第70話 ゴブリンガールはゴミを売る!
「どれもこれもクズアイテムだねえ……。まともなモンはひとつも持ってないのかい?」
「うっせーな! あんたは黙って換金の計算してくれりゃあ良いんだよ!」
街道で旅商人とバッタリ出くわしたアタイとジョニー、そしてスラモン。
今日も今日とて低レベルクエストをやっとの思いでこなし、わずかながらの小金を稼いで帰路に就く途中のことだ。
クエストで入手した要らないアイテムは持ってても邪魔なだけだし、少しでも金の足しになるなら越したことはないからね。
そういう理由で商人に声を掛けたワケだったのだが……。
「こんなガラクタ、1ゼニにもならないよ。むしろ買い取り料を払ってほしいくらいだね」
「ハア!? どうしてこっちが金を出すんだよ!」
「逆になぜこんなゴミを集めたんだ? 小石や枝に腐った木の実、おまけに昆虫の死骸……。ウチは廃品回収業者でもなければ掃除屋でもないんだぞ」
たしかにアタイの目から見てもただのゴミだけどさあ!
そこをどうにかしてくれちゃうのがあんたらの仕事だろ!?
まったく話にならないね!
小太りの旅商人は迷惑顔でシッシとアタイらを追い払う仕草をする。
守銭奴が!
「このままバカにされて引き下がれないね! こうなったらガチャを回すよ!」
「え? なんで?」
「レアアイテムを引き当てて、あのデブの持ち金全部と交換させてやるんだよ!」
「はあ……。やめとけって」
「どうせ買い値よりガチャ費の方が高くつくに決まってンだわ」
ぐぬぬ!
どうしていつもいつも上手くいかないんだろうね!?
ひとしきり怒り狂っていると、いつのまにか背後に別の旅人が佇んでいた。
「すまない。用が済んだのならどいてくれるか? 私も物を売りたいのでね」
声色で女と断定できたが、そいつは異様な風貌をしていた。
全身を隠すように分厚いマントを羽織り、そこから唯一出ている頭には白銀に光る兜を付けている。
その防具が鼻先までを深く隠しているために、外から見て露わになっているのは口周りのみ。
物々しい外見とそっけない口ぶりから、ずいぶんと威圧的な印象を受ける。
「はいはいはい! お客さんですねえ! 今日はどういったご用件で?」
商人はこれ見よがしにアタイらを突き飛ばすと、へつらえながら女の元に駆け寄った。
くう……!
これが格差社会ってやつかい!
対応の差があからさますぎるだろ!
「しかし困ったよなあ。換金でも稼げないんじゃどん詰まりだぜ」
「ドンフーの奴は仲介料だと言ってクエスト報酬のほとんどを引っこ抜いちまう! こんな生活を続けてても借金返済の目途なんて立ちやしないよ!」
「なにか他の金策を見つけなきゃなんねンだわ……」
思案に暮れていると、何やら怒鳴り声が聞こえてきた。
どうやら先ほどのマント女と商人が口論を始めたようだ。
「私の戦利品の値打ちが解らんとは! 目利きもできん商人とは笑わせてくれる!」
「ひいい! お客さん、落ち着いて!」
持ち込んだ品に不服な値段を付けられて激昂したみたいだね?
バツが悪くなったようで、小太り商人は風呂敷を包んでスタコラと逃げ出してしまった。
「自身の腕を磨かずして良い品を扱えるはずがなかろう! まったく腹立たしい限りだ……!」
そんなに怒るなんて、どんなアイテムを売ろうとしたのか気になっちゃうよ。
アタイたちはチラリと女の手の上を覗いてみた。
……なんてことはない。
小石や枝、それに虫の死骸なんかが広がっているだけだ。
「……ゴミだな」
「アタイらのとそう変わらんよな?」
「なんだと!? 貴様らのクズ品と一緒にするな!」
女は再び怒鳴り声を上げると、次に長いため息を吐いた。
「私の名はアレクシス。一端のトレジャーハンターだ。これからもうひとダンジョンを攻略するつもりで、そのために重たいバッグの中身を整理できればと思ったのだ。しかし予定が狂ってしまったな」
そしてアタイたち3人を眺めて思いついたように提案した。
「お前たち、私の荷物持ちをやらんか?」
「えー。なんでぇ」
「結構な量があるぜ。重たそうだしよお」
「それにこれからダンジョンに向かうんだろ? 危険な場所についてくなんて御免だね!」
難色を示すアタイたちに女は不愛想なまま続ける。
「見たところ金に困っているようだな? 勇者のお供でもしなければ立ち入ることもままならぬ高難度ダンジョン。無論、中にはお前たちでは生涯お目に掛かれないような財宝だらけだ。良い儲け話だと思ったのだがな?」
その一言でみんなの顔付きが変わる。
「私に興味があるのはクラフト作成用の素材アイテムのみ。その他の戦利品はすべてお前らが持ち帰ればいい」
「マジか。下手したら単なる山分けより割が良いぞ」
「やい! 目当てのアイテムを見つけ損なったときは分配を変えようなんて言い出すんじゃないだろうね?」
「くどい。騎士に二言はない」
アタイたちは小さな円陣を組んで作戦会議を始めた。
「上手くいけば一気に金を溜めるチャンスなンだわ」
「アイツ結構強そうだしよ。俺らは後ろで荷物持ってるだけで良いんだろ? 悪い話じゃねえな」
「ようし……! ここは一丁乗ってみるかい!」
アタイらは重マントの騎士、アレクシスの荷物持ちになった!
~ザラトワ砦跡地(探索推奨レベル51)~
かつて、今は亡きどこかの国の軍隊が使っていた城砦。
放棄されて半世紀近く経つらしく、どこもかしこも朽ちて崩れかけている。
「だが堅強な基礎は健在で、未だに建造物として機能している。入り組んだ内部には当時使われていたトラップも残されたまま。そして人間がいなくなったのを良いことに根城として棲みついた魔獣も多い」
ザラトワ砦を前に、アレクシスはアタイたちを脅すワケでもなく独り言を呟く。
「ふん! 重要なのはお宝も残されたままってことだろ! ゴタクはいいからさっさと繰り出すよ!」
アタイたちは崩れた壁の穴から内部に足を踏み入れた。
と思ったらすぐに盗賊たちに出くわした!
「へへへ……! 久しぶりの訪問者だぜ!」
「姉ちゃん1人に下僕モンスターが数匹。運が悪かったなあ!」
短剣や鎖を取り出してにじみ寄る男たち!
「いきなり戦闘なんて勘弁しておくれ!」
「案ずるな。ダンジョンの入り口近辺で待ち伏せをする輩など大した連中でもあるまい。おおかた、深階層へ進む技量もなく上辺を漂っているだけの浮浪者どもだ」
ちょっとアレクシス!
もっともだけどいくらなんでもストレートに言いすぎだろ!
状況を読んでもっとオブラートに包んどけよ!
予想通り、盗賊たちは怒りを露わにした。
「金品を奪うだけで済ましてやろうと思ってたが、こいつは痛い目に遭わせてやらなきゃ腹の虫が収まらねえ!」
「ふん、良かろう。ならばこの『無防装備のアレクシス』が相手だ!」
言うや否や、アレクシスはバサリと音を立てて重マントを脱ぎ棄てる。
するとその下から現れたのは――――!
全裸の肢体!?
……いや、申し訳程度の面積の鎧によってギリギリ局所は隠されている。
だがほとんど裸と言って差し支えない状態だ!
半裸のアレクシスはドヤりながら言い放つ!
「ビキニアーマー騎士、見参!」
どう見ても不審者です本当にありがとうございました――――。
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
何やらツワモノ感を出しておいて、とんだ変質者じゃねえか!
こんな奴とダンジョン攻略なんて先が思いやられるよ!
次々と迫るモンスターに危険なトラップ!
そして隣には見るからにヤベー露出狂女!
気の休まるときが一瞬たりとも見つからないねえ……!
【第71話 ゴブリンガールはビキニ騎士と出会う!】
ぜってぇ見てくれよな!




