第47話 ゴブリンガールは枕投げする!
ラブリーガールズと10人のオタクたちを乗せた一泊二日の馬車ツアー。
一通りの観光地を巡り、日が暮れる頃には小汚い民宿へと到着した。
ここが今日の宿泊地ってワケだね。
さっそく浴衣に着替えて宴会場に集まるアタイたち。
一応このツアーの目玉イベントとされているミニライブが始まるのだ。
酒と料理に囲まれて参加者たちがくつろぐ中、アタイら3人がひな壇の上に昇る。
「待ってました! ラブリーガールズ~!」
「キュンキュン!」
ここにきて盛り上がりは最高潮だ。
と、ドンフーとピク美が前に出てきてなにやらアナウンスを始める。
「ライブの前に注意事項を説明する! この宿の宿泊費と夕飯代、会わせて3万ゼニを徴収させてもらうぜ!」
「えぇ!? ツアー費に含まれてないの?」
「あんたたちも学ばないねえ! まあツアーに参加してる時点で手遅れだけどね!」
ゲス顔のドンフーとピク美が一人一人から金を集めて回る。
会場のテンションは一気に急降下した。
「……それでは改めまして! みんな、今日はよく来てくれたんだわさ!」
「盛り上がってるでやんすか~!?」
「……………」
シーン……。
どうすんだよコレ!
タイミングってもんを考えろよ守銭奴どもが!
「……それじゃあさっそく、アタチたちのファーストシングルを歌っちゃうんだわさ」
ドワ子の合図で部屋の隅のくたびれたカラオケ機が起動し、安っぽい音響の伴奏が流れだした。
ちなみに、歌に併せてダンスも踊ると呪術が発動してしまうため、今回はアタイたちは棒立ちのままで歌っていた。
『初めて出会ったあの日から もう何度目の通報かしら――――♪』
出だしこそシケた空気だったものの、曲が進むにつれてオタクたちのテンションは回復し始めた。
このときのためにオタ芸を練習してきた輩もいたらしい。
自前のペンライトを取り出して一心不乱に振り始めた。
「フォー!」
「やっぱ生ライブ最高―!」
サビへ向けて徐々に激しくなっていくタテノリ!
『DOKI DOKI 恋はマジ☆カル』
「「マジカル~!」」
『UKI UKI ラブがあふ☆れる』
「「あふれる~!」」
歌詞に被せるようにして叫ばれる合いの手。
うるせえ!
そして重てえ!
でもなんだかんだで楽しくなったアタイたち。
曲の歌い終わりと同時に座敷へとダイブし、そのままオタクたちに胴上げされる形で締めくくられた。
その後もファンと一緒にひな壇でカラオケ大会したりして、和気あいあいと飲んで騒いでの宴会を楽しんだのだった。
~そして深夜~
宴を終えて個室へと引き上げたアタイとドワ子、ヤンフェの3人。
こっそり持ち運んだ酒を飲み交わしつつ一息つく。
「今日はさすがにくたびれたね」
「だけど、初めは不安だったけど割と楽しめたんだわさ」
「あっしたちは良いファンを持ったでやんすね」
しみじみと語らい合うアタイたち。
ラブリーガールズの結成からこれまで波乱の連続だったね。
辛いこともたくさんあったけど、アイドルをやるってのも悪くはなかったと思えるよ。
――――なんて感慨に耽っていたら勢いよくドアが開いた。
そこに立っていたのはドンフーとピク美。
いや、そのさらに背後にはファンたちが全員続いている。
「ちょっと! なんの騒ぎだい?」
「ふふふ。まさかこれでツアーが無事終わったなんて思っちゃいねえよな?」
「夜のお楽しみはまだまだこれからだよ~! お泊り会の一大イベントと言ったら? そう!」
「『枕投げ』と相場が決まってんだろォ!」
ハア? 知るかよ!
「これから枕投げ大会を開催する! ドワ子、ゴブ子、ヤンフェの3手に分かれ、それぞれのファンが付いてチームを作る!」
「3チームで三つ巴をやって、リーダーの顔に枕が直撃したら負け! 最後まで生き残ったチームが優勝だよ~!」
ぞろぞろとオタクどもが部屋に乱入し、キリよく3等分に分かれる。
アタイの所には頼りにならなそうなモヤシ野郎たちが集まった。
「ゴブ子ちゃん! キミは僕たちが守るからね!」
「なんなりとご命令くださいね! ハアハア!」
「………」
アタイを守るのは勝手だが、できればあまり近づかないでいてほしい。
「全員枕を持ったな!? それじゃあ始めるぞ!」
ドンフーがけたたましくホイッスルを鳴らす!
試合開始だ!
まず先手を切ったのはヤンフェチームだ。
「あっしの下僕たちよ! さっさと片付けちまうでやんす!」
「いやぁ~ん! ヤンフェくん尊い……!」
「殺っちゃうわよぉ~(低音)」
こいつのファンはやけにガタイが良い。
筋肉モリモリのタンクトップ姿で動きに微塵も隙がない。
そしてなにより目が怖い。
こんなのズルいじゃないか!
オネエたちは俊敏な動きでアタイに迫る!
オタクたちがそれを阻もうと前面に出るが、しかし為す術もなかった。
オネエは枕を投げるでもなく手に掴んだ状態のままで、ボクシンググローブの要領で次々とオタクの顔を殴りつけていったのだ。
たちまちの内に一掃されて、アタイの守りはゼロになった。
「ちょっ、タンマ……!」
いう間もなく、オネエから放たれた枕が剛速で飛んでアタイの頭に直撃した。
「ピピーッ! ゴブ子アウト!」
アタイは鼻血を出して布団の上に大の字に倒れ込む。
「ゴブ子ちゃん、ゴメンね……!」
「僕たちが不甲斐ないせいで……!」
オタクどもは弱々しくアタイの側に集まってくる。
「こうなったら責任を取るしかない!」
そう言うとオタクたちは覚悟を決めたように頷き合う。
そしておもむろにズボンを下ろすと、生ケツを突き出した。
「お仕置きにお尻ペンペンしてくださぁい! ハアハア!」
こいつら、これが目的でわざとやられたんじゃないだろうね!?
「汚ねえケツ向けてんじゃねえよ!」
アタイは手元の枕を投げつけ、倒れ込んだオタクどもの顔に蹴りを打ち込んでいく。
「イイぃ~!」
「忘れられない思い出! プライスレス!」
一方、ヤンフェチームとドワ子チームの死闘は続いていた。
やはりオネエどもは強い。
圧倒的な戦闘力でドワ子の手下たちを薙ぎ払っていく。
あっという間に孤立してしまうドワ子。
ヤンフェはオネエたちの隙間から顔を覗かせるとニタリと笑った。
「ククク……。あっしは前々からリーダーの傲慢な振る舞いってのに辟易してたんでやんすよ。今日この場で下剋上をさせてもらうでやんす!」
「下剋上だって? フン。アタチをステージから引きずり下ろすには人手が二桁は足りないんだわさ」
「言ってくれるでやんす! さあお前たち、やっちまうでやんす!」
ヤンフェの命令で一斉に飛び掛かるオネエたち!
だがドワ子は姿勢を低く保つと、両手を突き出してオネエのタックルを受け止める。
なんと、数人がかりの攻撃をたった一人で抑え込んでしまったのだ。
「フン!」
ドワ子の図太い両手が宙に振られると、オネエたちが軽々と空を舞っていく。
このデブス……強い……!
というかもう、枕投げ関係ない……!
「バカな……ッ!」
怯むヤンフェに向けてドスドスと足音を響かせながら一直線に駆けていくドワ子。
「いやあぁぁあんすッ!」
――――結局救急車を呼ぶハメになった。
今回の流血沙汰が新聞に載ってしまい、過去の事件とも合わせてアタイらラブリーガールズには無期限の活動休止処分が下った。
~fin~
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
な、なんだってえー!?
アタイの故郷のゴブリン集落が悪のギルドに襲撃された!?
こいつはマズイことになっちまったね……!
あの村と住人たちはアタイの借金のカタに入れてんだよ?
あそこを失ったらどうやって返済期間を引き延ばせば良いってのさ!
ゴブリンのみんな、どうか無事でいておくれ!
必ずアタイが救ってみせる……!
【第48話 ゴブリンガールは里帰りする!】
ぜってぇ見てくれよな!
みなさんお読みくださりありがとうございます!
ここまでで第1章「抗うモンスター」は終わります。
次回より第2章「見違える転生勇者」になります。




