第44話 ゴブリンガールはライブする!
人気沸騰のアイドルグループが今まさにライブ中の歌謡酒場。
その壇上に突如乱入した覆面姿のアタイたち。
場は騒然となった。
「なんだお前たちは!」
「今はライブの真っ最中だぞ!」」
「さっさとそこから降りやがれ!」
観客たちに非難の声を浴びせられるが、今さらそんなものに動じるアタイたちじゃない。
「お遊戯会は終わりだわさ! このステージはアタチたちが占拠した! 死にたくなければこのままタテノリを続けるんだわさ!」
そこで同じ壇上にいたアイドルグループの女の子がツカツカと歩み寄った。
おそらくリーダーなのだろう。
恐怖に怯えながらも毅然とした態度でドワ子の前に立つ。
「アイドル界にだってマナーはあるわ。こんな方法でステージを横取りして何になるの? スポットライトを浴びたいんなら、歌と踊りで私たちと正々堂々勝負しましょう!」
まだ年端も行かぬ少女だが、なんと肝の据わっていることか。
客席のオタクたちも彼女に向けて賞賛と応援の拍手を送る。
「黙りなァ!」
非情にもその子にドワ子の腹パンがお見舞いされた。
ドゴッ!
「うぐっ……!?」
崩れ落ちる女の子。
それを見下ろしながらドワ子は吐き捨てるように言う。
「顔が良いだけのクソガキが! アタチたちの苦労を知らずにぬけぬけと言ってくれる! 正攻法で勝ち目がないんだから、悪魔に魂でもなんでも売ってやるんだわさ!」
さすがはアタイらのセンターを張る女!
すがすがしいほどのクズだよ!
「何してんだお前エー!」
「引きずり降ろして殺せーっ!」
何人かのキレたオタクが壇上に駆け上がってきた。
そこですかさずヤンフェが動く。
先ほど倒れたままのリーダーの子の頭を掴み、首元に斧の刃を突きつけたのだ。
「動くな! 動くとほとばしる鮮血がこのステージを桃色に染め上げちまうでやんすよ!」
人質を取られたとあって、さすがにオタクたちも身動きが取れない。
「クソ……! 一体何が望みなんだ!?」
「んなこと決まってんだろう! あんたたちを胸キュンさせて恋のラビリンスにいざなってやるんだよ!」
アタイらは満を持して覆面をはぎ取って投げ捨てた。
「だって私たち! そう! ピュアキュン☆ラブリーガールズだもん!」
ガクンと照明が落ち、一瞬の静寂が会場を包む。
だがそれも束の間、七色のスポットライトが闇に走ってステージを照らす!
回るミラーボールが光を散りばめ、ペンライトの灯火が揺れる!
音響から流れ出すポップなサウンド!
そう、ここはすでに私たちの独壇場 (オンリーワン・ステージ) なのよ!
「それでは聞いてください! デビュー曲『マジ☆カル 恋の黒魔術』!」
ドワ子をセンターに据えて配置に付く3人。
それぞれに目配せをして頷き合う。
きっと大丈夫。
だって私たち、辛いことも一緒に乗り越えてきたんだもんね!
こんなにたくさんのお客さんが目の前にいる。
私たちの歌を待ってる!
さあ、最高のショーを始めよう――――!
前奏が進み、いよいよ曲はAメロにさしかかる。
私たちは完璧なタイミングで口を開いた。
『初めて出会ったあの日から もう何度目の通報かしら――――♪』
滑るように重なり合うハーモニー。
溢れるこの感情を乗せて。
『シャイなあなたの姿追い 今日も尾行がはかどるわ――――♪』
声だけじゃなく体全体を使って情熱を表現する。
小気味良いステップ。ピタリとハマるユニゾン。
私たちは3人でひとつになった。
『DOKI DOKI 恋はマジ☆カル』
『UKI UKI ラブがあふ☆れる』
サキュバス嬢から教わった振り付けは完全に習得されていた。
魔界ではこの舞踊は呪術の一種として扱われるらしい。
見たものを虜にし、恍惚の境地に陥れてしまうという魔法だ。
その効果は踊り手の容姿の美しさに比例して強まるとされる。
だが、アタイたちは知らなかった。
踊り手の姿が極端に醜い場合、逆に見た者はひどい副作用に蝕まれてしまうということを……!
「オエーッ!」
観客席で突如上がる苦悶の叫び。
一人、また一人とその場に胃の中身をまき散らしていく。
私たちの歌と踊りによる妖術(呪い)ともらいゲロは次々と波及していき、瞬く間に会場全体を阿鼻叫喚の地獄絵図に様変わりさせてしまった。
悪臭と死臭にまみれながら、それでもなお私たちは歌うことを止めない。
だって止まってしまったら、諦めてしまったら、もうそこから先には進めない気がして。
私たちはアイドル。
こんなハプニングになんか負けるもんかっ!☆
「やめてくれぇ!」
「お願いだからもう許してえ!」
涙と吐しゃ物でグシャグシャに汚れ、ゾンビのようにステージに這い上がってくるオタクたち。
それらを蹴り飛ばしながら私たちはフィナーレへ向かって突き進んでいく。
『――――法では罪を裁けない♪』
そして、ついに最後の一節を歌いきった。
余韻を残しつつ演奏が止まり、スポットライトの光が消える。
全身全霊を懸けたパフォーマンスが今終わりを迎えたのだ。
やったね――――。
私たち、やりきったんだね――――。
思わず舞台の上で固く抱きしめ合う3人。
デビューソングのお披露目ライブ、大大大成功だねっ!
酒場の外は無数の警官たちに取り囲まれていた。
アタイらは捕まって連行された。
前科持ちアイドル爆誕!?
ってなんでやねん――――☆
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
前科を作ったことでライブ施設への立ち入りを制限されたラブリーガールズ!
このままじゃアイドル廃業の危機だよぉ!?
でも大丈夫!
SNSを使えばどこにいたって私たちの情報を発信できちゃうんだもん☆
コツコツとアピールを続けて新たなファン獲得のチャンス!
みんな、どしどしフォローしてよね!
【第45話 ゴブリンガールはSNSする!】
キュンキュン! ピュアドリーム☆ミ




