第66話 ゴブリンガールはスク水を着る!
クルビーアイランドの砂浜に軽快な民族太鼓の音が響き渡る。
年に一度のトーナメントクエスト、ビーチバレー大会の開会式が始まったのだ。
仮設テントの前でマイクを握る大会主催者。
「今年もたくさんの人が参加してくれました! その数なんと総勢100人!」
「100人!?」
こいつは想像以上に人気の高いクエストのようだね!
心の中で潔く優勝の二文字を諦めるアタイ。
「……という予定でしたが、昨日この島に向かっていた大型船が沈没して9割ほどが出場見合わせとなってしまいました! 残念! 残った8組のペアで優勝目指して頑張ってくださいね!」
なんだよ!
肩透かしだね!
というか残った8組って、その内の半数はアタイらのグループじゃないのさ!
「ちなみにその大型船ってのはどうして沈没しちまったんだ?」
ジョニーの疑問に答えたのはフラガールのモア。
「なんでも海の魔物、クラーケンが出没して船を沈めてしまったらしいよ!」
「大タコの魔獣、クラーケン……!?」
さすがレベル66の危険海域!
この島にたどり着く過程がすでにクエストの試練の内に入ってるのかもしれないね!
大会主催者の説明は続く。
「8組のペアで勝ち抜き戦をして、最後まで残ったペアが去年の優勝者と決勝戦です。賞金はクルビーアイランドでしか取れない希少鉱石で作られた記念トロフィーです!」
そうして掲げられる乳白色の美しいトロフィー。
ユニコーンの一本角のように尖りきった形状で、日光を反射してことさらにまぶしく光る。
何を表現してるのか知らないが、こういうのに良くありがちな前衛的で奇抜なデザインだね。
「高く売れそうでやんすねえ」
「持ち帰って溶かして宝石の形に加工し直すんだよ」
「ようしお前ら! なんとしてもあの金のなるトロフィーを手に入れるぞ!」
整列した選手群の中で無粋な会話が繰り広げられる。
「それではトーナメント表を発表します!」
下ろされる横断幕。
そこにはよく見る幾何学な枝分かれの線と、下端には参加ペア名が横並びになっている。
大きくAとBのブロックに分かれるようだ。
シブ夫たち勇者4人はAブロック。
その他のアタイたちはBブロックに振り分けられたようだね。
……そして、アタイ・モアペアの第一回戦の相手はドンフー・ヤンフェペアだ!
「ふん。初戦がゴブリンガールとはなあ」
「見てくださいよ旦那。あいつ中学生みたいなスクール水着を着込んでやがりやすぜ」
「張り切っちゃってよぉ」
「ククク……。せいぜい楽しませてもらうでやんす!」
ボキボキと指の骨を鳴らしながらドンフーとヤンフェがコートに立つ。
ついに因縁の対決だね!
こいつらには負けるワケにはいかないよ!
「ゴブリンガール! 準備は良い?」
「ったりめぇよぉ!」
「よーし! 楽しんじゃおうね!」
まずサーブ権を与えられたのはアタイたちのペア。
モアがボールを頭上に打ち上げ、続いて砂を蹴り上げながら体を空へと浮かす。
そこが足場の悪い砂地なのかと疑うほど、しっかりとした脚力で上空へ跳び上がるモア。
「いっけえー!」
放たれた強烈なサーブ!
それはギュンと音を鳴らしてネットを越え、一直線に相手コートへと伸びる!
「ぴえーッ!」
若干のカーブを描いて飛んだボールは、まるで吸い寄せられるようにしてヤンフェの顔面に激突した!
ドゴオッ!
盛大に鼻血を噴き出して失神するヤンフェ。
「あちゃー! やっちゃったみたい! 大丈夫かな?」
「いいや! モア、あれはあれでグッジョブだよ!」
ザマア見なクソエルフ!
これは鼻を折ったに違いないね!
ドンフーは倒れたヤンフェに近づいて蹴り起こす。
「いつまで倒れてんだおい!」
「だ、旦那ァ……! 救急車……」
「まだ始まったばかりだろうが! 次は俺様のサーブだ! さっさと再開すんぞ!」
無理矢理ヤンフェを叩き起こして試合が再開された。
次にサーブを打つのはドンフー。
狙いを定めてボールを放り、図太い腕でこれまた強烈な一撃を放つ!
それは若干のカーブを描いて飛び、まるで吸い寄せられるようにして味方コートにいるヤンフェの後頭部に直撃した!
ドガッ!
「やんすーッ!?」
今度は前のめりに卒倒するヤンフェ。
「悪い悪い! 手元が狂っちまったみてえだな!」
試合が再開される。
次のサーブはアタイだ。
「頑張ってゴブリンガール! 特訓の成果を見せつけちゃおう!」
「うん! やってみる!」
少したどたどしいながらもサーブを打ち込むアタイ。
それは若干のカーブを描いて飛び、まるで吸い寄せられるようにしてヤンフェの額に直撃した!
バゴッ!
「おんふう!」
……その後も試合は続いたが、誰が打ったとしてもボールは執拗にヤンフェの顔面にぶち当たり続けた。
おかしいな?
別に狙ってるワケじゃないんだけどな?
最終的に30発ほどの弾球を受け続けて、ヤンフェは脳卒中を引き起こして病院に搬送された。
「ドンフー・ヤンフェペア、怪我のため続行不能! よってゴブ子・モアペアの勝利!」
「やったー!」
アタイらは1回戦目を勝ち抜いた。
相手選手のドンフーが握手を求めてきたので応じる。
「なかなか良い試合だったぜ。負けちまったのは悔しいが、なんだか爽やかな気分じゃねえか」
「ふふん。久々に良い汗を流しちまったよ」
「ストレス発散もビーチバレーの魅力のひとつだね!」
アタイらは互いをねぎらうように笑い合った。
これぞスポーツマンシップってやつだね。
照りつける太陽にキラキラと反射する汗ばんだ肌。
青い海と白い砂浜、そして飛び散る真っ赤な鮮血。
真夏のビーチバレー、結構ハマっちゃうかも……☆
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
2回戦の相手はジョニー・スラモンペア!
良く知っている相手だからこそ、こういう場面では手の内が読めないね!
一体どんなプレーをかましてくるつもりだい!?
さらに隣のコートでは勇者ペア同士の対決も進行中!
見事ライバルを打ち破り、決勝戦へと駒を進めることはできるのか!?
【第67話 ゴブリンガールは不戦勝する!】
……ネタバレしちゃいましたぁ?




