第74話 ゴブリンガールはアーマーを着る!
「アー爽快! 勇者を出し抜くのってやめらんねえ!」
ガッチャガッチャと背負ったバッグを揺らしながら砦の石廊下を駆け抜けるアタイたち。
だがしかし、すぐに問題が起こってしまった。
「アレ……? ここは一体どこ……?」
入り組んだ構造のダンジョンだけに、さっそく道に迷っちまったようだ!
「たしかあっちの方から来たよな?」
「いや、あの曲がり角も通った気がするンだわ」
「バカ、レンガ壁の廊下なんだから造りや見た目なんてどこも同じだろ?」
ウロウロと行ったり来たりしては首をかしげるアタイたち。
そういえば道を先導してくれたのはいつもヒューゴやアレクシスだったね。
いざとなると自分たちにこれほど方向感覚が無いものかと驚いちまうよ。
そうこうしていると背負った高重量バッグの紐が肩に食い込んで痛くなってくる。
無駄に動き回ったせいでもう息が上がってきたよ。
「くっそ! やけにカバンが重たいねえ!」
「奴らからせしめたレア品は良いとして、収拾した鎧アイテムまで残らず持ってきたのは失敗だったか」
「さすがに欲を出し過ぎたンだわ」
「あーもうやめやめ! 休憩にするよ!」
限界のアタイたちはガチャンと音を立ててバッグを放り、膝に手を付いて息を整える。
――――すると不思議なことに、背負ってもいないバッグの中から金属のこすれるガチャガチャという音が聞こえてくる。
「なんだいこの音は? 地震かい?」
「いんや、床は揺れてねえぞ」
「じゃあどうして鎧が鳴ってンだわ?」
耳を澄ますと、どうやらその金属音はバッグとは別の場所から発しているらしいとわかった。
それはアタイたちの佇む廊下の先、曲がり角の向こうから響いてくるようなのだ……。
「だんだん近づいて来るンだわ……」
「まさか、この音の正体って……」
満を持して角を曲がり、アタイたちの前に現れたモノ。
それはブロンズに輝く物々しい青銅甲冑。
そしてヒューゴの語ったウワサ話の通り、その兜の顔があるべき場所は穴が開いて暗く落ち窪んでいた……!
「出たあ! 『さまようヨロイ』!」
~リビングメイル(討伐推奨レベル36)~
中身が空であるにもかかわらず独りでに動き回る不気味な甲冑の魔物。
その正体は鎧に憑依した亡霊とも、その他の怪奇現象だとも言われる……。
恐怖のあまり失禁しそうになった。
だがそれを気合でなんとか堪えたアタイ。
勇気を振り絞って背後のジョニーとスラモンにまくし立てる。
「あんたたち! ここが踏ん張りどころだよ! 無事にダンジョンを抜けられさえすれば、お宝を売りさばいて借金を返済できるんだからね!」
「でもよお!」
「この状況をどうしろってンだわ!?」
「よく見てみな! アタイたちだって鎧装備を持ってるじゃないか!」
バッグの中にはパンパンに詰め込まれた収拾物の防具たち。
アイテムの推奨レベルは使用者のレベルに依存しない。
だったらアタイらにもこの装備を使いこなすことができるはずだよ!
アタイたちはガサゴソと自分の背丈に合う鎧を見繕い、見よう見マネで取り付けてみた。
「準備オーケーだぜ!」
「かかって来いやあオラァ!」
「怖くなんかないンだわ!」
リビングメイルに向かってありったけの虚栄を張り上げるアタイたち。
だがそのいで立ちは無様にもほどがあった。
骨しかないスケルトンのジョニーはそもそも鎧をしっかり着こなすことができない。
少し動くと装備が外れて勝手にずり落ちていってしまう。
「ああ、もう! ああ、もう!」
落ちる度に拾って取り付けようとするが、そのそばから別の部位が外れてしまう。
拾っては外れての動作を延々と繰り返しているだけだ。
スラモンは兜装備を被ってみたが、その重みに本体の方が耐えられず一向に持ち上げて移動することができない。
不動の兜の隙間からそうっと外の様子を窺うように目を覗かせているだけだ。
こいつはヤドカリ以下だね!
そして当のアタイはかろうじてまともに鎧を装着することはできたが、着慣れていないために金属のそこかしこが肌にこすれて痛い。
すでに全身が擦り傷と血マメだらけだ。
「い、いてて……! 誰か絆創膏持ってない?」
「そんなことより着るの手伝って!」
「前があんまり見えないンだわ~」
ふざけんじゃないよ!
なんで防具を装備しただけで自滅寸前まで追いやられてんだい!
いくらレベル2のザコモンにしたってあんまりの扱いだよ!
もう戦闘力とかそういう次元でなくない!?
死にかけのアタイたちに迫るリビングメイル。
手にはこれまたブロンズ色に輝く長剣を携えている。
終わった――――!
だが、寸前のところでアタイたちの前に躍り出た者がいた。
丸盾のヒューゴだ!
振り下ろされたブロンズ剣をガチリと受け止めるヒューゴの盾!
さらにその背後からアレクシスが走り込み、そのまま飛び出して膝蹴りをお見舞いする!
倒れ込むリビングメイルと華麗に着地するアレクシス。
「あんたたち! きっと助けに来てくれるって信じてたよ……!」
思わず瞳を潤わせるアタイに向けて、アレクシスは力強い声で返事をした。
「待っていろ。お前たちを始末するのはこの敵を倒した後だ」
あれれ?
いま何か物騒なことおっしゃいませんでした……?
冗談はそのハレンチコスプレだけにしといてくださいよぉ……。
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
絶体絶命のピンチに駆け付ける、これぞ勇者の鑑だね!
でも油断するんじゃないよ。
ヒューゴとアレクシスはどちらもタンク。
しかも相手は実体のない亡霊ときた。
さあ、どう決着をつけるのか見ものだよ!
【第75話 ゴブリンガールは鎧を担ぐ!】
ぜってぇ見てくれよな!




