第60話 ゴブリンガールは幻術を見る!
「それじゃあ今度はこっちの番よ~!」
アルチナは手元の藁ボウキをクルリと回す。
すると光の弾がいくつも飛び出して、それらは空を横切ってそれぞれの勇者が握る武器に衝突した。
「私って血生臭いのは苦手なの~。あなたたちって野蛮で粗暴で……。もっとメルヘン要素を足した方が良いと思うのよね~」
武器にまとう光が収束すると、そこにあったのは――――!
「なんだこれは!?」
ヒューゴの丸盾はバームクーヘンに、スージーの矢は棒状のグミに。
タジの双剣はフォークとスプーンに変化して、シブ夫の剣はバターナイフに変わっていた!
「ヘンゼルとグレーテルかよ!」
「やだー! 私の矢がグデングデンして全然飛ばない!」
「このナイフの切れ味も最悪ですね……」
まるでおとぎ話の世界に入り込んだみたいだよ!
「ちょうど小腹が空いてたんだよなあ」
「ちょっくらティータイムにするンだわ」
呑気なことを言い始めるジョニーとスラモン。
あんたたちは非戦闘要員だからって緊張感がなさすぎだろ!
そんなことを言ってたから罰が当たったらしい。
アルチナの光弾が2人にも飛んできて直撃した。
「あらー!?」
なんとジョニーは牛乳せんべいに、そしてスラモンは水ようかんに変化してしまった!
「うーん、カルシウム満点!w」
「お中元にぴったりなンだわ」
菓子なら菓子らしく大人しくして黙ってな!
気色悪い奴らだね!
「さあ、あなたたちのご自慢の武器は使い物にならないわ~。それで私をどう倒すのかしら?」
「くっ……!」
しばらく思案していた勇者たちだったが、やがてヒューゴが悔しそうに口を開いた。
「……だめだ! 勝てる要素が見つからねえ! ここは諦めて撤退するぞ!」
「ヒューゴさん……」
「このまま足掻いたって全滅するだけだ!」
「うふふ。英断ね~。リーダーにとって最も重要な能力は、常に状況を見極めて最善手を選択すること。勝ち負けや損得にこだわらずにね。でも残念。その判断をするには遅すぎたわ~」
アルチナの両目が赤く光った。
すると晴天だったはずの空がみるみる暗くなっていく。
まるで急速に時間が進んで真夜中になってしまったようだ。
「逃げるなんて許さないよ~。一番つまらない終わらせ方じゃない。そもそもどこへ逃げるっていうの? 私の術のテリトリーを把握してもいないのに」
「何が起こってるんだ……?」
「キミたちは私の手のひらの上にいるの。どこまで行っても逃れられないんだから。一生転がり続けててよ~」
周囲が完全な闇になって視界が奪われてしまった。
と思った矢先、おぼろげに周囲に石造りの壁面が現れる。
ついさっきまで屋外にいたはずなのに、こんなのおかしいよ!
それにこの狭苦しい石壁には見覚えがあるね……!
「ここは……!」
「ダ・ゴ・ダロン!? 砂の遺跡か!」
「あのダンジョンから無事に出られたなんて、どうして錯覚していたの? あなたたちはずーっと砂の下に閉じ込められたままだったのに」
「ウソよ……!」
「どうして俺たちがあそこにいたことを知ってる!?」
「あら、地下遺跡だけじゃないわ。私にはぜ~んぶお見通しなんだから~」
理解不能の状況に怯えだすアタイたち。
「惑わされるな! こんなもんは幻覚だ! 一刻も早くアルチナから離れるぞ! 防御を固めるんだ!」
「それが堅実な盾魔勇士の戦い方? キミはいつも逃げてばかりね~」
「なんだと!?」
「守って、欺いて、相手の優位に立つことばかりが頭の中を占めている。時には無茶をやる男気を見せなくちゃ、情けないままの噛ませ犬でしょ?」
薄暗い石廊下の中にアルチナの含み笑いがこだまする。
四方八方から残酷な甘え声を浴びせられて焦燥するヒューゴ。
幾重にも反響して歪んだ言葉が襲い掛かり、精神を揺さぶっているのだ。
我を失いつつあるヒューゴの手をスージーがガシリと掴んだ。
「しっかりしてください先輩! 活路は必ずどこかにあるはずです! それを見つけないと!」
「笑わせないで~! 学校の試験問題解いてるんじゃないのよ? 私が律義に答えを用意してあげてると思うの?」
「あなた……! 黙ってて!」
「アハハハ! 正義は勝つ? 努力は報われる? そんなキレイ事ばかりでもなかったはずでしょ。いつまでその薄っぺらな信念にしがみ付いてるのよ」
「もうやめて! やめて……!」
ついにスージーは頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
お菓子になったジョニーとスラモンはタジと抱き合いながらオイオイと泣き叫んでいる。
気が触れてもおかしくない。
それくらい異常な状況だった。
――――だがそんな中でアタイは、静かにブチギレた。
鼻の穴を膨らませて肺一杯に空気を吸い込み、口に貼られたテープをベリリと勢いよく剥がした!
「クッソッたれのクソビッチがァーッ!」
約3話分の沈黙を経て、溜めに溜め込んでついに爆発したセリフ!
ちょいと品性に欠ける言い回しだけどご愛敬だよ!
ビリビリと壁を伝う怒声に、皆がハッとしてアタイを振り返る。
「おうこらクソアマ! テメーの悪趣味なお遊びに付き合ってやるほどヒマじゃねーんだよこっちはよ! さっさとスマホを返すかアタイらをミンチに変えるかしちまえよボケカスが!」
「あら? なぶり殺しより一息にトドメを刺される方がお好み?」
「上等だよやってみろよ! 代わりに亡霊になって毎晩枕元でブレイクダンスしながら板東英二のモノマネし続けてやっからよ! 不眠と英二の幻聴に余生を怯えて暮らせやサノバビッチ!」
中指を立てながらツバを吐き捨てるアタイ。
アルチナはそんなアタイの怒り狂う姿を大層気に入ったらしい。
ひとしきり大笑いしたあと、懐からスマホを取り出した。
「これを返してほしくて来たんでしょ? うふ。どうしよっかな~?」
ついに対峙するアタイとアルチナ。
レベル90越えの魔女とレベル2のゴブリンの一騎打ち!
果たしてアタイは打ち勝つことができるのか!?(絶対ムリ)
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
アタイはとうとう堪忍袋の緒が切れたよ!
この魔女をギャフンと言わせなきゃ気が収まらないねえ!
安心しな、とっておきの秘策を思いついたからね!
アルチナの掛けたトラップ術を逆手に取ってやるんだよ!
果たしてアタイが口に出した魔法名とは……!?
【第61話 ゴブリンガールは赤面する!】
ぜってぇ見てくれよな!




