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ゴブリンガールはガチャを引く!  作者: 仲良しおじさん
サイドクエスト【アイドルになる!】編
47/251

第46話 ゴブリンガールはバスツアーする!

挿絵(By みてみん)



 ドンフーとピク美が画策した次の金儲けは、アイドルと間近で触れ合えちゃう『バスツアー』ならぬ『馬車ツアー』。

 アタイらと参加者が馬車に同乗して、メンバーにゆかりの地を巡りながらお喋りやちょっとしたイベントを楽しむというものだ。


 参加費はなんと5万ゼニ。

 底辺アイドルの企画に対して随分と強気の価格設定にしたもんだよ。

 参加者ゼロもあり得るな……と覚悟を決めていたけど、意外にも当日の集合場所には10人ほどのファンの姿があった。


 そう、この世には物好きもいるもので、こんな滅茶苦茶なグループにも一定数のファンがついているのだ。

 彼らの見た目はまさにテンプレと言わんばかりのアイドルオタ風。

 チェック柄シャツの華奢メガネやTシャツの生地をはち切れんばかりに張らせている脂汗デブなどだ。


「ドワ子ちゅわ~ん……! 寸胴みたいなワガママボディたまんねぇ~!」

「目の前で見ると迫力まんてん……! ドゥフフ」

「ちょっとあんたたち! 写真撮影は事務所を通してほしいんだわさ!」


 ブスにたかるブス専たちの画。

 地獄のような構図に思わず身震いしちまうよ。


 事務所の代表という肩書のドンフーがその輪の中にズカズカと立ち入っていく。


「チェキは1枚5千ゼニ!」

「えぇ……。参加費5万も払ったのにチェキ代は別?」

「当たり前だろ! ドワ子の全身が写ってたら5千! 半身でも3千だ! ツーショットだと特別料金で1万になるからな!」

「ひええ……!?」


 この短足オヤジ……!

 今日の一日でどれだけ儲けるつもりなんだろうね?


「ゴブ子ちゃーん!」

「ゴブ子ぉ! こっち向いて!」


 油断していると別のオタクどもがわっとアタイを取り囲んでいた。


「ハアハア……! ホンモノのゴブリンガールだぁ……!?」

「んほぉ~!」


 アタイはブチ切れた。


「汚ねえ息吹きかけんじゃねえよ汚物ども! つうか呼び捨てで呼んだ奴どいつだよ! バカが!前出て来いよ前ぇ!」


「くう~w いつものキましたぞコレ!」

「もっと激しくこの汚物めを罵倒してくださいまし!」


 なんだかワケのわからない性癖の奴らに好かれちまってるようだね!?

 こんなに話が通じないことなんて滅多にないよ!

 アタイは身の危険を感じずにはいられなかった。


 ふと背後を見ると、ヤンフェも妙な男たちに囲まれている。


「ヤンフェくうん♡ アラ~! ステキ!」

「出たわね!」


 やけに屈強なガタイでクネクネと腰を揺らすオネエたち。

 だがその中心にいるヤンフェはまんざらでもない様子。

 片足を軸にクルリと一回転し、スカートをふわりとなびかせて決めポーズを取った。


「みんな! 今日は目いっぱい楽しんじゃおうでやんす☆」

「ヒューッ!」


 アイドル側もファン側もいちいち濃すぎるんだよ!

 一体なんの集まりなんだよこれは!

 こんな連中と一泊二日のツアーなんてとても身が持つとは思えないね!



 無情にもアタイたちを乗せた幌馬車は移動を始めた。


「よく来たねぇ~! 本日のツアーガイドを務めさせてもらうピク美だよ~!」


 いつにも増して厚化粧のママが荷台の中を飛び回る。


「ささやかながら軽食を用意しといたよ~! 憧れのアイドルたちとしばしのご歓談を楽しみな~!」


 中央に置かれたテーブルに酒やツマミが並べられる。

 ふうん、なかなかに豪勢じゃないのさ。

 ほろ酔い気分で推しメンと観光できるんなら5万の参加費用も高くはないかもしれないね。


 勧められるままに笑顔で飲食を始めるオタクたち。

 するとピク美がニタリと底意地の悪い笑みを見せた。


「あら? あららぁ? やっちまったねあんたたち~!」


 そう言うと懐にしまっていた料金表をヒラリと広げてオタクたちに見せつけた。


「酒は1万! ツマミは5千! きっちり払ってもらうからねえ~!」

「え! ツアー費に含まれてないの!?」

「んなこと誰が言ったんだい! せっかちな男はモテないよぉ?」


 ボッタクリかよ!

 アタイはもうこの馬車から飛び降りたくてたまらなかった。


 そうこうしていると、バーンズビーンズの街並みを周っていた馬車が歩みを止めた。


「皆さま~! あちらの建物をご覧ください。バーンズビーンズいち大きな歌謡酒場! 先日ウチのアイドルたちがデビューソングのお披露目ライブをした場所だよ~!」


 オタクたちは興奮し始めた。


「ラブリーガールズがよそのアイドルからステージを奪い取ったっていう伝説のライブ場所……! 」

「僕、実はあのとき偶然会場にいたんだ」

「すげえ! どうだった!?」

「そりゃもう最高だったよ!」


 オタクたちに促されて嬉々として語り出すオタク。


「あの日の姿は今も脳裏に焼き付いて離れないよ! 舞台上でスポットライトを浴びる3人! 汗を滴らせて一生懸命に踊る3人! そして手縄をかけられて警察に連行されていく3人……」

「………」


 シーン……。

 馬車の中はお通夜のような空気になった。


 あのときのライブのせいでアタイたち3人には前科が付いた。

 どうしてわざわざ嫌な記憶を思い起こさせるコース選びをしてんだよ!

 この冷え切った空気をどうするつもりさ!


「盛り上がってきたところで一発、王様ゲェ~ム!」


 ピク美が痛々しいほどに声を張り上げておみくじを取り出した。

 一人ずつ回って棒を引かせていく。


「棒の先が赤かったら王様だよ! 先が青かった奴になんでもひとつ願い事を命令できるよ~!」


 赤い棒を引いたのは汗まみれで服がべちょべちょに湿っている大きなデブ。

 そして青色を引いたのはなんと……。

 アタイだった(泣)


「ふえ~。小生の推しメンは圧倒的にドワ子氏なのですが~。貧相なゴブリン娘などに欲情はしない主義ですので」

「なんだとお前! ゴブ子ちゃんに向かって!」

「俺と王様代わってくれ!」


 さっきから薄々勘付いてはいたけど、アタイらのファンは推しによって方向性が違い過ぎるね。

 同じグループのファンだからといって相容れることはなさそうだよ。


 汗かきデブはやれやれとつまらなそうに言った。


「はあ~。まあせっかくですので命令はさせていただきますが~。それじゃポッキーゲームでよろしくお願いいたします」

「ポッキーゲーム……!?」


 フザけんな!

 やるワケないだろ!


「盛り上がって来たねえ~!」


 すかさずポッキーを取り出すピク美。


「ちょっと待ちなよ!」

「ガタガタ抜かすんじゃないよゴブ子! 覚悟を決めな! あんたはどんなに辛いことがあってもアイドルを目指すって誓ったんじゃないか!」

「違えよ! 借金のためにやらされてんだよ!」

「どっちでも同じだよ~!」


 両脇のドワ子とヤンフェが無言でアタイの両腕を絞め、身動きを取れなくさせる。


「悪いけど犠牲は一人で十分なんだわさ」

「悪夢は一瞬でやんすよ。ささっと済まして楽になるでやんす」

「あんたたち、メンバーを売る気かい!?」


 サノバビッチが!


 デブオタはポッキーを咥えてジリジリと近づいてくる。

 さっきは興味のないような物言いをしてたクセに、ほんのりと頬を赤らめている。

 明らかに鼻息も荒い。


「んふう! 小生のファーストキッス! ポッキーの溶けかけたチョコとさっき食べた酢イカの酸味で甘酸っぱいよぉ……///」


 奴のほてった顔が目前に迫ったとき、アタイの理性は限界に達した。

 何よりもまず先に足が出てしまった。

 勢いよく振り上げたニーキックがデブの下アゴにクリーンヒットし、骨を粉々に砕いて上体を大きく仰け反らせた。


「プギャアアアア!」


 泣き叫びながらのたうち回る汚デブ。

 プレーン味のはずのポッキーはストロベリー風味のごとく赤色に染まっていた。


「何やってんだいゴブ子! これ以上の傷害事件は活動の存続に関わるんだよ!」

「んなこより前にテメエの悪質な商法を改めろやクソババア!」


 騒然とする荷馬車の上。

 だがその中で一部の男たちは違う毛色の昂ぶりを示していた。


「ゴブ子ちゃんの膝蹴り……! うらやましい!」

「僕もアゴ骨を砕いてほしいよお! ハアハア!」


 ――――地獄の馬車ツアーはまだ始まったばかり。




 つ・づ・く


★★★★★★★★


 次回予告!


 みんな~!

 ツアーを楽しんでくれてるかな!?

 ファンのみんなと仲良くなれてとーっても楽しかったよ!

 プログラムも終盤に差し掛かり、馬車は薄汚れた民宿に到着!

 お待ちかね、ラブリーガールズの単独ミニライブが始まるぞ~!

 キュートでラブリーなステージに思わずキュンキュン!

 お見逃しなく!☆


【第47話 ゴブリンガールは枕投げする!】

 キュンキュン! ピュアドリーム☆ミ



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― 新着の感想 ―
[良い点] 地獄の馬車ツアー、ファンたちが濃すぎて面白かったです。まさに地獄絵図。ほかの作品では到底見られない光景でとても楽しかったです。まさかヤンフェにまで、そういうファンがつくとは。 [一言] ま…
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