第64話 ゴブリンガールはフラダンサーと出会う!
ヒワ・モアの案内でクエストの受付窓口までついて行くアタイたち。
ビーチに仮設された本部テントの前には人だかりができていた。
クエスト受注者だけでなくギャラリーも大勢集まってるみたいだね。
このクエスト自体が島の観光イベントとしても成り立ってるってことだろう。
すると、そこで聞き慣れた声がアタイを呼び止めた。
「ゴブ子さん! ジョニーさんにスラモンさんも。来ていたんですね」
この声は……!?
爽やかな美声と共に人だかりをかき分けて近づいて来る青年。
水着姿のシブ夫じゃないか!
うひょおー!
「シ、シブ夫も来てたんだぁ……! 奇遇だねっ……!」
途端にモジモジと恥じらいを見せるアタイ。
トコナツのビーチで運命の再会!
こいつは、クエストの片手間にひと夏のアバンチュールが展開しちゃうパターンなのでは!?
期待に胸が膨らみまくってさっき胃に流し込んだかき氷が飛び出してきそうだよ!
……と思ったが、シブ夫に続いてゾロゾロと邪魔者たちが現れた。
「あら、またゴブリンガール……」
「よお。お前らとは度々出くわすな」
「うふふ♡ 今回も楽しくなっちゃいそう~」
スージーにヒューゴ、おまけにアルチナまで!?
「なんであんたたちが!」
「私が3人を誘ったのよ。せっかく知り合ったんだし、勇者同士でパーティを組んで毛色の違ったクエストにチャレンジしてみないかってね」
ずいぶんと仲がよろしいことで……。
「この島にはどうやって渡って来たンだわ?」
「たぶん一番メジャーなルートだ。船舶を駆り出して海賊退治の案件を請け負いつつ航海してきたんだぜ」
「途中で港に寄って、釣り上げた魚と郷土品を物々交換したりしてね」
「海の上の暮らしって最高ね~。でもやっぱり島もいいわね~!」
「ゆったり過ごしたせいで到着がクエスト開催の前日になってしまいました。間に合って良かったです」
キャッキャとはしゃぐ若者4人衆。
充実しやがって。
青春の1ページかよ。
しかし、アルチナも仲間に加わってるとは意外だね。
まあ楽しく過ごせてるようだし安心したよ。
「ねえシブ夫くん♡ 向こうに小洒落たオープンカフェがあるらしいよ? 私ブルーハワイのカクテルを飲みたいな!」
そう言ってシブ夫の腕に絡みつくスージー。
ビキニ姿の豊満なボディをこれでもかと強調している。
その背後で、この世の終わりみたいなツラで未練がましくスージーを見つめるヒューゴ。
さらにその背後では口を押えて必死に吹き出すのを堪えているアルチナの図。
……この4人のいびつな関係がおぼろげながらわかってきたね。
というか、トーナメントってことはこいつらとも戦う可能性があるってこと?
勘弁してくれよ!
「よおよおよォ!」
「あっしたちを忘れないでほしいでやんす!」
さらに人込みから現れたのはドンフーにヤンフェ!
「旦那! どうしてここに!?」
「お前らの応援半分、観光半分だよ! しかしまあ、話に聞くと面白そうなクエストじゃねえか。俺様もひやかし目的で参加してやってもいいなァ!」
「旦那がビーチバレー? その短足で?w」
「ぷっ!」
「ああん!? 文句でもあんのか!?」
「ひええ! ありません!」
あまりの剣幕に思わず半ベソになるアタイ。
それをなだめるようにシブ夫がドンフーに尋ねた。
「あなた方も船でいらしたんですか? 港ではお会いしませんでしたね」
「いんや。俺様はプロペラ機のチャーター便だ! 気分爽快だったぜえ! やっぱ真夏の入道雲は迫力が違えよなァ!」
「プロペラ機のチャーター……!?」
節約のためだとアタイらを壊れかけの漁船に押し込んどいて、自分は悠々自適に空の旅かよ!
死ねよ腐れ外道が!
「おうこらヤンフェ! あんたも空から来たのかい!?」
「違うでやんすよ。あっしも皆さんと同じく海の航路で、ついさっき死に物狂いでたどり着いたところでやんす」
そう言うとヤンフェは突然ボロボロと涙をこぼし始めた。
「大陸を出発したのが2週間前……。オンボロ漁船で海に出やしたが、すぐに難破して大荒れの海原に投げ出されやした。それから3日ほど板切れにしがみ付いて漂流し、たまたま通りかかった難民船が引き上げてくれやした。異国の言葉に対話もままならぬまま乞食たちと身を寄せて過ごしやしたが、運悪く海上保安隊に見つかり、それからは決死の逃亡劇を……」
ちょっと待ちな!
アタイらよりも数段ひどい目に遭ってんじゃないのさ!
アタイとジョニーとスラモンは無言でヤンフェの肩に手を置いた。
するとヤンフェは堰を切ったように嗚咽を上げ、とうとうその場に泣き崩れてしまった。
さぞ辛かったことだろう……。
そう、このクルビーアイランドは探索推奨レベルが66。
たったレベル2のザコモンスターが訪れようと考えること自体おこがましい高難度フィールドなのだ。
そんな所に命あってたどり着いただけでもアタイらに勲章を送ってほしいくらいだね。
「ねえ、みーんなあなたたちのお友達? すごいすごい! ゴブリンのくせに顔が広いんだねー!」
空気を読まずにはしゃぎだすモア。
ゴブリンのくせにってのは余計だろ!
「私はヒワ・モア! クルビーアイランドのフラダンサー、そしてクエストの受付嬢でもあるんだよ! みんな明日のイベントに参加希望ってことでいいのかな!?」
そう言いながらヤシの葉スカートの中からひらりひらりと申請書を取り出した。
しかし、改めて書面を読んで気付いたことがあった。
「なあモア。名前を書く欄が2つもあるよ?」
「そう! ビーチバレーはペアでやるスポーツだもん! だから申請は連名にしなくっちゃね!」
事前に2人ペアを組まなきゃならないのかい。
面倒だね。
「ちょうど良い。顔見知りのメンツで適当に組んじまおうぜ」
「あっ! じゃあシブ夫くん、私と組もうよ!」
すかさずスージーがシブ夫の腕を取る。
シブ夫も特に誰と組んでも構わないようで、スージーの申し出ににこやかに応じた。
だがそれでは困るのがアタイとヒューゴだ!
「ち、ちょっと待て!」
「なに早い者勝ちしてんだよ! ここは公平を期すべきだろ!」
「え? 別に誰と組んだっていいでしょ」
「バカスージー! バカだねあんたは! これはトーナメント戦なんだよ! 優勝報酬が懸かってんだよ!」
「ここは熟考を重ねてメンバー構成を決めるべきだぜ!」
アタイとヒューゴの噛みつきにたじろぐスージーとシブ夫。
そのやり取りに指をさして爆笑するアルチナ。
「ウケる~! 最高~!」
「やれやれだぜ……」
「ンだわ」
「ところでよォ! 俺たちは全部で9人! ペアを組むには半端じゃねえか?」
「あ……!」
たしかに、アタイたちの頭数は9人。
これじゃあキレイに2人組を作れないよ。
「そういうことなら、あっしは応援係ということで!」
ヤンフェが一抜けを宣言するが、それにジョニーとスラモンも続く!
「いや待て! 俺こそ応援係だ!」
「それは俺の役目なンだわ! ていうかスライムにビーチバレーはそもそも無理がありすぎるンだわ!」
こぞってクエストを降りようだなんて、ズルいよあんたたち!
ああでも、ここでアタイが抜けたらシブ夫とペアを組むチャンスがなくなっちまう。
一体どうすればいいんだよ!?
そこでモアがピンと腕を上に伸ばした。
「ハイハーイ! それなら私も参加しちゃいまーす! これで10人! 5つのペアをぴったり作れちゃうでしょ!?」
ハア?
あんたもバレーやれんの!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ビーチバレーの前にペア決めの方がサッパリ終わらない!
こんなことにいつまで尺を取るつもりだよ!
アタイとスージーによる激しいシブ夫の争奪戦、そしていじらしいヒューゴの片想いは報われるのか?
【第65話 ゴブリンガールはペアを組む!】
ぜってぇ見てくれよな!




