第32話 ゴブリンガールは勇者狩りに遭う!
勇者狩りギルド『ハイベンジャーズ』。
レベルアップとスキル育成に行き詰まり、正攻法でのクエスト攻略を諦めてしまった堕落勇者集団だ。
奴らの目的は同じ勇者を襲い、金品や装備品を奪うという追いはぎ行為。
排便という名に相応しいクソ漏れ野郎たちだよ!
「お前たちは弓術闘勇士と盾術闘勇士。それぞれ手練れの勇者だろう。作戦もなしに挑んだって俺たちみたいなボンクラじゃ勝機はない。だがこの状況ではどうかな?」
奴らは卑劣な方法を使ってこちらの手の内をすべて把握している。
しかもアタイたちは先のゴーレム戦のせいで体力を消耗してんだよ。
スージーに至っては矢を使い果たしてるしね。
こっちの分が悪いのは明白だった。
「やれ!」
男たちが一斉に切りかかる!
ヒューゴが前面に出て防御するが、あまりにも多勢に無勢だ!
押さえきれずにバランスを崩してしまった。
その隙を見逃さず、敵の弓師がヒューゴの首を狙って矢を撃った。
「させないンだわ!」
スラモンが飛び出してその矢を受ける!
スライムの粘性の体にズブリと突き刺さり、矢の勢いはゆっくりと遅くなる。
「スライムに物理攻撃は効かないンだわ」
すかさずスージーがスラモンの体から矢を引き抜き、自分の弓に構えて速射する。
それは的確に一人の敵を射抜いた。
「チイ!」
猛攻の中でヒューゴの背後に回った男が斧を振りかざし、とっさに受け止めた丸盾に大きな亀裂が入った。
「しまった! このっ!」
ヒューゴはそのまま盾で相手を殴り飛ばしたが、その衝撃でパクリと2つに割れてしまった。
「先輩!」
「何やってんだいヒューゴ!」
しかし、おかしいね……?
あのゴーレムの強撃を何度も耐えた盾がこの程度で壊れちまうなんて。
だがそんな邪推をしてる暇など与えられない。
アタイたちはいよいよもって追い詰められてしまった。
「うへへ! 闘勇士の弱点が何かわかるでやんすか? その戦術スタイル上、どうしても武器頼りになるってところでやんす。もうあんたたちに勝ち目はないでやんすよ!」
高笑いするヤンフェ。
「奴らは丸腰でやんす! 弓の一斉射で蜂の巣にしてやるでやんす!」
ヤンフェの一声を合図に、男たちは距離を取ってそれぞれが手持ちの携行弓を構えた。
ずるいじゃないか、あんな攻撃防ぐ術がないよ!
万事休すかい!?
そのときアタイの傍らでヒューゴがボソリと呟いた。
「俺が闘勇士だって? んなこと一言も言った覚えはないんだがなあ」
ババババッ!
無情にも大量の矢が放たれる!
もうダメだ!
「おいスライム! 体を借りるぞ!」
「ンだわ!?」
ヒューゴはスラモンを鷲掴みにするとブンと空に大振りした。
「ぬわあぁンだわー!」
遠心力でビヨーンと伸び切ったスラモンの体がアタイたちを包むように広がる。
「バカめ! そんな薄いスライムの皮一枚で矢を防げるワケがないでやんす!」
ヤンフェの叫びに応えることなく、ヒューゴは短く呪文を唱えた。
次の瞬間にスラモンの体全体が淡く発光した!
~アドヒージョマス(アビリティレベル56)~
撥術魔勇士の習得する防御魔法。
施術した物体に触れたものの加速度を減衰させる。
スラモンの伸び切った表面に矢の雨が降り注ぐ。
だがその矢先がスライムに触れるか触れないかのところでピタリと勢いが止まり、そのまま失速してバラバラと地面に落ちてしまった。
「な、なにぃ……!?」
「俺は盾を背負っちゃいたが、それに頼る戦い方はハナからしちゃいない。敵の注意を目に見えるところへ集めておくための予防線だよ」
……ヒューゴの奴!
こいつのジョブは闘勇士に見せかけた魔勇士。
油断を誘って足元をすくい、不利な状況を一発で形勢逆転させる、その一点のためだけに普段から盾使いのフリをしてたってのかい!?
ハイベンジャーズはまさかの事態にうろたえるばかり。
慎重を期して相手の情報を盗み、最善策を整えてやっとの好勢だったんだ。
こうなっちまえばもう平常心を保つことも難しいだろう。
ははあ、これが本当の意味でのカウンター攻撃だね!
続けてヒューゴは両手を胸の前で組み、また別の呪文を唱える。
すると彼の両腕がオレンジ色に発光した。
「ゴブ子! ロケット花火は残ってるか?」
「え? ああ、まだ一本あるよ!」
「俺に向かって撃て! そいつに弾性係数を上乗せする!」
なんだか意味がわからないが、とにかく言われるまま花火をセットしてヒューゴに向けて撃ち込んだ。
ヒューゴは腕を大きく振って接近するロケット花火を弾き飛ばす。
すると以前のスージーの弓矢と同じく、花火にオレンジ色の光が乗り移ったようだった。
~アド・エラスト(アビリティレベル45)~
撥術魔勇士の習得する防御魔法。
対象物の持つ弾性力を上昇させる。
対象物が障害物にぶつかって跳ね返るたびに弾性力が付与され続ける。
ヒューゴを経由した花火は石壁や天井に当たっては跳ね返る。
まるでスーパーボールをコンクリに全力で投げつけたときのようだ。
しかもみるみる速度が増していくではないか。
すでに目にもとまらぬ速度でそこら中を駆け巡っている。
「ゴーレム戦での花火の動きを数十倍にして再現してやった。ここは四方を壁に囲まれた閉鎖空間だ。物にぶつかるたび弾性は文字通り跳ね上がっていくぜ」
「ひいい!」
「ぎゃあああ!」
「やんすーッ!」
花火は止まることなく男たちにぶつかっては弾け飛び、とんでもないダメージ値を叩き出している。
その隙を突いてジョニーが拘束から抜け出した。
「助かったぜ!」
「俺たちも巻き込まれない内にトンズラするぞ!」
走り出したアタイたちの背後からヤンフェの断末魔の叫びが追ってくる。
「チクショオー! お前たち、許さないでやんすからなーッ!」
振り返らずに走り続けるアタイらだったが、今の騒ぎのせいで完全に出口へのルートを見失っちまった。
依然として余震の頻度は増えている。
ほとんど途切れることなく続く横揺れに足元もおぼつかないくらいだ。
さすがにもう時間がないよ!
「一体ここはどこら辺なんだい!?」
「おそらくまだダンジョンの中間層。タイムリミットまでとても間に合わないわ……」
「そんなぁ!」
絶望感に力が抜けていくようだった。
――――そのとき、なんの前触れもなくすぐ横の石壁がズズズと動いた。
隠し扉のギミックがひとりでに開いたのだ。
扉の先には真っ暗な空間があり、その奥にはなんとゴーレムが佇んでいた。
「ゴーレム!? 俺たちを追って来やがったのか!」
「泣きっ面に蜂なンだわ!」
「これ以上は戦えないわ……!」
とっくに満身創痍だってのに、あとどれだけアタイらを窮地に追い込めば気が済むんだよ!
もう勘弁しておくれ!(泣)
つ・づ・く
★★★★★★★★
次回予告!
クソったれ!
クソエルフとクソ漏れンジャーズを撃退したってのに、今度はクソゴーレムのお出ましかい!
これまでの戦いでクソヒューゴとクソスージーの武器はなくなってるってのに!
早くしないとこのクソ遺跡の扉が閉まって生き埋めクソライフが始まっちまう!
クソにクソを上塗りするようなクソピンチだね!
クソのゲシュタルト崩壊でクソが漏れそうだよ!
【第33話 ゴブリンガールはダンジョンを脱する!】
ぜってぇ見てくれよな!




