第45話 ゴブリンガールはSNSする!
衝撃の逮捕騒動を起こしてから一週間。
当然ながら『ピュアキュン☆ラブリーガールズ』に仕事の依頼は一軒も来ない。
アタイとドワ子とヤンフェの3人は今日も朝からスナック・ピク美でヤケ酒だ。
「まったく、前科持ちのアイドルなんて前代未聞だよ~! 本当にあんたたちは笑わせてくれるねぇ~!」
ピク美ママがニタニタしながらコバエのごとく周囲を飛び回る。
「なに他人事みたいに笑ってんだよ! こんなことになったのもママがけしかけたせいだろうが!」
先の一件のせいでアタイらには厳重注意令が出され、ライブ会場やそれに準ずる施設への立ち入りを禁止されてしまった。
これじゃあ実質アイドルも廃業だよ!
「そうとも限らないよ~!」
「なんだって? ライブなしでできるアイドル活動があるのかい?」
「もちろん、いくらでもやりようはあるよ! あんたたち、SNSって聞いたことあるかい?」
「SNS? 初耳だわさ」
「ソーシャル・ネットワーキング・サービスの略称だよ~」
ピク美いわく、情報発信ツールの一種で自分たちの活動を効果的に宣伝できるらしい。
なんだかよくわからないけど便利そうだね!
「その発信ツールっていうのはどこにあるんだわさ!」
「ふふふ……。そう慌てなさんな。誰もが良く知ってる『掲示板』のことだよ」
「掲示板? それは何かの隠語か?」
「いいや。そのままの意味だよ。街の入り口にクエストボードと一緒に立ってる看板があるだろ? そこに張り紙を出しておけば通りがかりの人たちに読んでもらえるってだけだよ」
んだよ!
掲示板そのもののことかよ!
SNSなんて大層な言葉で飾り付けやがって!
だがしかし、この案は悪くないかもしれないねえ。
バーンズビーンズはここらじゃ一番大きな歓楽街だ。
昼も夜もたくさんの人たちが出入りするから拡散率も高いだろう。
チラシを読んでもらって損をすることもない。
「そうと決まればさっそくチラシ作りだよ!」
アタイたちはまず3人でポーズを決めて自撮り画像を撮影する。
それを画用紙の中央に張り付け、あとは鉛筆やクレヨンを持ち寄って思い思いに周りをデコる。
【私たち、美少女3人組ユニット! ラブリーガールズ!】
【元気ハツラツ! 資金はカツカツ!】
【ファンレターや支援金を大募集! 現ナマを送って私たちを笑顔にしちゃお!?】
「ちょっとゴブ子~! そのアオリ秀逸~!」
「ってゆうか私らの自撮りキマりすぎ~☆ これ見てオチない男いないっしょ?」
「カワイさエグりまくりんぐ」
和気あいあいとチラシ作りに没頭するアタイたち。
完成するとその足で街の掲示板まで出かけて行った。
バーンズビーンズの歓楽区への出入り口。
大きな十字路は動線の要であり、人通りは十分すぎるほど多い。
たしかにここにチラシを掲示すれば瞬く間に情報が広がりそうだよ!
街の人気者になるのもそう時間は掛からないだろうね!
アタイたちはSNS用のボードにチラシをくくり付ける。
チラシの下部は返信用の空白スペースを作っている。
誰でも自由にコメントを書き込むことができる仕様だ。
これでアタイらの宣伝に対するリアクションを確認できるってワケさ。
さあ、どんな返事が来るか楽しみで仕方ないね!
~翌日~
早朝、アタイらは待ち合わせ場所で合流し、いの一番に掲示板へと駆けだした。
街のみんなは一体どんなコメントを残してくれたんだろう?
フォロー申請が一気に100件も来ちゃってたりして……。
なぁーんてね。それは期待しすぎカナ!?
SNSボードの前に到着し、さっそくチラシを覗き込む。
予想通り、コメント欄はたくさんの文字で埋められていた!
大反響じゃないのさ!
「やったね!」
アタイらは嬉しさ余ってひとしきり飛び跳ねる。
そして落ち着きを取り戻し、さっそくコメントを読み上げてみることにした。
【ブスすぎて草】
【これでアイドルw 正気の沙汰じゃない】
【野郎が混じってね?】
【見世物小屋定期】
……なんだいなんだい?
なんなんだよこれは!?
これじゃあまるで……誹謗中傷じゃないか!
アタイたちは言葉を失ってボードの前に立ち尽くす。
惨めさで震える指。
必至に堪えようと拳に力を込めてみるけど、悔しさは次から次にあふれ出す。
とうとうドワ子が嗚咽を上げ始めてしまった。
「ううぅ……! アタチたちが何したっていうんだわさ……!」
ヤンフェが下唇を噛み締めて視線を伏せる。
これが匿名掲示板ってやつの恐ろしさかい。
自分に都合の良いときだけ声を大きくして、悪意や心無い言葉で人を痛めつける。
悔しいね――――。
アイドルを目指すっていうのがこんなに過酷なことだなんて。
だけど、苦しいからって立ち止っていいの?
ラブリーガールズはこれまでなりふり構わず突っ走って来たじゃない。
そして、それができたのは仲間たちのおかげ。
かけがえのないメンバーとの絆があれば、どんな困難も乗り越えられるはずだよね……?
アタイはそっと二人の肩に手を置いた。
「やり返そう」
「えっ……?」
「こいつら全員特定して、ブッ殺そう」
「ゴブ子……!」
アタイの真っ直ぐな瞳を見て2人も覚悟を決めたようだった。
アタイたちはゆっくりと、そして深く頷き合う。
「うん……! 殺ろう!」
匿名だと高をくくって好き放題に書き殴ってくれたクズ野郎ども。
このラブリーガールを敵に回したことを後悔させてやるよ。
あんたたちはその血をもって代償を払う義務があるね……!
アタイたちはこん棒を片手に近くの茂みに身を隠して、ただひたすらに掲示板を見張り続けた。
喉が渇いても、腹が減っても、じっと耐えて様子を伺い続ける。
小雨が降って体を濡らし、ひどい寒気にも襲われたが、それでも心の底に滾る執念の炎が風化することはなかった。
――――どれだけ時間が経ったのだろう。
日が沈み、そして再び昇り始めた頃。
どこからともなく酔っ払いの二人組が現れた。
どうやら近くの酒場で夜通し酒を飲んだのだろう。
彼らは千鳥足で掲示板に近づき、手を付いて一休みを始めた。
そこでアタイらのチラシに気付き、指をさして大笑いを始めた。
「ブッ! こんなんコミュ抜けるわ!」
ひとしきり笑った後で、彼らは持っていたペンでいたずら書きを始めた。
アタイらの顔写真に鼻毛を書き足して遊んでいるようだ。
「これでちったあマシになったろw」
「実際この顔面じゃどれだけ厚く化粧を塗っても無駄だろうけどなw」
「――――今なんつった?」
アタイらは茂みから立ち上がり、こん棒で素振りをしながら男たちに近づく。
彼らは予期せぬ背後からの声に驚いて飛び上がった。
「だ、誰だ!? お前らいつの間に……!?」
「なんつったって聞いてんだよ」
「!? こ、このブストリオ……。チラシに載ってるのと同じ顔……!?」
男たちが発した言葉はそれが最後だった。
――――すべてが終わった後、その場にはピクリとも動かない二つの体と血だまりだけが残っていたという。
~fin~
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
ファンの熱い要望に応えてバスツアーならぬ馬車ツアーを開催しちゃうよ!
私たちと街を巡りながら一緒に盛り上がっちゃおう☆
聖地巡礼やミニライブに、王様ゲームまで!?
いろんなイベントがてんこ盛り!
生のラブリーガールズに急接近するチャンスだゾ……!?
【第46話 ゴブリンガールはバスツアーする!】
キュンキュン! ピュアドリーム☆ミ




