第58話 ゴブリンガールは息が上がる!
「ようゴブリンガール。また会ったみたいだな」
「ヒューゴ!?」
「フガフガ……!」
※ヒューゴについてはメインクエスト【レイド参戦する!】(第25話~)を参照。
懐かしい顔にこんなところで鉢合わせするとはね。
だけど今は雑談に花を咲かせてる余裕はない。
アタイらを取り囲むハイベンジャーズの男たちは畳みかけるように弓矢や魔法攻撃を打ち込んできた。
「スライム! お前の体を借りるぞ!」
「また!? もう嫌なンだわ!」
言うが早いか、スラモンを鷲掴みにしたヒューゴは腕を大きく振るった。
宙になびくようにしてスラモンの体がニョーンと伸び切り、アタイたち全員を包むように広がった。
すかさずヒューゴが詠唱し、スラモンの薄皮が光を帯びる。
前にも使ったバリア魔法だね!
スライムの膜が敵の攻撃を弾き返している間、ヒューゴは背後を振り返ってアタイたちに言う。
「まったく余計なことをしてくれたもんだぜ! せっかく奴らをおびき出して一網打尽にしてやろうって計画がこれでパアだ」
「んなこと知るかよォ!」
「こうなったらお前らにも手伝ってもらうぜ! ニューフェイスのお二人さん、見たところあんたらも勇者だな? 戦えるか?」
「はい。僕たちも敵対ギルドを倒すために来たんです」
「やれることはやってやるよぉ」
「ようし! 良い意気込みだ!」
ヒューゴはスペルを唱えた。
するとアタイたち一人一人の体に淡いオレンジの光が宿る。
「簡易的な防御魔法だ。被ダメージが一定値に達するまでは敵の攻撃に怯むことなく動き回れる。スラモンのバリアが解けたらみんなで別々の方向にダッシュしろ。なるべく奴らを分散しながら開けた地形まで追わせるんだ」
「走るだけでいいのか? 何か策があるんだろうな?」
「もちろんだろ。さあ行け!」
術が解けてスライムの広がった体が球状に戻ると、ヒューゴはそのままスラモンを脇に抱えて走り出した。
指示通り、アタイらも蜘蛛の子を散らすようにバラバラの方角へ駆け出す。
「追え! 一人も逃がすな!」
襲い掛かってくるハイベンジャーズの男たち。
シブ夫やタジは剣を使って牽制しながら上手く攻撃をかわしていく。
だがアタイはそんな芸当をこなせるはずもなく、ただひたすらに前を見て走り続けるのみ。
「フガフガ~!」
しまったね!
テープで口を塞がれてるせいでまともに酸素を取り込めない!
呼吸困難でぶっ倒れそうだよ!
ヘロヘロになったアタイに敵の一人が追いつき、大きく剣を振り上げる!
絶妙なタイミングでヒューゴの掛けた防御魔法も効果切れになったらしく、体をまとっていた光が消えてしまった。
もうダメだぁー!
……と思ったが、男は振り上げた姿勢のままで硬直し、やがて前のめりに倒れ込んでしまった。
倒れた男の背中には一本の矢が突き刺さっている。
「フガ……!?」
どうやらヒューゴの他にもまだ味方が潜んでいるらしいね。
この攻撃を皮切りに次々と死角から矢が飛んできた。
アタイらを追いかけるのに夢中の敵は背後からの狙撃に対応しきれず、命中を受けて順々に転がっていく。
気が付けばすべての男たちが地面に伏して沈黙していた。
「こんなものかしら!」
長弓を背負う女が木の上から飛び降りて華麗に着地した。
弓使いの女勇者、スージーだ!
「スージー! お前もいたんだな!」
「あらジョニー。それにスラモンも。久しぶりね」
スージーはにこやかに笑って手を振る。
そしてテープを口に貼られたまま涙目で呼吸を整えようとするアタイの醜態を見てギョッとした。
「ゴブリンガール……。あなた……何やってるの?」
あからさまにドン引きしてんじゃないよ!
この優等生クソ女!
「ス、スージー……。ナイスアシストだったぜ……」
「先輩こそ。危険な囮役を買っていただいて、お疲れさまでした」
「え……えへへ……!」
ヒューゴは頬を赤らめながら微妙な高さに掲げた手をサムズアップして見せる。
相変わらずこの男はスージーの前じゃ挙動不審だね!
そういえばダ・ゴ・ダロンの遺跡で別れたあと、この二人は行動を共にして全国に散らばるハイベンジャーズの組織を追っていたんだっけ。
しかし、こんなところで再会するとは思わなかったね。
「ふぅ~! どうなることかと思ったぜぇ」
「これであらかたの手下は片付いたようですね」
剣をしまいつつ、シブ夫とタジも集まってきた。
言葉を発せないアタイの代わりにジョニーが初対面の者同士を紹介する。
「あ~……。こっちはシブ夫とタジ。勇者だ。こっちはヒューゴとスージー。勇者だ」
適当にもほどがあるだろう、ジョニー……。
「よろしくな。俺たちはゴブ子のろくでもないトラブルに巻き込まれて出会ったんだ」
「こっちこそよろしく。俺たちもゴブ子のろくでもないトラブルに巻き込まれて出会ったんだぜぇ」
なんちゅう自己紹介をしてくれてんだよ、あんたたち!
順に握手を交わしていく4人。
だが途中で問題が起こった。
スージーがシブ夫の顔をまじまじと見つめたまま動きを止めてしまったのだ。
「スージー? どうかしたか?」
「やだ……! 超イケメン! 可愛い~っ!」
「えっ。僕ですか?」
スージーは興奮のあまりぴょんぴょん飛び跳ねながら怒涛の勢いでシブ夫を質問攻めにする。
「シブ夫くんっていうんだ~! 勇者になって何年目? まだレベル32? じゃあ私の方がちょっと先輩ね~! キミみたいなカワイイ後輩が欲しかったの! 嬉しいな! 仲良くしてね?」
「はあ……」
この女……!?
まさかのミーハー属性かよ!
すでにシブ夫を見る瞳がハートマークになってんじゃないか!
危険信号を感知したアタイとタジはスージーの背後に忍び寄った。
「おい女! 初対面のクセして不躾だろ」
「フガフガ」
「ちょっとくらいいいじゃない。目の保養よ」
「後から来といて偉そうに。俺たちの後ろに並んで大人しく順番待ってろ」
「フガフガ」
「はい? シブ夫くんは誰のものでもないでしょ? 話したければ押し退けてでも話します」
ビリビリと睨み合う3人。
今にも殺し合いが始まりそうな空気だね。
ジョニーは恐る恐るスージーに問いかけた。
「なあスージー。お前にはヒューゴがいるんじゃないのか……?」
「え? 先輩がどうかした?」
キョトンとした顔を見せるスージー。
とぼけるような素振りもなく、なぜヒューゴが話題に出たのか純粋に不思議がっているようだ。
ウソだろ……!
この女、恋にミーハーなクセして他者からの好意にはすこぶる鈍感系女子かよ!?
振り返ると、少し離れたところでヒューゴが独り抜け殻のようになって立ち尽くしていた。
「そんな……スージー……」
絶望に歪む顔、その頬に一筋の涙が流れていた。
こいつ、失恋してやがる……!
バトルを抜きしても波乱が起こりそうな気配がプンプンしてきたよ!
アタイらの青春劇の行く末はいかに――――!?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
クソミーハー生真面目クソ女のスージーまでシブ夫の魅力にやられちまうとはね!
クソガチホモ男タジと取り合いをやるだけでも一苦労だったってのに、これじゃあ混乱を呼ぶ一方だよ!
なんとか隙を見計らってこの邪魔者2人を始末しなければ……!
ん? ハイベンジャーズ?
んなこたあ後でいいんだよッ!
【第59話 ゴブリンガールはパーティ戦する!】
ぜってぇ見てくれよな!




