第42話 ゴブリンガールはデビューする!
「クソッたれがーッ!」
ドワ子とお揃いのフリフリドレスを着せられて、アタイは舞台袖で荒れに荒れていた。
ここは地下アイドルの聖地と呼ばれるライブ会場とのことだが、それは名前のみのお粗末なものらしい。
地下施設の大広間には中央にプロレスリングが設置され、それをグルリと取り囲むように観客席が設けられている。
過去に賭博場として使われてたときの名残がバリバリ残ってんじゃないのさ!
照明に照らされるリングの上には着飾った女の子たちが並び、音響に合わせて元気にダンスを披露している。
「ウオオーッ!」
「カワイーッ!」
「こっち向いて―!」
観客席のオタクどもは総立ちになってアツい声援を投げかけている。
気色の悪い熱気でむせ返りそうだよ!
「ここはいわば無名アイドルの登竜門。毎日何組ものグループが分刻みの出演スケジュールを取り合ってステージを披露する。ひと枠分を確保するだけでも骨が折れたぜ」
「この舞台に上がれるなんて夢みたい! ドンフーおじたんのおかげだわさ!」
「ガハハ! 可愛い姪っ子のためならこのくらいなんのその!」
ドンフーは緩みきった顔で豪快に笑ったあと、一転して般若の形相を作りアタイに凄む。
「いいか? もしドワ子のデビューライブを失敗させてみろ。タダじゃあ済まねえと思え」
「……ハイ」
リング上の女の子たちがポップソングを歌い終わり、ニコニコと手を振りながら退場した。
そこに滑り込むようにして司会者の声が響く。
「さあさあ! それでは本日の演目の最後を飾るのは! なんと今日が記念すべきグループ結成日にして初出演! ホットでキュートな『ピュアキュン☆ラブリーガールズ』の登場だあ!」
「ウオオーッ!」
アタイらがトリかよ!
観客席の盛り上がりは最高潮だ。
誰が出てくるとも知らないクセに、ノリで手拍子までしはじめる始末。
ハードルがブチ上がってんじゃないか!
「お前たち、頑張ってこい!」
「笑顔を忘れるな!」
ドンフーとジョニーに背中を押し出され、アタイとドワ子はリングの上によじ登る。
スポットライトの強烈な光線で目が焼き付けられそうだね。
大衆の注目の中で露わになるチンチクリンなドワーフとゴブリンの二人組。
予期せぬビジュアルに皆が意表を突かれたことだろう。
大歓声は徐々にどよめきへと声色を変えていった。
「えっ……?」
「ドワーフとゴブリンだぜ……。あれがアイドル……?」
司会者の男も前もって知らされていなかったらしい。
引きつった笑顔を張り付けて無理矢理にハイテンションを作り出そうとしている。
「……ざ、斬新な二人組ユニットの登場だ~! それではお名前を教えてくれるかな~!」
「ハイ! アタチはドワ子! こっちはゴブ子! 二人合わせて、キュンキュン! ピュアドリーム☆ミ」
ドワ子は胸元に持ち上げた両手でハートマークを形作り、決めポーズらしきものを取る。
静まり返った大観客を前にしてよくも心が折れないもんだね。
どうやらドワーフの神経ってのは腹回りに引けを取らない図太さらしい。
ドワ子はポーズを崩さないままアタイに向けてバシバシとアイコンタクトを送る。
お前も合わせろとでも言いたいらしい。
勘弁してくれよ……。
「……ドリーム」
目線を伏せながらボソリと呟いたアタイ。
ドワ子はそんなアタイの足を思いきり踏んづけた。
ズンッ!
「ぐおっ! この……!?」
何本か折れたねこれは!
「ドリームガールズのお二人、今日はデビュー曲のお披露目をしてくれるのかな!?」
「いいえ! 曲はまだないんだわさ!」
「えっ?」
「誰か楽曲を提供してほしいんだわさ! そしたらアタチたちが歌ってやるんだわさ!」
「そ、そうなんだ~……! じゃあ……。今後はどんな活動をしていくのかな~!?」
「仕事もまだないんだわさ! 誰か依頼してくれたら喜んで出演してやるんだわさ!」
「え~と……」
デビューとのたまいながらノープランで来たのかよ!
自分たちから売り込むんならともかく、なんで待ちの姿勢なんだい!
その強気はどっから湧いてくるんだよ!
司会の男も災難だろう。
冷や汗を流してなんとかトークを終わらせようと思考を巡らせている。
頑張れ。頑張って早くアタイを解放させておくれ……。
「きょ、今日はどうもありがとう~! ステキな初ライブだったね~! それでは最後に、キミたちのグループの強みを教えてくれるかな~!?」
「もちろん、このアタチの美貌なんだわさ!」
言ったよ。
お前客のリアクションとか一切見ないのかよ。
イカれてんだろこの女。
「ひっこめブース!」
客席のどこかでヤジが上がり、それを皮切りにそこかしこでブーイングが飛び交い始めた。
「ブース! ブース! ブース!」
地獄のブスコール。
自業自得だとは思うが、初舞台でこれはさすがに気の毒だよ。
さぞかし落ち込むことだろうね。
アタイはそっとブスの肩に手を置いて退場を促した。
「もう帰ろうぜブス……」
――――しかし、そこで予想外のことが起きた。
ドワ子はアタイの手を振りほどくと、観客に向けて引くほどパワフルな怒号を返したのだ。
「んだテメエェェ! 文句あんなら上がって来いよオラアァァ!」
これはマズイ……!
怒りのあまり目がイってんだよ!
落ち着かせないと収拾がつかなくなっちまうね!
「もうやめなドワ子! 死人を出す前にね!」
「アァ!? 元はと言えば全部あんたのせいなんだわさ!」
「はあ? なんでアタイが?」
「あんたがあまりにもアタチに釣り合わないブスだから、観客の不満が爆発しちゃったんだわさ! アタチの晴れ舞台をどうしてくれんだわさ!」
「オイオイ違えよ! ブスはてめーだよ!」
ドワ子が怒りのままにアタイのおさげを掴み、グイグイと引っ張り出した。
その痛みに抵抗しようと、アタイも思わずドワ子の団子髪に掴みかかる。
「謝れぇー! アタチに謝れぇー!」
「謝ってほしいのはこっちだってんだよデブスゥ!」
特設リングの上で壮絶なキャットファイトが始まる!
観客たちのブスコールもバトルを煽り立てる歓呼の声援へと変わった!
「いいぞー! やれー!」
「ドワーフが勝つに1万!」
「なら俺はゴブリンに2万だ!」
束の間、ライブ会場はかつての賭博場としての姿を取り戻したようだった。
奇しくもこの日の演目の中で一番の盛り上がりを見せたのはアタイたちのステージだったという。
こうして『ピュアキュン☆ラブリーガールズ』は波乱のデビューを果たし、当初の方向性とは違う層の固定ファンを獲得したのだった――――。
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
デビューしたばかりだってのに、いきなり新メンバーの加入だって?
ゴブリンとドワーフに続き、一体どんな子が入ってくるんだろうね。
誰だとしても気の毒で仕方がないよ!
そしてドンフーやピク美のもとでスパルタ強化合宿が始まる!
果たしてアタイらはいっぱしのアイドルグループになれるのか!?
【第43話 ゴブリンガールは新メンバーを迎える!】
キュンキュン! ピュアドリーム☆ミ




