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ゴブリンガールはガチャを引く!  作者: 仲良しおじさん
シーズンクエスト【ビーチバレーする!】編
69/251

第68話 ゴブリンガールはビーチバレーする!

挿絵(By みてみん)



「さあさあ! 年に一度のトーナメントクエストもついに決勝戦! 去年の優勝者と戦うのは、怒涛の躍進撃を見せつけてくれたゴブ子・モアのお二人でーす!」

「ワーッ!」


 何が怒涛の躍進撃だよ!

 ここに来るまで全部不戦勝だろうが!


 アタイは舌打ちをしつつも隣のモアに尋ねる。


「ところで去年の優勝者ってのはどこのどいつなんだい?」

「もうそろそろ登場してくれると思うよ!」


 どれだけの強者なのか知らないけど、ずいぶんと焦らしてくれるねえ。

 粋な演出でもかましながらご登場するつもりかい?


 ――――そのとき、沖合からジワジワと広がるようにして低い海鳴りが聞こえてきた。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ!


「なんだあれは!?」


 観客のひとりが悲鳴を上げ、それにつられて皆が一斉に海を振り返る。

 なんとそこには巨大な高波がそびえ立ち、唸り声を上げながらアタイたちのいるビーチに迫りつつあったのだ!


「津波だあー!」

「ひーっ!」


 逃げまどう人々。

 だが、高波と思えたそれはただの自然現象とは違った。

 モリモリと海水面が盛り上がっていき、やがて水の壁を突き破るようにして巨大な黒い影が姿を現したのだ!


「タコの大型魔獣、クラーケンだ!」



~クラーケン(討伐推奨レベル64)~

 海に潜む巨大な軟体性の怪物。

 吸盤の付いたいくつもの触手と怪力で、大型船でも簡単に海底へ引きずり込んでしまう。



 実に建物3階分に相当する桁外れのスケール!

 ウネウネと動く無数の触手にギョロリと剥き出した2つの目玉。


 アタイの顔面は真っ青になった。

 だが怯えるアタイに対してモアは平然とクラーケンを見上げている。


「何やってんだよモア! 逃げるよ!」

「どうして? これから待ちに待った決勝戦が始まるっていうのに!」

「ハア?」

「あのクラーケンが去年の優勝者だよ!」


 っんでだよ!?


「去年の試合中にね、突然あの魔獣が飛び入り参加してきたの。みんな一生懸命戦ったんだけど、だれもあのクラーケンに勝てずに倒されちゃったんだ。だからあの子が先代の優勝者なの!」


 アホか!

 それは飛び入り参加じゃなくて急襲っていうんだよ!


「それではゴブ子・モアペア! 最善を尽くしてぜひとも1位の座を勝ち取ってくださいね!」


 大会主催者たちがちゃっかりホイッスルを鳴らす。


「ファーストサーブは私から! 行くよっ!」


 モアはクラーケンに向けて一直線に走り出し、バネのように跳ね上がってスパイクを打ち出した。

 バレーボールは豪速でクラーケンの喉元へと迫る。


 ――――だがしかし、縦横無尽に動く触手のひとつがボールを難なく弾いて止めてしまった。

 クラーケンはそのままいくつかの手を使ってボールをお手玉よろしくポンポンと遊ばせる。


「美しいボレー、そして正確なトスの連続。やっぱりあの子は強敵だよ、ゴブリンガール!」


 あんなもんボレーでもトスでもないだろ!


 その内クラーケンはハエを払うかのような仕草でボールをはたいた。

 それはすさまじい勢いでビーチに激突し、衝撃で噴水のように砂の雨が噴き上がる。

 ボールが打ち込まれた浜辺にはクレーターみたいな大穴が空いた。


「見てよあのアタック! パワー、スピード、どれを取っても怪物級だね!」


 だからまさに怪物なんだよ!

 つうか無理矢理バレーしてるふうに持ってこうとしてるけど、無理ありすぎだからね!?

 単にバケモノに襲われてるだけだからね!?


 そんなアタイのツッコミも虚しく、好敵手を前に俄然ハリキリ始めるモア。

 だがそれに反してクラーケンはもうボール遊びに飽きてしまったらしい。

 ビーチバレーなど無関係に、太鼓をたたくようにして無数の触手を浜辺にぶつけ始めた。


 ドオン! ドオン!

「ウワーッ!」


 振動と波しぶきが浜辺の観衆を襲う!


「ギャラリーの皆さんは安全な高台まで避難してください!」


 そうアナウンスをしていた主催者の待機テントが、次の瞬間にはクラーケンの腕に叩き潰されてしまった。


「あ~れ~!」


 トーナメント会場は大混乱!

 皆が右往左往に逃げまどう。


「もはやバレーどころの騒ぎではありませんね!」


 シブ夫を初め、居合わせた中で戦闘に心得のある者たちが前面に出て、逃げ遅れた人を救うために触手との攻防に入った。

 それにあやかり、アタイも一目散に高台へ向けて走り出す。


「こんなんやってられっか!(泣) 後はあんたたちに任せるよ!」


 と思ったが、早々に何かにつまずいて盛大に転んでしまった。


「イッテェな……!」


 振り向くと、そこには白い粉の入った大袋がいくつも転がっている。

 どうやらこの袋に足を掛けちまったみたいだね。

 こんなとこに土嚢袋を放置したのはどこのバカだい!


「ゴブ子! 上、上!」

「えっ?」


 モアの叫び声を聞いてとっさに顔を上げると、目の前にクラーケンの触手の一本が迫っていた。


「ギャアー!」


 触手はぬるりと輪を作るようにしてアタイを取り囲み、近くの粉袋たちと一緒に掬い取って持ち上げた。

 ヌメヌメとてかるタコ腕に締め上げられながらゆっくりと空中を昇っていくアタイ。

 あっという間に大荒れのビーチを見下ろせるまでの高度になった。


「誰かあ! 助けてえ! シブ夫―!」

「ゴブ子さん!」


 シブ夫はアタイのピンチに気付いてはいるが、目の前の触手をいなすので手一杯だ。


 「待っててゴブリンガール! 私が行くよ!」


 そこで飛び出したのがモアだった。

 砂を蹴り上げてクラーケンの腕のひとつに飛び乗り、そのまま速度を緩めることなく、ぬめる肉厚なタコ腕の上を駆けていく。


 クラーケンの腕は常に波打つように艶めかしく蠢いているし、危険な吸着力を誇る吸盤が等間隔に配置されている。

 さながらトラップだらけの動く通路みたいだ。

 だがモアはその上を持ち前の脚力とバランス感覚で止まることなく突き進んでいく。

 さすがは島育ちのフラダンサーだよ!


 ついにはアタイに届く高さまでタコ腕を駆けのぼり、そのままハイジャンプしてこちらに突っ込んできた。


「てやーっ!」


 突き出したモアの拳がアタイと一緒に締め上げられていた粉袋を突き破った。

 すると粒子の細かな白い粉が一斉に空へと舞った。


 パアアアア!


 まるで水霧のように大気に広がった粉は、ゆったりとした速度でクラーケンの体を包むように降り注いでいく。


 ――――そこでアタイははたと気付いた。

 この粉袋、もしかしてアタイがガチャで引いた片栗粉……?




 つ・づ・く


★★★★★★★★


 次回予告!


 結局バレーやらないのかよ!

 次回もやらないまま終わるんだろ!

 タイトル詐欺も大概にしないと怒られるよ!?


【第69話 ゴブリンガールはトスする!】

 トスもしねーよどうせ!



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