第56話 ゴブリンガールはスマホを失くす!
アタイたちを前にして戦闘態勢に入るハイベンジャーズの3人の刺客。
面倒なので呼び名を順にクソ垂れA、B、Cとする。
するとクソ垂れAがアルチナの顔を見て、突然すっとんきょうな声を上げた。
「あれ? あんた、どっかで会ったことある?」
「もう~またソレえ~? 私ったら、モテモテすぎて参っちゃうわ~」
「いや、別に口説き文句じゃなくってさ……」
そのやり取りを聞いて今度はクソ垂れBとCも反応する。
「……そうだ! こいつの顔、組織の警戒人物リストに載ってたぞ!」
「たしか名前はアルチナ。『ギルド潰しの凶魔女』だ!」
ギルド潰しの凶魔女……!?
その通り名、物騒すぎるだろ!
「やめてよね~。その言い方じゃ誤解されちゃうでしょ。正確に言うと、いくつかのギルドが私をしつこく勧誘してきて、それが取り合いの戦争に発展したってだけ。勝手に潰し合っただけで私は一切ノータッチよ~」
この性悪クソ女を取り合ってギルド間戦争だって?
耳を疑いたくなるような話だよ。
「へえ、物好きなギルドもあったもんだね」
「しかし戦争まで起きるなんてよっぽどだぞ。アルチナ、あんたは一体何者なんだ?」
「うふふ~♡」
アルチナは人差し指をクルリと回し、聞き慣れない語調の呪文を唱えた。
すると指先からぽわっと青い光が発した。
それは三又に分かれ、次の瞬間にはグンと音を鳴らして飛び、クソ垂れABCそれぞれの体に衝突した!
「うわっ!?」
「くそ、魔法攻撃か?」
「ふふふ。せっかく積もる話をしてたところに水を差してくれたお礼よ~」
うろたえるABC。
どんな術が掛けられたのか見当が付かず、異常はないかとアタフタと自分の体を見回す。
でも特に変化があったワケでもなく、しばらく経っても何も起こる気配がない。
「なんだ? 見かけ倒しかよ?」
「このふざけた女が本当に伝説の魔女なのかね」
「ただのソックリさんかもわからんが、この話をゴリザワ様に報告すりゃあきっと食いついてくれるだろうぜ」
タジはゴリザワという名に聞き覚えがあったらしい。
動揺しながらかつての同胞たちに尋ねた。
「ギルドの四天王、残忍な男として有名な『衝戟のゴリザワ』……! 奴がこの辺りにいるってのか?」
「そうだぜ。俺たち小隊はここいらを寝床にして道行く旅人を狩ってたのさ」
「四天王? ヤベえじゃん!」
「というか四天王のクセにやってることは追い剥ぎと変わらないのな……」
「まあ、ほとんど盗賊崩れみたいなもンだわ」
しかし組織の幹部クラスなら相当な実力の持ち主に違いない。
こいつは面倒なことになりそうだね!
「そこの無能魔女! 俺たちと一緒に野営地まで来てもらうぜ。ゴリザワ様へのお目通りだ」
「あら、強引ね~。私をあなたたちのギルドに引き込むつもり?」
「さあな。それはお前の実力がウワサ通りかを確かめた後だ」
ABCはジリジリとアルチナににじり寄る。
「ゴブ子さん。どうしますか? 彼女が友人なら助太刀した方が……」
「友達? バカ言ってんじゃないよ! このクソ女がどうなろうが知ったこっちゃないね!」
触らぬ神に祟りなし!
ここは見なかったフリ一択だよ!
「ククク。味方に見限られるとはな。憐れな女だぜ」
「メガフレアやエクスプロードみたいな上級魔法を出せるならまだしも、ただの青い光を放てるだけだしなぁ」
アルチナを小馬鹿にして意地悪く笑うABC。
だがそのやり取りを聞いて今度はアルチナが笑いだした。
「アハハ! 言っちゃったわね~。よりにもよって上級魔法! 運がないな~」
「はあ? なに笑ってんだよこいつ」
すると、突然クソ垂れAの体の表面に先ほどと同じ青い光が浮かび上がった。
それはAを取り巻くようにグルグルとらせんを描いて回り、徐々に勢いを上げていく。
「ヒイッ!? 助けてえ!」
光はやがて燃え盛る炎へと姿を変え、一気にAを飲み込んで灼熱の火柱を上げた!
~メガフレア(アビリティレベル86)~
炎操魔勇士が習得する炎属性の攻撃魔法。
猛炎を生み出して対象者を焼き尽くし、灰へと変えてしまう。
その攻撃力は数ある攻撃魔法の中でも最強クラスである。
――――炎が消えたあと、そこには人の形をした黒い炭跡だけが残っていた。
「熱っちい! 何が起こったんだよ!?」
「炎魔法か……!」
「でもアルチナは詠唱してないのに勝手に火が出たぞ? どういうことだ?」
アルチナはおかしくてたまらないというように、頬を膨らませて吹き出すのを堪えている。
「私が掛けてやったのはちょっとしたイタズラ魔法よ~。術を受けた者が一番初めに発した名前の魔法が、その人自身に掛かってしまうの! ね~、最高でしょ?」
……つまり、Aはメガフレアという名前を口にしたせいでその攻撃を浴びちまったってことかい?
みんなの顔がサッと一様に青ざめた。
~エコラリアスペル(アビリティレベル79)~
施罠魔勇士が習得する特殊系統のトラップ魔法。
発動条件として、対象者の発言した魔法のアビリティレベルを術者のレベルが上回っていなければならない。
この条件を満たせばたとえ術者が件の魔法を習得していなくても技が発動される。
また、その際にMPは消費されない。
「クセが強すぎてまったく実戦に向かない術だけど、相手がどんな魔法名を口にするか毎回ハラハラしちゃうのよね~! これだからやめらんないわ~!」
冗談だろ?
どんなふうに性格が歪んだらこんなえげつない技を覚えようなんて考えるんだよ!
凶魔女という名に相応しい捻じ曲がりっぷりだね!
「さあて、残りのお二人さん。ここから先は言葉を選んで喋ってね。間違っても『メテオ』なんて口走っちゃダメよ。でないとここら一帯がクレーターだらけになっちゃうから~」
クソ垂れBCは慌てて口を両手で塞ぐ。
「それじゃあ慎重に答えなさい。あなたたちの小隊の人数は?」
「じゅ……十人……」
ソロリソロリとBが答える。
「小隊長のゴリザワって勇者のジョブは?」
「魔勇士……。衝戟魔勇士です……」
「気圧を操作して衝撃波を生み出すのに長ける術者ね~。ふうん。ちなみに必殺技は?」
「グランショックという技で……あっ!?」
途端にBの体が青い光に包まれる!
そして地面を突き上げるような衝撃波が発生し、土片を散らしながらBの体が空へと吹き飛んだ!
「ひやあ~!」
十メートルは飛んで無様に茂みの中へと落ちていくB。
「あらあら~! だから慎重に答えなさいって言ったのに~! ウケる~!」
「いや! うっかり言い漏らす方向に誘導してたンだわ!」
「うふ♡ 百聞は一見に如かず。これで敵の技の情報収集は完了ね~」
「なんとも末恐ろしい女性ですね……」
「仲間でいる内は心強いけどな……」
その呟きを聞いたアルチナは頬に手を付いてわざとらしく首を傾げた。
「仲間~? 何か勘違いしてない? 私がいつキミたちの仲間になったのかしら~」
そう言ってアルチナはアタイを指差した。
「私って結構根に持つタイプなのよね~。ゴブリンガール。この前私にウソをついたでしょう? おかげで無駄な時間を喰っちゃったじゃない~」
向けられた人差し指がクルリと回る。
するとアタイの懐がはだけ、独りでにスマホが宙に浮かび上がった。
「あっ!?」
反応する間もなく、スマホは磁石で吸い寄せられるようにして空を飛び、アルチナの手の中に納まってしまった。
「これが『異端の勇者』を異端たらしめる『異世界の錯誤物』。でも妙ね~。シブ夫くん以外にも扱えてしまうのだとしたら、彼が存在する意義がなくなってしまうわ」
「こら、アルチナ! そいつを返しな!」
「うふ。こんなにステキな物を隠し持っててズルイじゃない。仕返ししたい気分だよ~」
アルチナは先ほどと同じ呪文を唱える。
同様に青い光が指先に灯り、それがアタイに向かって一直線に飛んできた!
アワアワ……!
「ゴブ子さん! 逃げてください!」
とっさにシブ夫が剣を振って光弾をかき消そうとするが、実体のないものを斬れるはずもない。
「アハハ! ムダムダ~! 私の術からは逃れられないんだから~!」
シブ夫の剣をすり抜けた光の帯はアタイの体に直撃し、肌に染み込むようにして消えていった。
「くっ!? 喰らっちまったね……!」
「ゴブリンガールちゃん。お口は閉じてた方が身のためよ~」
「ゴブ子! お前は今後一切喋るな!」
「口走るんならせめて範囲攻撃魔法だけは避けてほしいンだわ! 巻き添えを食うのは御免なンだわ!」
薄情にもみんながアタイから後ずさりし始めた。
その微妙な距離感が心をえぐる。
「あんたたち! 手のひら返すようにアタイから遠ざかるんじゃないよ!」
「黙っとけって言ってんだろ!」
「むしろさっさとメガフレアとでも呟いて一人で消えてくれた方がよほど安心なンだわ!」
アルチナは唯一残ったクソ垂れCに向き直った。
「それじゃああなた。私をそのゴリザワって隊長の所まで案内してくれる~?」
「えっ……?」
「お目通しでしょ~。場合によってはあなたたちのギルドに身を置いてあげても良くってよ? うふふ~」
「アルチナ! あんた排便ジャーズ側につくってのかい?」
「そうなるかは今後の成り行き次第。ね、異端の勇者くん。私があなたを主人公に見合う男かテストしてあげる~。スマホが欲しかったら追いかけてきてごらんなさいな♡」
そして両手を胸元に上げて空間をこねるように手を回した。
するとドロンと煙が噴き出して、それが晴れるとアルチナとCの姿が跡形もなく消えていた。
「逃げられた……!」
しまったね!
目の前にいながらまんまとスマホを奪われちまうなんて!
あの性悪クソ魔女、一体何を考えてんのかわからないよ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
アルチナはまさかの敵キャラだったのかよ!
悪寒が走るほど偏屈でいやらしい魔法技を使いやがる!
この女の邪悪ぶりは筋金入りだね……!
こんなことになるなら初めて会ったときに寝首を掻くべきだったじゃないか!
後悔先に立たずだよ、クソったれ!
【第57話 ゴブリンガールは口を閉じる!】
ぜってぇ見てくれよな!




