第48話 ゴブリンガールは里帰りする!
このクエストから第2章【見違える転生勇者】が始まります!
「あんたたち、大変だよ~!」
ひとクエスト終えてやっとこそさスナックに帰り着いたアタイとジョニーとスラモン。
だが一息つく間も与えられず、店主のピク美ママがアタイらの前に飛んできた。
「うっとうしく飛び回らないでおくれよ。こっちは疲れてんだからさぁ」
「ひとまず水くれや水」
「酒でも構わないンだわ」
「んな悠長なこと言ってる場合じゃないよ~!」
やけに慌てているね?
何があったってんだい。
「あんたたち、『ハイベンジャーズ』って奴らのことは知ってるね?」
「排便?」
「ああ、『勇者狩りギルド』の連中だろ」
そういえば、いつかダンジョンを探検したときに敵対した勇者グループだったね。
レベルやスキル育成に失敗して自力でクエストを攻略できなくなり、他の汚いやり口で金稼ぎをしようって目的で結成されたギルドだ。
※詳しくはメインクエスト【レイド参戦する!】(第25話~)を参照。
「奴らは前々から各地に出没しては厄介事を起こしていてね。最近じゃ頼んでもいないのに低レベル帯のモンスターを狩って、近隣の村人に無理矢理クエスト報酬を請求するなんて荒稼ぎをしてるんだよ」
「はた迷惑な奴らだな」
「クソ垂れンジャーズという名にふさわしいよ」
だが堕落者軍団と言えど、腐っても勇者は勇者。
レベル2のアタイたちに敵う相手じゃない。
「退治するならアタイらに頼まずに正式に討伐隊でも雇いなよ」
「早とちりするんじゃないよ~! アンタたちじゃ荷が重すぎるってのは百も承知なんだよ」
「なら何をそんなに騒いでるんだ?」
「奴らは低レベル帯のモンスター狩りをしてるって言ったろう? どうやら今は『はじまりの村』近辺に潜伏してるらしくてね。すると奴らの狙いはおそらく近くのゴブリン集落……」
「まさか……」
「そう! あんたの故郷を襲撃するつもりなんだよ~!」
なんてこったい!
アタイの生まれ育った村が勇者どもに攻め込まれるかもしれないって!?
あまりのショックにワナワナと体から力が抜けていく。
「あの村がなくなったら……。そしたらアタイは……」
「落ち着くんだゴブ子」
「無理もないンだわ……。思い出の故郷が勇者たちに燃やされるなんて想像するだけで心が痛いンだわ」
スラモンは同情の言葉を寄せてくれたが、アタイの関心はそんなところにはなかった。
「あの村は借金の担保に掛けてんだよ!? 無くなっちまったらドンフーのギャング団にどんな扱いをされるかわかったもんじゃないよ!」
「そっち!?」
「こんな状況でも自分の保身が第一とはな。さすがのクズっぷりだぜ」
アタイらはさっそく荷物をまとめてゴブリン集落へ向けて出発した。
クソ垂れンジャーズを止める術は思いつかないが、このまま黙って見過ごすワケにもいかない。
というか見過ごす場合はギャングからの亡命に備えてどのみち旅支度は必要だった。
道中を急ぎながら、アタイははやる気持ちを抑えきれない。
「くっそ……! みんな、どうか無事でいておくれ!」
もし借金を返しきれなかったときは、肩代わりとして村が解体され、村人たちは奴隷として方々に売り飛ばされる。
そのためにもみんなには元気でいてもらわなければ困る。
こんなところで勇者たちに殺されてしまうなんて、そんな悲劇を起こすワケにはいかないんだよ!
「潔いほどのクズなンだわ。ドン引きなンだわ」
「今さらか? しょっぱなからこういう趣旨の話だったぜ」
もうそろそろで『はじまりの村』のフィールドに到着するはずだ。
と、そこではるか前方に黒い煙が立ち昇っているのが見えた。
「何かが燃えてるみたいなンだわ」
「集落の方だぜ。あーあ。もう手遅れだろ」
「縁起でもないこと言ってんじゃないよ! こうしちゃいられないね!」
走り出そうとしたアタイたちだったが、それに立ち塞がるようにして一人の男が現れた。
「ようお前たち。ここから先はちょいとお取込み中でな。悪いが迂回してくれや」
盗賊のようなみすぼらしい格好をしているが、おそらくこいつはハイベンジャーズの一人。
見張り役ってところだろうね!
「どきな! あんたたちの魂胆はわかってんだよ!」
「ほう? 威勢の良いゴブリンだな。タイミングよく村の外へ出かけてたのか。悪いことは言わないが、故郷のことは忘れてこのまま回れ右しといた方が身のためだぜ」
男は剣を引き抜いてチラつかせながら脅してくる。
勇者の中ではザコの部類だろ
だが、果たして弱小モンスターのアタイらに倒すことができるだろうかね。
「四の五の言ってても仕方ない! あんたたち、行くよ!」
アタイたちは3人がかりで勇者に襲い掛かる。
まず先に飛び出したのはスラモンだ。
「俺に物理ダメージは効かないンだわ!」
だが勇者はそれを見越していたらしい。
剣を持つ方とは逆の手をかざして呪文を唱えたのだ。
すると手のひらから空気を震わせる衝撃波が放たれた。
~エアラッシュ(アビリティレベル9)~
魔勇士の習得する無属性の低級魔法。
弱い衝撃波を放ち、相手を怯ませたり転ばせたりすることができる。
「だわーっ!」
まともに空圧を受けたスラモンはビチビチに飛び散った。
地面がスライムの断片にまみれてぬるぬると汚れてしまう。
汚ったねえ……。
「ふはは! レベル2が勇者に敵うかよ!」
男は続けざまに衝撃波を打ち出し、今度はジョニーが直撃を受ける。
「アレ~!」
いつもの通り関節が外れ、バラバラになって地面に転がる。
「ジョニー! スラモン! 役立たずにも程があるだろ!」
「さあゴブリン女。あとはお前一人だけだぞ」
「くっ……!」
こうなればやむを得ない!
アタイは懐からスマホを取り出して液晶画面をタップした!
頼むぞ課金フルパワー!
アイテム召喚で最凶モンスターにメイクアーップ!
スマホから虹色の光があふれだし、アタイの手の上に現れたアイテムは……!?
~おてだま(使用推奨レベル3)~
小さな布の中にアズキ豆などを入れて縫い上げた手のひらサイズの玉。
複数の玉をジャグリングのように宙に投げては受け止めて遊ぶ。
……こんなことだろうと思ったけど、今回もガチャはまったくのカラ振りみたいだね!
ええい、クソが!
「フハハ! そんな田舎臭いオモチャでどう抵抗するつもりだ!」
「うるさいね! んなことこっちが聞きたいんだよ!」
アタイは覚悟を決めた。
両手に玉を持ち、足を肩幅に開くと深く息を吸い込んで精神統一を図る。
「コオォォォ……!」
すさまじい集中力。
体を巡る気の流れが手に取るように感じられる。
――――今だ!
アタイはカッと目を見開くと、手の上のおてだまを宙に放った。
それらは空で輪を描くように緩やかな放物線をたどる。
そして吸い込まれるようにして再び手の内へと戻っては、また空へと跳ねていく。
「ハイ! ハイ! ハイ!」
途切れることなく続く見事なおてだまの曲線美。
アタイは手の上で布の玉を遊ばせながら、ジリジリと男との間合いを詰めていく。
「ほらほら! さあどうする!?」
「いや……どうもこうも……」
アタイとおてだまの生み出す威圧感に、男は思わず後ずさる。
「な、なにやってんだ! なんなんだこの時間は!?」
「んなことアタイにだってわからないよ!」
形勢は逆転(?)したかに思われた。
だがそこでほんの少しの油断が生まれたのかもしれない。
アタイは地面を汚すスラモンの断片を踏んづけて、滑って転んでしまった。
しかも仰向けに落ちたところにちょうどよくジョニーの骨が転がっていて、後頭部をしたたかに打ち付けた。
ゴツン!
「イッテェ!」
「おいゴブ子、気を付けろよな! ヒビでも入ったらどうしてくれんだ!」
「ちゃんと後で寄り集めるんだから、これ以上散らかさないでほしいンだわ」
細切れになったジョニーとスラモンの破片がアタイを囲みながら口々に不満を言う。
どういうシチュエーションだよ!
バラバラになったままで喋るんじゃないよ! 気味が悪いね!
ふと顔を上げると、アタイの目の前で排便勇者が剣を構えていた。
「観念するんだな。お前も仲間と同じように解体して、まとめて仲良く可燃ゴミに出してやるよ」
「ひい~……!」
男は頭上に掲げた剣を勢いよく振り下ろす。
終わった――――。
だがそのとき、別の第三者が音もなくアタイたちの間に滑り込んだ!
キイィィン!
その人物が手に握る剣によって、排便勇者の攻撃が間一髪で防がれる。
「だ、誰だっ……!?」
謎の人物は剣を払って排便勇者を突き飛ばす。
そして顔だけ振り向いて倒れたままのアタイを見下ろした。
――――よれたジャージを着込み、その上に気持ち程度の鎧装備を付けている。
整った顔の輪郭に黒色のくせっ毛が乗っていて、その隙間から切れ長の優しそうな瞳が覗いていた。
あら、イケメン……!
「大丈夫ですか、ゴブ子さん」
「ハイ……?」
はて?
アタイたち、どこかでお会いしてましたっけ?
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
誰……?
え? 浜田シブ夫……。
………。
そんなキャラいましたっけ?
【第49話 ゴブリンガールは再会する!】
ぜってぇ見てくれよな!




