第43話 ゴブリンガールは新メンバーを迎える!
衝撃のデビューから一週間。
当然のことだが『ピュアキュン☆ラブリーガールズ』の元には一件も仕事が来ない。
だがそれはあくまでアイドル業としての話だ。
プロレスの前座試合の依頼なら数件は来たそうだ。
全部断ったらしいけどね……。
「アタチはレスラーでも芸人でもないんだわさ! 失礼しちゃうんだわさ!」
ドワ子は朝っぱらからスナック・ピク美に入り浸ってヤケ酒だ。
この醜態でアイドルってんだから笑わせてくれるよ。
この短足デブス女はなぜ自分の容姿にそこまで自信を持てるのだろう。
鏡が歪んでるのか両目が腐ってるか、はたまた頭がイカれてるのか。
もしくはその全部だろうね。
入り口の扉が勢いよく開き、意気揚々とドンフーが現れた。
「ようお前たち! 待たせたな! アイドル活動に大きな進展だぞ!」
「ホント!? おじたん!」
「もちろんだ! 良いニュースが3つも4つもあるぞ! どれから聞きたい?」
ケッ。
悪いニュースの間違いだろ。
「まず一つ目は、ジャジャン! 新メンバーの加入だ!」
「新メンバー? この前デビューしたばかりだってのに節操がないね」
それにしても、こんなグループに入ろうだなんてよほどの物好きな女に違いない。
ドワ子がジトッとした目でアタイを一瞥し、これ見よがしにため息を吐いた。
「次の子は誰かさんと違ってアタチの足を引っ張らないでくれるといいんだけどな~」
「ああ? なんか言ったかい!?」
「美少女グループとして売り出す手前、これ以上コンセプトにズレを作りたくないんだわさ!」
「そのコンセプト自体が出だしから破綻してんだよ!」
今にも取っ組み合いを始めそうなアタイらをドンフーが怒鳴り声で制止する。
「黙れ黙れ! そんなんじゃ新入りが怯えちまうだろ! 同じ仲間なんだから仲良くしねえといけねえな!」
ドンフーはアタイらをひと睨みして咳払いをすると、入り口に振り向いて新メンバーを手招きした。
「さあ入ってくれ! 『ピュアキュン☆ラブリーガールズ』へようこそだ!」
現れたのはドワ子と真逆ですらっとしたスレンダー体型の子。
アタイらと揃いのフリフリドレスに身を包み、そこから細長い手足が伸びている。
特に目をつくのは気品高く尖った耳の先。
ドワーフ、ゴブリンに続き、3人目はエルフらしいね!
ただし、その人物の身体的特徴は他にもあった。
醜くつり上がった目と異様に突き出した出っ歯!
低い鼻と神経質そうに骨ばったアゴ先!
その憎々しい造形には見覚えがあった――――!
「あっしでやんすよ!」
ヤンフェじゃねえかよ!
厚化粧を塗りたくったヤンフェはスカートを捲し上げ、ウヘヘと笑いながら店の中に入ってくる。
「もうおわかりの通り、あっしも借金返済のために強制された次第でやんす。これから世話になりやすぜ。うへへ……」
「ちょっと待ちな! アイドルやらせる容姿かどうかで議論の余地はあるが、それより前にこいつは男じゃないか!」
「そうだが?」
「そうだがじゃないだろ!」
ドンフーは腕を組んでやれやれとため息をつく。
「わかっちゃいねえな。今やアイドルグループは星の数ほどいる。ライバルと渡り合うためにはインパクトが必要不可欠。だから人間族以外の種族混成グループを作ったんだろ?」
「だからって種族だけじゃなく性別の垣根まで超えることはないだろ!」
「いいや、あるな」
沸いてんじゃねえのか?
前々から疑ってはいたが、今やっと確信に変わったよ!
「顔合わせはもういいな? じゃあ次のニュースに進むぞ! ママ、頼む」
「はいよぉ~!」
ピクシーのピク美ママが羽をはばたかせてヒラリと飛んでくる。
そしてアタイらに順に紙切れを渡していった。
「なんだいこれは?」
「待望のデビューシングルだよ~! あんたたちのためにドンフーが曲を書き、それに私が詞を乗せてやったんだ。最高の仕上がりになってるからね。感謝しなぁ~!」
この二人が作詞作曲かよ。
もう嫌な予感しかしないんだよ。
アタイはゴクリと唾を飲み、勇気を出して紙切れに目を通す。
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『マジ☆カル 恋の黒魔術』
作詞:ピク美
作曲:ドンフー
唄 :ピュアキュン☆ラブリーガールズ
初めて出会ったあの日から もう何度目の通報かしら
シャイなあなたの姿追い 今日も尾行がはかどるわ
合わせ鏡で呼び出すの 恋のキューピッド
成就のためよ 多少の犠牲はいとわない
錬金るつぼで練り込むの 愛のチョコレート
二人のためよ 多少の生贄しかたない
DOKI DOKI 恋はマジ☆カル (マジカル!)
そこにいるのは知ってるゾ
UKI UKI ラブがあふ☆れる (あふれる!)
追尾魔法はかわせない
(良い感じのギターソロ)
HARI KIRI 恋はフィジ☆カル (フィジカル!)
抵抗するなら締め上げろ
SHAKA RIKI だってアイ☆ドル (アイドル!)
法では罪を裁けない
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ッ…………!
ひでえ……!
「本気でこれを歌わせるつもりかい……!?」
「どうした? 感動で声が震えちまってるぞ?」
違う理由で震えてんだよ……!
「……ひとまず歌は置いといて、これに併せるダンスの方はどうするんでやんすか?」
「安心しなぁ~! それについても手を打ってあるよ!」
ピク美に続いてアタイらの前に現れたのはサキュバス嬢のフミエとキミヨ。
「ハーイ! ワタシたちダンス教えるヨ!」
「あんたたちが? 踊れるのかい?」
「サキュバスの伝統舞踊、とってもセクシー! 客トリコにしてライバルに差をつけちゃえヨ!」
「サキュバスの踊りは一種の妖術でもある。完璧にコピーすれば術の相乗効果を見込めるよぉ~!」
それはズルにならないのか?
まあズルでもしないとこのメンツで成り上がるのは万が一にも不可能だろうけどね。
「メンバー、新曲、そして振り付け師! アイドルに必須の三拍子は揃ったワケだ! あとはこれらをモノにするだけ! ということでこれから強化合宿を執り行う!」
「強化合宿……!?」
「悪いが俺たちはスパルタだぜ」
「生半可な覚悟じゃついて来れないよ~! 本気でアイドルを目指す気概はあるんだろうねぇ?」
ねえよ!
借金返済のためにやらされてんだよ!
――――それからアタイたち3人の地獄のトレーニングが始まった。
鬼コーチことドンフーの指導の元、ピク美ママの発声練習にサキュバス嬢たちの振り付け訓練。
朝から晩まで文字通り血の滲む特訓に励む日々。
何度も挫けそうになった。
何度も涙を流した。
でもその度に仲間の励ましと度数の高い酒が弱った心を支えてくれた。
~~~
数日後。
訓練を終えて一回り大きくなったアタイたちがそこにいた。
土色のガサガサ肌に限界までこけた頬。
据わった瞳に宿る輝きは紛れもなく死地を乗り越えたアイドルのものだった――――。
「よくやった。もう何も言うことはない」
ドンフーの目は心なしか潤んでいた。
彼は無言でアタイたちをとある酒場の前まで連れていく。
そこは歓楽の街で知られるバーンズビーンズで一番大きな歌謡酒場だった。
「ここは旬のアーティストを呼んでライブショーをやらせる店だ。アイドルを目指す若者にとっちゃ憧れの舞台だよ。ラブリーガールズ。お前たちはここで歌うだけの実力がある。さあ、行ってこい」
「コーチ……!」
訓練を終えたアタイらへのサプライズプレゼントに、こんなに豪華なステージを用意してくれていたなんて……!
「コーチ、ありがとうございます……!」
「馬鹿野郎。感謝の言葉は俺じゃなくファンへ向けて言うもんだぜ」
アタイたち、必ずコーチの期待に応えて見せますから!
「それで、アタイらのステージは何時からです?」
「あん? 尺なんか取ってねえよ。取れるはずねえだろ無名グループに」
「えっ? じゃあ……」
「夢ってのは自分で掴み取るもんだろォ!」
そう言うとドンフーはアタイたちそれぞれに斧を手渡した。
――――酒場のステージでは話題沸騰中の人気グループがライブショーの真っ最中だった。
薄暗い店内にミラーボールが回り、観客たちは一心不乱にタテノリに興じている。
その中をアタイたち3人は駆け抜けていく。
覆面を被り、荒々しく手斧を振り回しながら……!
「オラオラァ! 静かにしなっ! 痛い目を見たくなければね!」
「な、なんだお前たちは!?」
「アタイらの名前はラブリーガールズ! この会場を占拠する!」
血みどろのステージライブが、今始まる……!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
斧を片手に他のアイドルのライブへと乱入したラブリーガールズ!
女の子たちを蹴散らし、オタクどもにはタテノリを強要する!
……こんな方法、間違ってるってわかってる!
だけど止まることなんてできないよ!
自分の気持ちにウソはつけない……、それがアイドルでしょ?
だから聞いてください。
デビューシングル、『マジ☆カル 恋の黒魔術』――――!
【第44話 ゴブリンガールはライブする!】
キュンキュン! ピュアドリーム☆ミ




