第75話 ゴブリンガールは鎧を担ぐ!
「アレクシス! キミのアーマーに反発係数をバフする!」
ヒューゴはガシリと両腕を組み、アレクシスに向けて詠唱した。
するとビキニアーマーが淡くオレンジ色に発光する。
~アド・エペルド(アビリティレベル32)~
撥術魔勇士の習得する防御・カウンター魔法。
対象物の持つ反発力を上昇させ、攻撃相手をよろめかせる効果を生み出す。
アレクシスはそのまま闘勇士の専用スキル『アッパーホステル』を発動してリビングメイルの注意を引く。
うかつにも彼女へタックルを仕掛けたリビングメイルは強化された反発力をまともに受けて吹き飛んだ。
そして壁面に思いきりぶつかってパーツごとにバラバラに崩れてしまった。
勇者同士のスキルの合わせ技、決まったね!
タンク役の2人でもここまでの戦いができるとは感心したよ!
だがしかし、地面に転がった青銅甲冑はパーツごとにそれぞれ小刻みに震えている。
「本体を倒さん限り、時間が経てばまた組み上がって復活するようだな」
「こいつの本体ってのはなんなんだよ?」
「おそらくこの砦に棲みつく亡霊だ。かつての戦争で無念のまま死んだ兵士が地縛霊になって鎧に憑依したんだろうぜ」
なんだか小難しい話になってきたね!
要はこいつを成仏させるにはどうしたら良いんだい!?
「正規の攻略法では霊媒師か祈祷師を連れて降霊術でも試すのだろう。そこで亡霊の頼みごとを聞くという別クエストが発生する流れだろうな」
「だけどそんな準備は整えちゃいないよ?」
「仕方ない。荒療治だが俺に考えがある」
ヒューゴはなおも震えたままの青銅パーツの前にしゃがみ込み、少し長めのスペルを唱えた。
「さっきの反発力を上げるスキルに加えて発散力もいじる魔法を掛けてみる。物理的に鎧から引き剥がしてやるのさ」
ヒューゴがハッと気合を入れると、問題の甲冑から電流が散るようにして光が飛び、続いて濃い靄のようなものが噴き出した。
靄はゆっくりと時間をかけて次第に霧散していった。
見事、青銅甲冑の振動も止まっている。
「成功じゃないか! やればできるねあんたたちも!」
調子づいたアタイがアレクシスの背中をバシンと叩くと、彼女はゆっくりとこちらを振り向く。
目元の隠れた兜越しでもその瞳が怒りと侮蔑に満ち満ちているのが伝わってくる……。
「まあいいじゃないかアレクシス。一件落着したんだしな。こいつらには悪意しかなかったんだろうが、たかがレベル2のザコがしでかしたことだ」
ヒューゴが仲裁に入ってくれたが、この物言いはこれでなかなかに不愉快だ。
「それより戦利品の山分けといこうぜ。青銅アーマーのパーツは複数に分かれてる。キミはどの部位を持っていく?」
「甲冑とは一式が揃ってこそ本来の持ち味が活かされるもの。2人で分けてしまうくらいならばそっくりそのまま貴様に譲ろう」
「そう言うと思ってたぜ。俺も考えは同じだ」
「ならばこうするのはどうだ? 近場の博物館なりに寄贈してしまおう」
「いいねえ。あんたこそトレジャーハンターの鑑だぜ」
ガシリと腕を組み合って互いの雄姿を讃え合うヒューゴとアレクシス。
「マジで? 寄贈ってタダで譲るってことだろ?」
「これだけ苦労したってのに1ゼニも入らないのかよ」
「こいつら本当に頭狂ってンだわ」
影でボソボソと悪態をつくアタイたちだったが、とうとうキレた2人にしばき倒された。
「その言葉、侮辱と受け取ろう!」
「もう擁護しきれねえぜ!」
「うぎゃあーっ!」
~~~
ザラトワ砦を脱して帰路に就くアタイたち一行。
相変わらずガチャガチャとクソ重たいバッグを背負い、汗水を垂らしながら道を歩く。
当然ながらヒューゴとアレクシスから盗んだレア品は回収されちまったものの、砦で拾った鎧アイテムはおこぼれとしてアタイたちが貰えることになった。
これだけでも質屋で換金すればかなりの収入の足しになるはずだよ。
「ハア、ハア。しかしやけに重たいねえ……!」
なんだか砦を出る前よりも重さが増してる気がするよ?
「ム? ちょっと止まれゴブリンガール」
「お前たちのバッグ、何かが中で蠢いてるぞ」
異常を察したヒューゴとアレクシスに止められ、アタイたちはバッグを下ろして中身を覗いた。
すると驚いたことに、すべての鎧アイテムがガチャガチャと小刻みに震えているではないか!
「……やっちまったな。リビングメイルの本体がついてきちまったようだぜ」
「え!? なんで!」
「俺の魔法は荒療治だって言っただろ。霊を成仏させたんじゃなく引き剥がしただけだ」
「兵士の亡霊ならば砦にゆかりのある物に乗り移ろうとするのも道理。この鎧道具は呪われたな」
ざっけんな!
そんなことじゃ困るんだよ!
「また発散魔法で吹き飛ばしちゃってよ!」
「何度やっても同じことだ。また別の物に移って一生ついて来るぞ」
「縁を切るには潔く手放すしか方法はあるまい」
「手放すって、コレ全部!?」
「じゃあ何のために苦労して大荷物背負ってきたンだわ!」
アイテムを葬ろうとするヒューゴとアレクシスだったが、アタイたちが敵意を剥き出しにしてその前に立ちはだかる。
「……バレさえしなきゃこっちのもんさ! いわく付きのまま質屋に売り飛ばしてやるんだーッ!」
「貴様らは感心するほどのクズだな」
鎧たちはこちらをあざ笑うかのように音を立てる。
アタイらはわなわなと力が抜けて、その隣に寝転び駄々っ子のように手足を振り回した。
「もう嫌! なんでいつもこうなるの!」
暴れるアタイたちに呼応するようにして金防具たちも小刻みに揺れる。
結局今回も苦労ばかりかさんで肝心の金儲けは失敗かよ!
トレジャーハントなんてクソ仕事、頼まれたってもう二度とやらないからねえ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
残暑も終えていつの間にかすっかり涼しくなってきたねえ。
秋の夜長の退屈しのぎにひとつ怪談でもいかがです?
もしくは妖怪退治とか……。
え? アタイ?
アタイは死んでも御免だけどね。
サイドクエスト【百鬼夜行する】編、始まるよッ!
【第76話 ゴブリンガールはサムライと出会う!】
ぜってぇ見てくれよな!




