第59話 ゴブリンガールはパーティ戦する!
人気のなくなった野営地の中を足早に進んでいくアタイたち。
まだこのテント群のどこかに敵の小隊長とアルチナが潜んでいるはずだ。
「そのゴリザワって隊長は衝撃魔法の使い手なのね?」
「はい。地面を突き上げるようにして相手を吹き飛ばす技のようです」
「喰らえば大ダメージは必至だが、注意深くしてりゃあ避けるのは難しくなさそうだぜぇ」
「俺の防御魔法を応用すれば封じ込めることもできそうだな……」
手早く情報交換し、即座に対応策を練る勇者たち。
「俺が盾役になって注意を引く。スージーは援護に回って敵の手を止めてくれ。タジがフォローをしつつシブ夫が接近してトドメを討つ」
「承知しました」
「やってやらあ」
ふん、なんだかパーティっぽくなってきたじゃないか。
そしてアタイらザコモンスターは話題に出すこともなく戦力外認定するという判断力。
さすがだね。
「まあ、いざとなったらゴブ子が自爆魔法でも叫びながら突っ込んでいけばいいンだわ」
「おっ。それいいじゃん」
「フガ!?」
他人事だと思って好き勝手言いやがって!
その時が来たらメテオとでも叫んであんたたちごと黄泉の国へダイブしてやんよ!
「止まれ。どうやらこの先に誰かいるぞ……」
正面に大きなテントがあり、その向こう側から人の話し声が聞こえてくる。
勇者たちは各々の武器を手にして構えを取った。
ついに待ちに待ったボス戦が始まるね……!
「準備はいいな? 行くぞ!」
勢いよく飛び出す勇者たち4人。
そこに広がっていた光景は――――!
勇者狩りギルドの四天王に名を連ねる男、ゴリザワ。
その肩書に違わず剛健とした体格、そして見る者を恐々とさせるほどの残忍な強面。
これまでのザコ勇者とは異なる、明らかな手練れだ……。
そう思わせる殺伐としたオーラをまとうなり姿。
……そんな大男が、仰向けに寝転がって手足をバタバタと振り回しながら泣き叫んでいた。
「バブー! おいたんもーやーなの! お家帰るのー!」
「えぇ……?」
ある程度の覚悟を決めて来たつもりだけど、こんなにおぞましい恐怖シーンを見せつけられるとは思わなかった。
心の準備が不十分だった面々は思わずドン引きして後ずさる。
「タジさん。この方が……ゴリザワという男で間違いないのですか?」
「ああ……。いや……? でも……うん……」
確信が持てず返答に詰まるタジ。
すると奥からアルチナとクソ垂れCが現れた。
「遅かったわね~。おかげで悪の四天王が見るも無残なキモオジになっちゃったわ~」
いや、どういうことだよ!?
ゴリザワは目をパチクリさせながら親指をチュッパチュパとしゃぶり尽くしている。
ゴリラのような見た目でこの仕草。
視界に入るだけで思わずえずきそうになるよ!
「この男がいけないのよ~? 私を本物の『ギルド潰しの凶魔女』か確かめてやるって言って、問答無用で襲い掛かってきたの~。聞き分けのない男って厄介よね~」
「それで……どんな魔法に掛けたらこんなことになるんですか?」
「魔法? そんなの使ってないわ~。ただちょっと精神を揺さぶるようなキビシイ言葉をかけてやっただけ」
一体どんなたぐいの言葉攻めをすれば大の大人を幼児退行させられるんだよ!
「はあ~。あなたたちをうーんと苦しめるためのコマにするはずだったのに。予定が狂っちゃったわ~」
「へへ……。こんな奴らアルチナ様が直々にやっちゃってくださいよ!」
いつの間にかモブ敵のクソ垂れCはアルチナの配下に成り下がっている。
まあ、自分の上官があんな変態に変わり果ててしまえば早々に見捨てたくなる気持ちもわかる。
「ふ~ん。見ない内に新しいお友達が増えてるのね~? 可愛らしい弓術闘勇士の女の子に、盾使いの彼は魔勇士かしら?」
初見でヒューゴが魔法ジョブであることを見抜くアルチナ。
「なに……!? どうしてそれを!」
「あら、もしかして闘勇士に擬態してるつもりだった? 簡単に見破っちゃってゴメンね~!」
――――盾を使う闘勇士も防御魔法を扱う魔勇士も、タンクを担うという点では同じ役目を持っている。
だが戦闘時における両者の立ち振る舞いには若干の差が現れる。
物理特化型の闘勇士は「どのような攻撃であろうと受け止める」、その一点のみに全神経を集中させる。
対して防御魔勇士では「パーティ全体の防御力の底上げ」や「魔法による敵の攻撃の無効化、またはカウンターのチャンスを探す」といった水面下における駆け引きが展開される。
それらを起因とする身振りの違い……。
ただし、そのわずかな差異を見分けるのはよほどの経験を積んだ者だとしても至難の業。
あまつさえアルチナはそれを戦闘が始まる前の時点で易々と見抜いてしまったのだ。
力量の差に愕然とするヒューゴ。
「……この女、ただ者じゃないぞ! ゴブリンガール! 一体どんな理由でこんな奴に付きまとわれてる?」
「へん、白々しい! お前たちがアルチナ様に喧嘩を売ってきたんだろうが!」
クソ垂れCが一歩前に出てアタイたちを罵る。
「『ギルド潰しの凶魔女』を怒らせた罰だ! さあアルチナ様! この愚か者どもにサンダーボルトでもブリザードでも放っちまってくだせえ!」
すると、途端にCの体に青白い光が渦巻き始める。
「あっ! しまった!」
直後、轟音と共に落雷が落ちる!
「あひゃ~!」
直撃を受けたCの体は一瞬にして黒く焦げた肉片と化してしまった。
「うふ。油断しちゃったみたいね~。だから言葉には気を付けなさいって言ったのに~」
「これは、サンダーボルト……!?」
「馬鹿な! 呪文も唱えずに術を発動したのか!?」
「トラップ魔法だぜ! 同じ術がゴブ子にも掛けられてんだよ!」
みんなはギョッとしながらアタイを見て、速やかに10メートルくらい距離を取った。
いや、気持ちはわかるけどね!?
アタイを病原体みたいに扱うんじゃないよ薄情者ども!
「くそ! やるしかねえ! お前たち、手筈通りに攻めるぞ!」
「はい!」
盾を持つヒューゴを前衛に、剣を引き抜いたシブ夫とタジが続く。
それを脇から弓を構えるスージーが補佐する。
連携を取りながら迫る勇者たちだったが、当のアルチナはまったく動じる気配がない。
「いや~ん。物騒なモノ取り出しちゃって~。恐怖を振り払いながら強敵に挑んでいく姿って、いつ見てもカワイイのよね~。応援したくなっちゃう♪」
「戯言を抜かすな!」
攻勢に出る様子のないアルチナに、ヒューゴが盾を振るって第一撃を仕掛ける。
だがアルチナは繰り出された丸盾の縁に手を付くと、それを支点にヒラリと上体を浮かせてヒューゴの体ごと飛び越えてしまった。
まるでアルチナの周りだけ時間が遅く、重力も幾分か軽くなったかのような身のこなしだ。
続くシブ夫とタジによる3連続の斬撃もいともたやすくかわしてしまう。
かつ、その間に的確に急所を狙って打ち出されたスージーの弓矢を、あろうことか2本の指だけを使って受け止めながら……。
端から見れば、突き進む4人の勇者の列をただ通り抜けただけのようだった。
「私たちの攻撃が……!」
「魔法を使うでもなく、体術だけでこうも簡単に!」
「……イイわね~! ひたむきな姿勢と絶望に歪む顔。ハイベンジャーズの堕落勇者たちとは比べ物にならないわ~。ただ、やっぱりまだまだ実力不足なのよね……」
ふざけんじゃないよ!
反則級の強さじゃないか!
こんなのを相手にどう戦えばいいってんだい!?
口をテープで塞がれてて声援を飛ばすことすらできないアタイ。
だけどね、アタイはあんたたちを信じてる!
だから最悪の場合はアタイが逃げ延びるまでの時間稼ぎくらいはしてくれよな!
アルチナと勇者パーティとの激闘は続く……!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
なんだよ! 全然勝負になんないじゃないのさ!
まったく応援し甲斐のない勇者たちだね!
退屈したアルチナもとうとう魔法で遊びだしたよ?
バームクーヘンにフォークにナイフ、おまけに水ようかんまで!?
ティータイムでも始めるつもりかい!
【第60話 ゴブリンガールは幻術を見る!】
ぜってぇ見てくれよな!




