第65話 ゴブリンガールはペアを組む!
ペア決めは難航を極めた。
というか、主にアタイとヒューゴとスージーが延々と揉めてるだけだった。
「本気で優勝を狙いに行くならシブ夫くんはゴブ子とじゃなく私と組むべきよ!」
「で、でもスージー。タンクとアタッカーの組み合わせの方がバランスが良いと思うぜ……?」
「そうだよ! あんたはこの童貞モジモジ男と組む方がお似合いなんだよ!」
「童貞ってなんだおい! 関係ないだろ!」
ギャースカ騒ぐアタイたちに、とうとうドンフーの堪忍袋の緒が切れた。
「誰と組もうがどうでもいいだろォ! 全員が死ぬ気で優勝を目指すだけだろうが!」
そう怒鳴り散らしてくじ引きを取り出した。
「さあ! 黙って一本ずつ引きやがれ!」
「はい……」
全員が番号の書かれた紙クジを引き、いっせーのせで開示する。
「やったあ! シブ夫くんとペアだわ!」
スージーがいち早く黄色い声を上げた。
なんだってェ!?
結局そこがペアになるのかよ!
嬉しさのあまりぴょんぴょんと飛び跳ねるスージー。
それを無言で睨みつけるアタイと、悲哀に満ちた瞳で見つめるヒューゴ。
そんなヒューゴの背後にイジワル顔のアルチナがそっと寄った。
「あら~。ヒューゴは私とペアみたいね。勇者ペア同士、あそこの2人には負けられないわよね~」
波乱の予感を読み取ってニヤケ顔が止まらないアルチナ。
「俺はジョニーとペアなンだわ」
「マジか。まあ残当だわな……」
「ン? じゃあ俺はヤンフェとかよ!」
「うっへへ! 旦那とペアなんて光栄な限りでやんす~!」
「チッ……」
ジョニーとスラモン、ドンフーとヤンフェでそれぞれペアが決まったみたいだね。
あれ? ということは……。
「じゃあゴブリンガールは私とペアだね! よろしくねっ!」
モアがサンサンとした笑顔でアタイの背中をバシンと叩く。
ふん、新キャラと組むのかい!
まあ、なんていうか、特に意外性のない結果になっちまったね……!
他の参加者次第のところもあるが、この分だとシブ夫・スージーペアかアルチナ・ヒューゴペアで覇権争いだろうね。
けっ。勝手に楽しんでろや青春勇者集団。
どちらにせよ結果が出るのは明日。
それまではせいぜいこのリゾート地で羽を伸ばさせてもらうとするさ。
そう思って立ち去ろうとしたアタイの肩を、ドンフーの旦那がむんずと掴む。
「どこに行く気だ? ジョニー、スラモン、ヤンフェ! お前らもだ! ここに並べえ!」
「へいっ!」
「お前ら、もしやクエストの始まる前から優勝を諦めてんじゃねえだろうな!?」
「えっ、でも……」
「普通に無理でやんすよね?」
「バカ野郎! 報酬は大金だぞ! なんとしてもせしめるんだよ! これから明日の朝までノンストップで特訓だ!」
「ひええ……!?」
アタイらはバレーのバの字も知らないんだよ?
無理難題を言いやがって!
「わかったな? ちゃんと訓練しとけよ! 俺はそのあいだキャバクラに繰り出すからよ!」
「ええ……!?」
「ひとりだけ遊び回ってズルいンだわ!」
「バカが! これはスナック業を拡大するための視察も兼ねてんだよ! ビジネスだビジネス!」
そう言い残してドンフーはドスドスと浜に足跡を付けながら歩き去った。
怒りのあまりブルブルと手が震える。
クソドワーフが……!
いつかSSRガチャを引いて息の根を止めてやるからね!
そんなアタイを心配してシブ夫が声を掛けてくれた。
「ゴブ子さん。これからバレーの練習ですか? 僕も付き合いますよ」
「エッ……! シブ夫……!」
「なに言ってるのよシブ夫くん! これからカクテルを飲みながらバナナボートに乗るんでしょ? 練習も大事だけど、何よりもまずペア同士の絆を深めなくっちゃね♡」
「ああっ、スージーさん……!」
スージーが強引にシブ夫の手を引き、2人は砂浜を出ていった……。
……ちっくしょうおぉオー!
アタイのアバンチュールがああーッ!
夏を返せバカーッ!
そうして浜辺にはレベル2のザコ以外いなくなった。
静かに顔を見合わせるアタイたち。
「……どうする?」
「いや普通にやってらんないンだわ」
「どうせバレないでやんす。パチンコにでも行くでやんす」
「賛成!」
だが、それを引き止めたのはモアだった。
「ゴブリンガール! 特訓でしょ? 早く始めようよ!」
どこから持ってきたのか、すでにバレーボールを手にしてウズウズとこちらを見ている。
その瞳はいつにも増してキラキラと輝きを放っていた。
このフラガールはどんなことにも興味津々で元気いっぱいに取り組まなければ気が済まない性分のようだ。
アタイは苦笑いでチラリと仲間たちに助けを乞う視線を送った。
と思ったら、もう3人は小走りでビーチから逃げ出す途中だった。
「コラ待てやオーイッ!」
しまったね!
出遅れちまったようだよ!
「さあさあ! 運動を始める前に、まずは動きやすい服装に着替えなくちゃね! ゴブリンガール、これを着てみて!」
差し出されたのはスクール水着。
ご丁寧に、胸元の巨大なワッペンに【ゴブ子】の文字が入っている。
中学生じゃないんだからさあ!
「こんなの恥ずかしくて着てらんないよ!」
「海には水着と相場が決まってる! 騙されたと思って着替えて! 見違えるように動きが良くなるはずだよ!」
そう言いながらテキパキとネットを立ち上げて即席のバレーコートを作っていくモア。
一通り整うと、肩慣らしにバレーボールを打ち上げ始めた。
真っ青な大空とカンカン照りの太陽を背に、ふわりと浮かび上がるバレーボール。
逆光が目に突き刺さるようで、思わずまぶたを細めてしまう。
そんなボールの黒い影にしなやかに背を逸らせたモアの肢体が近づく。
そうして振り上げられた片腕が勢いよくボールに叩きつけられた。
――――瞬間、ボールが消えた。
と思ったら、数メートル先の地面で砂が噴き上がるようにして飛び散った。
「うーん! やっぱりアタックって気持ち良い!」
……おいおい!
なんだよ今のは!
柔らかいはずのバレーボールが硬式野球のごとき速度で空を横切ったみたいだよ!?
「ちょっとモア! あんたはただのフラダンサーで観光ガイドでクエスト受付嬢だろ!」
「そうだよ? まあ、そうは言っても観光シーズンのあいだだけだけどねっ!」
「……と言うと?」
「普段は漁師なんだ! この近海で魚を釣ったり、サメと格闘したり、海賊船に穴を開けたりしているの!」
待ちな!
それは漁師の仕事じゃないだろ!
探索レベル66の海域を縦横無尽に泳ぎ回るバーサーカー女かよ!
こいつはとんでもない奴とペアになっちまったみたいだね!(泣)
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
遅ればせながら、ついにバレーボール対決が始まるよ!
初戦の相手はドンフー・ヤンフェペアみたいだね!
どんなプレーになるか想像もつかないが、ドサクサに紛れて日頃の鬱憤を晴らさせてもらうとするよ……!
【第66話 ゴブリンガールはスク水を着る!】
ぜってぇ見てくれよな!




