第72話 ゴブリンガールは砦を駆ける!
ザラトワ砦ではそれからも無数の罠がアタイたちを待ち受けていた。
アレクシスはご自慢のビキニアーマーを使いこなして器用に攻撃を受け流しているが、アタイたちザコトリオはズタボロだ。
荷物の戦利品も次第に増えてカバンは重くなる一方だしね。
「ハアハア……! 一体どこまで進むつもりだい?」
「もうアイテムは十分に回収したぜ。こんな仕掛けだらけのイジワル砦なんかさっさと出ようぜ」
「馬鹿を抜かすな。見ろ、この入り組んだ構造の迷宮を。隅々まで探索せずして私の好奇心が収まるはずがない」
どうやらこの女はアイテム収集だけじゃなく無類のダンジョン好きでもあるらしいね!
トレジャーハンターってのはどいつもこうだよ!
付き合ってらんないっての!
「もうダメ! 一歩も進めないンだわ!」
「休憩だよ休憩!」
その場にバタンと座り込むアタイ。
するとお尻が床タイルにぶつかって軋み、またしてもガコリと不穏な音が響く……。
「ゲッ」
「またなんか作動させたのか!?」
「勘弁してほしいンだわ!」
ややあって音を立てながら天井が左右に開き、ボトボトといくつもの肌色の塊が落っこちてきた。
それらはゆっくりと蠢きながら奇妙な鳴き声を出している。
ハダカデバネズミに似たブサイクな出っ歯の魔獣、モースラットだ!
~モースラット(討伐推奨レベル11)~
体毛の無いネズミの魔獣。
群れを成して獲物や屍をむさぼり、鋭い齧歯で肉をかじり取る。
ざっと数えても十数体はいるみたいだよ!
それらの大ネズミはアタイらの存在に気付くと一斉に襲い掛かって来た!
「いや~!」
アタイは思わず背負っていたカバンから適当に胴鎧のパーツを掴み、それに身を隠すようにして構えた。
モースラットの鋭い歯が鎧に弾かれて耳障りな金属音を鳴らす。
拾ったアイテムはどれも使用レベルが10を超えている。
一応モースラットの攻撃には耐えられる仕様のようだ。
ジョニーやスラモンも同様にして鎧を盾に攻撃を防いでいる。
でもこれじゃあ長くは持たないよ!
「ふん、醜い魔物どもめ! 儼乎たる我がアーマーの前にひれ伏すがよい!」
アレクシスが身に付けた鎧を強調するような独特の構えを決める。
すると薄暗い石廊下の中でビキニアーマーの表面がギラリと艶めかしく光った。
~アッパーホステル(アビリティレベル17)~
鎧術闘勇士の習得する標的誘導戦技。
相手の敵愾心を自身の鎧防具に集中させ、かつその防御力を一定時間上昇させる。
レベルの上昇に合わせて誘導力と防御力が増加する。
モースラットたちは狙いをアレクシスに、いや、正確には彼女の着込むビキニアーマーに向けて次々に突進していく。
アレクシスはそれらを闘牛士のごとくヒラリとかわし、白銀の小手甲冑を使って殴り飛ばしていく。
ネズミどもが手の上で踊らされてるみたいだね!
だがしかし、数が数だ。
いくら倒してもキリがないし、依然として天井の穴からはボトボトと次のラットが落ちては群がってくる。
――――そのとき、長廊下の先から何者かの声がした。
「お前たち、大丈夫か!? こっちに退路がある! 来い!」
窮地にいる身からすればまさに天の声!
イチかバチかに賭けてその声の方へと走るしかなかった。
もちろん、逃げるアタイたちの背後をラットの大群が追いかけてくる。
「たじけてぇ~!」
「ここだ! 早く!」
廊下の突き当りに小部屋があり、そこから1人の男が大きく手を振っている
アタイらは滑り込むようにして部屋の入り口に飛び込んだ。
その直後に男がバタンと扉を閉め、手を付いて何やら短く呪文を唱える。
すると扉が淡いオレンジ色に発光した。
「このドアに反発係数を上乗せした。これでネズミどもがいくら体当たりをしても、しばらくは食い破られることはないだろうぜ」
丸盾を背負った大柄な男は一安心とため息を吐いた。
そこでアタイは初めてその男の正体に気付く。
「なんだよ! ヒューゴじゃないか!」
「ん? なんだまたゴブリンガールかよ! スケルトンにスライムもか!」
丸盾のヒューゴは勇者兼トレジャーハンター。
お宝の眠っていそうなダンジョンならどこに出没してもおかしくはない。
こうしてバッタリ再会しちまうのは予想外だったけどさ。
「お前たちこんな所で何やって……。ん……?」
グルリと回したヒューゴの視線は最後にアレクシスのあられもない姿に行き着き、しばらく凝視をした後に盛大に鼻血を噴き出した。
「おっご……!」
「ふん。私のアーマーに見惚れるのは解るが、興奮のあまり鼻血まで出すとはな」
やれやれと肩をすぼめて見せるアレクシス。
違えーよ!
むしろアーマーじゃない露出部分にダメージ受けてんだよこの男は!
「やいヒューゴ! 耐性の無いあんたには過激なビジュアルかもしんないけど、こんなダンジョンの途中で出血多量は勘弁してもらうよ!」
「しゃあねえな。ほら、これでも詰めとけ」
ジョニーが自分の指の骨を2本抜き取りヒューゴの鼻の穴にズブリと詰め込む。
これでなんとか止血の応急処置はできたみたいだね。
「ハア……。まったく、目に毒ってのも大概だぜ」
「速効性の劇薬レベルなンだわ」
「我がアーマーはそこまで神々しいか? ふふふ、そうだろう」
相変わらず話が通じないね、この無自覚露出狂女は!
「しかし、お前さんの付けてる防具。もしや伝説装備の『ヴァルネラアーマー』じゃないか?」
「ムッ! 初見で見抜くとはな。貴様、なかなかの博識であるらしい」
「勇者装備に関してはな。まあ趣味みたいなもんさ。だがビキニアーマーってのは性能面では悪評高いことで有名だ。そんなネタ枠の代物をマジで着込んで戦場に出る猛者がいるとは驚いたね」
「装備とは集めて眺めるものではなく、使い込んでこそ真価を発揮するもの。それがわからん内は二流だ」
「へへ。話がわかるじゃないか。あんたとは楽しく酒が飲めそうだ」
なんだいなんだい!?
こいつら、トレジャーハンターの好でさっそく意気投合を始めたよ?
アタイを置いてきぼりにして話を進めるんじゃないよ!
けしからん奴らだね!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
嫌な予感が的中だよ!
アレクシスとヒューゴの奴らは冒険家談義に花を咲かせて止まらない!
ファッションセンスが独特な者同士、心の琴線が触れ合いまくりだよ!
お前らの装備品に懸ける情熱はわかったから、こっちにまでほとばしらせてくるんじゃないよ!
【第73話 ゴブリンガールはカタログを読む!】
ぜってぇ見てくれよな!




