第37話 ゴブリンガールは霧に迷う!
~ホバロマ水源の泉(探索推奨レベル32)~
アタイらは水の妖精に勧められるがまま、水辺のほとりに腰かけて木の実と茶を振舞われた。
妖精はシクシクと泣きながら自分の身に起きた不幸について語る。
「私は泉の精ウンディーネ。この場所に棲みついて何世紀にもなります。ずっと平和に暮らしていたのだけれど、最近大変なことが起きてしまって……」
「一体何がどうしたってんだい?」
言いながら、遠慮なく木の実をムシャムシャして茶をゴクリと飲み干す。
「ン!? ちょっと待てコレおいしいねえ!」
「私の淹れたお手製のお茶なんですよ。お気に召しました?」
「こんなに美味いなら下に敷くタライを持ってくりゃ良かったぜ!」
「そんな貧乏くさいことしなくても、いくらでもおかわりを飲んでってくださいな」
「そんじゃお言葉に甘えて!」
なんだいなんだい。
見た目が良いだけのいけ好かない女かと思ったけど、案外良い奴じゃないのさ。
料理の腕も立つし気遣いもできるときた。
人気のない藪の奥に住まわせとくにはもったい女だよ。
それと対照にミクノはさっきからスンと澄まして、目の前のものにも一切手を付けようとしない。
「せっかく出されてんだからあんたも飲みな」
「あいにく喉は乾いておりませんので。それより話を進めてください」
ったく不愛想な女だね!
もてなし甲斐のない奴だよ!
「……どこからともなく凶暴な魔獣が現れ、ここを少し下った湿地に居つくようになってしまったのです。湧き水をたらふく飲んで、汚物でけがし、もうめちゃくちゃ。私の言葉も聞き入れてくれず途方に暮れていたんです」
「なるほどね。下流の村に水が行き届かなくなったのもそいつのせいらしい」
要はその魔獣を退治すりゃ一件落着ってことだろ?
シンプルでわかりやすいじゃないのさ。
「おーし! それならアタイたちが(主にミクノが)倒してきてやるよ! 水の精は安心してここで待ってな!」
善は急げってことわざもある。
さっさと敵を倒してクエストを終えて、バーンズビーンズに戻ったらドンフーの野郎をショベルカーで圧死させてやるんだからね。
グズグズなんかしてられないよ。
笑顔に戻ったウンディーネに見送られてアタイら3人は再び藪の中を進む。
しばらく歩くと視界が開けて広い湿地に出た。
ただし、今度は濃い霧のせいで遠くまでを見渡すことができない。
ここが件の魔獣の住みかだろう。
いかにも何かが飛び出してきそうな雰囲気だよ。
「妙ですね……」
「どうしたミクノ?」
「進むたびに妖気が薄まっていくようです」
「でもウンディーネの言ってた魔獣はこの近くにいるはずだぜ」
「……この先は二手に分かれて探索いたしましょう。そちらの方が効率が良いですし、個人的に確かめたいことがありますので」
ミクノの愚かな提案にアタイは猛反発する。
「バカ言ってんじゃないよ! あんたは一人でも問題ないだろうけど、アタイらの方が魔獣と出くわしたらどうすんのさ!?」
「相手との力量差をはかり、敵わない場合はお逃げなさい」
「バカが! 逃げるに決まってんだろ! 逃げ切れなかった時の話をしてんだよ!」
「河童のおなごよ。あなたはもう少し自分に尊厳というものをお持ちなさい」
ミクノはスタスタと歩き出し、あっという間に霧の中に消えてしまった。
協調性のカケラもない奴だね!
あいつ団体行動中にあえて孤立して、かつその状況を鼻で笑うようなタイプだろ!
アタイはああいう女が一番嫌いなんだよ!
「大体妖気が薄まるって謎発言はなんなんだい! エスパー気取りか?」
ここはあいつの故郷の陰鬱で排他的な島国とは違うんだよ!
ネクラ民族お得意の空気の探り合いが通用すると思うんじゃないよ!
取り残されたアタイとジョニーは急に心細さがMAXになり、濃霧の中をビクビクしながら歩く。
「どうかお願い、何も出てきませんよーに……!」
「やめろよ。フラグ立てんじゃねえよ」
「そういうあんたの発言こそフラグなんだよ」
「その言葉がすでにフラグだぜ」
ああもう、うっとうしいね!
フラグを避けようとすればするだけフラグにぶち当たるとはどういうことだい!?
痺れを切らしたアタイは霧に向けて大声を上げる!
「おいこら魔獣! どうせいるんだろ!? 全部わかってんだよ! 自分からフラグ回収してやったんだからさっさと姿を見せなあっ!」
――――予想通り、辺りに響き渡る重低音のうめき声。
ノシノシとぬかるみを振動させながら現れたのは、世にも醜い巨大ガマガエルの魔獣!
~ネクロエイトグ(討伐推奨レベル17)~
湿地に棲みつくカエルの魔獣。
細長く俊敏に動く舌を持ち、飲み込んだ餌に応じて一時的に能力が上昇する。
出たよ(泣)
「逃げろォ!」
アタイとジョニーは一目散に駆け出す!
だがネクロエイトグの伸縮自在の舌からは簡単に逃げられない!
シュバッ!
伸びた舌がジョニーの右足に絡みつき、難なく宙に釣り上げられてしまった!
「こんな骨なんか食べてもおいしくねえぞおー!」
「ジョニー!」
「くそっ! こうなったら奥の手だ!」
ジョニーは両手で自分の大腿骨を掴むと、ゴキリと勢いよくひねった。
骨と骨は関節で外れ、ジョニーの体は湿地に落下する。
一方で舌が巻き付いたままの右足はカエルの口元に引き寄せられ、バクンと一飲みにされてしまった。
「ふう、さながらトカゲの尻尾だな。これぞスケルトン流の脱出術だぜ!」
したり顔のジョニーだったが、間髪入れずに再びネクロエイトグの舌が伸びる。
それは今度はジョニーの左腕に巻き付いた。
「なんのッ!」
ゴキッ!
またもや関節を外して難を逃れるジョニー!
「いいぞジョニー! 負けてないよ!」
「へへん! 俺にお前の攻撃は効かないぜ!」
厳密には効いてるけどね!
体欠損しまくってるけどね!
その後もジョニーとカエルの攻防戦は続いた。
シュバッ! ゴキッ! シュバッ! ゴキッ!
そして――――。
頭だけになったジョニーが泥の上で泣き声を上げる。
「もう外せる関節がなくなっちまったよォ!」
……そのアゴ骨も外して少し黙ってくれないかな?
「グオオオオオ!」
迫るネクロエイトグの巨体!
さあ、いよいよ絶対絶命タイム到来だよ!
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
こんなブサイクカエルに食べられて土に還るなんて御免だよ!
もうアタイはお家に帰る!
でも泣き言を言ってても状況を変えることはできない!
冷静になって頭を切り替えるんだよ!
なんてダジャレに夢中になって、我に返るともう逃げ道がない!
ヒンシュクを買えるだけ買っちまったようだねえ!
なんつって、バカウケ!
【第38話 ゴブリンガールは沼にはまる!】
ぜってぇ見てくれよな!




