いよ! ここにお邪魔してひと休憩といこうじゃないか!」
深く考えずに無断で上がり込もうとするアタイたち。
すると少し遅れて追いついた大五郎が無精ひげに手を付いてニヤニヤと廃屋を見上げた。
「ほう、これはこれは……。いつの間に眩まされておったのかのう」
「へ?」
すると、こっちが近づく前にギイと音を立てて扉が開いた。
中からユラリと姿を現したのは白装束をまとったひとりの女。
耳にぶら下がる飾り物の鈴が月光を弾いてまぶしく光る。
「あれぇ? あんた、ミクノじゃないかい?」
「ご無沙汰しております。ゴブリンガールにお供の者たち」
そこにいたのはいつか出会った妖怪退治専門の巫女、ミクノだ!
※ミクノについてはシーズンクエスト【豊穣祈願する!】(第35話~)を参照。
ははあ。
この女は怪奇現象と聞くと首を突っ込まずにはいられない性分。
おおかた、大五郎と同じくハイドラの妖怪を追っていたってところだろうね。
すると大五郎がカカカと豪快に笑い声を上げた。
「このような僻地で同郷の者と相まみえるとは、縁というのは数奇なものよ」
「大五郎殿も、ご無沙汰しておりました……」
「別れたときの姿のままで変わらぬのう。シワひとつ増えずに美を保っておられるとは驚きだ」
「そうですか」
「褒め言葉にその淡泊な返答ぶり、まことに相変わらずよ!」
爆笑の大五郎とピクリとも表情を変えないミクノ。
なんだいなんだい?
あんたたち、地元同じなん?
「だったら話は早いね。ミクノ、あんたのことだから目的はハイドラ討伐だろ?」
「さようです。しかし1人で立ち向かうには荷が重いと手をこまねいていたところ。心強い援軍を待っていたのです。さあ中にお入りなさい。策を練るといたしましょう」
廃墟の扉を開いてアタイたちを促すミクノ。
そこでぬるま風が辺りを撫でるように吹き、ザアっと一面のススキ原をなびかせた。
ミクノの耳飾りが揺れて月の光を反射し、アタイは思わず目を細めてしまった。
その様子に気付いて大五郎が声を掛ける。
「どうした河童のおなごよ。視界に射る何かがあったか?」
「ん? いやほら、ミクノの耳の鈴がまぶしくてさあ」
「ム。耳飾りとな?」
「そうだよ。あんたにも見えんだろ?」
アタイの差した指先を目で追って、大五郎はヘラヘラと笑い出した。
「ほうほう。やはりであるな。分かり申した」
そして緩み顔のままで鞘に手を置き、スラリと刀を引き抜く。
その切っ先は一直線にミクノを捉えている。
「オイオイオイ!」
「何やる気だよチョンマゲ野郎!?」
アタイたちザコモンは一様に青ざめて臨戦態勢の大五郎から後ずさる。
「大五郎殿? 何を……!」
「黙れ女狐。ここで無駄な時間を割く暇はござらん」
突然の奇行に動揺を隠せず、さすがのミクノも頬にたらりと汗が流れる。
「どうか気を静めて刀をおしまいください。同じ志を持つ好ではありませんか」
「貴様と同士になった覚えなど無いわ。潔く散れ!」
なんで急にキレだしてんだよ!
悪霊にでも取り憑かれたんか?
それともやっぱりコイツは愉快犯の通り魔ザムライなの!?
ミクノの身にピンチが迫る!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
もうやだよ~!
意味わかんねえよご乱心ザムライがよ~!
いきなり斬り合うのがあんたたちの地元流の挨拶とか?
やっぱり辻斬りじゃん!
【第78話 ゴブリンガールは狐につままれる!】
ぜってぇ見てくれよな!




